船は朝鮮へ行く/ナジム・ヒクメット


 在朝鮮トルコ軍部隊の編成を更新するため、トルコ本国で新規の軍隊が補充され派兵されるであろう。
 朝鮮戦争中にトルコ軍部隊が更新されるのは四度目である。

× × × 
 

 トルコの刑務所は、トルコ軍部隊朝鮮派兵に反対した愛国者や平和擁護者で充満している。囚人のなかには労働者、農民、手工業者、男女学生、知識人たちがふくまれている。軍の営倉に入っている囚人は拷問や責苦をうけている。軍事裁判所の検察官は彼らに絞首刑を求刑する模様。
新聞記事

世間では子どもたちがそだってゆく
    父親の眼のまえで
父親のほうに這いずって
    そのひざによじのぼる、
眼玉をまるめて
    「パパ」という
    家じゅうが興奮する。
ぼくの男の子がそだってゆく
    写真のなかで
    音もなく
    動きもなく。
世間では父親が手をひいて
    息子をあそびに連れてゆく。
そして父親がおしえてやる
    かぶと虫を
    木々を
    草を
    ラフミ家の犬を。
世間では父親がパンを家にもちかえる
タコをもちかえる。
ぼくの胸をさいなむ苦痛、
果実をもぎとられた枝の苦痛。
眼のまえに
ボスファラスへの道がある
この道を忘れられようか?
両刃のナイフが
       ぼくの胸でうずいている、
おさないわが子へのノスタルジヤが イスタンブールへのノスタルジヤが。
おお ナジム・ヒクメットよ!
別離はこわくないのか?
耐えられなくはないのか?
おまえの苦痛は重くはないのか?
それともひとの幸福がうらやましくはないのか?
世間では父親がイスタンブールの監獄のなかにいる、
息子が昼ひなか
柱に吊されようとしている

ぼくはモスクワにいる
ぼくはとうに監獄の格子を忘れた
ぼくは自由だ
朝方の風のように
人民の歌のように。
おまえは わが子はあそこにいる、
     ぼくのメメッドよ
     おまえはまだちいさいのだ
おまえはちいさすぎるから
            吊されないのだ。
船はイズミールをはなれる
イチジクをつんでいるのか?木材をつんでいるのか・
船はイズミールをはなれる
人間の肉をつんでいる
船は青い海をすべる
すべる すべる
どんどん早く。
船は数万トンの悲しみを運んでゆく
朝鮮へ
朝鮮へ……

兄弟たちよ!
世間の息子が
罪なき血を流さぬように、
世間の父親が
      パンとタコを
      家へもちかえれるように、
船がイズミールで
        人間の肉を
             積みこまぬように、
船がイチジクと木材を積みこまぬように、
船が悲しみを朝鮮にはこばぬように、
おまえの兄弟たちがぼくらの国で
         なんでもできるように
         したいことはなんでも。
人びとよ
善意の人びとよ!
声をはり上げろ 
       銃口よりも高く、
銃声よりも大きく叫べ
       「止めろ!」と、
喉の輪を
    死刑執行人どもに締められないように。

中本信幸 訳『ヒクメット詩集』飯塚書店、1965年

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