梅宮の本音
休日、お墓参りに来ていた。
川辺でとってきた花を供え、お線香をあげた。
一通りやることが終わって伸びをしていると、前の方のとある墓の前に人が立っていて思わず声を上げた。
蘇枋?
私服だけど耳に付けているピアスですぐにわかった。
俺は近づいて蘇枋に声をかけようとしたが、咄嗟に口をつぐむ。
お墓にいるってことはそういうことだよな…
思いとどまってそのまま立ち去ろうとしたが、俺の足音に気づいた蘇枋はこっちを向いて歩いて来た。
「梅宮さん」
「よお」
穏やかに微笑む蘇枋に軽く手を振った。
「悪いな邪魔して。もういいのか」
「はい大丈夫です」
蘇枋はそのまま歩き出したので俺も並んで歩く。
チラッと横を見て私服姿の蘇枋に目を留める。
蘇枋が気づいて不思議そうな顔で俺を見上げる。
「なんですか?」
「いや、なんか蘇枋の私服初めて見たから…なんか珍しくて」
「変ですか?」
蘇枋が自分の服を見下ろして聞く。
「いや全然。むしろ似合ってるぞ」
蘇枋は薄紫色のロングコートを羽織っていた。
こういう大人っぽい服を平気で着こなす蘇枋に感心した。
「梅宮さんは独特ですね」
蘇枋は可笑しそうに笑って俺の服を見た。
「いまバカにしただろ」
「してませんよ。梅宮さんらしくていいなと思います」
静かに笑う蘇枋を見て、俺も笑みがこぼれた。
「この後の予定は?」
のんびり二人で歩いていたら商店街の入り口まで来ていた。
「これから桜君たちと見回りがあります」
「そっか。なら俺も同行しようかな」
「蘇枋さーん!」
後ろから声がして、振り返ると手を振る楡井と桜がこっちに歩いて来た。
「なんで梅宮がいんだ?」
桜が怪訝な顔を向ける。
「えっと…」
正直に言っていいのだろうか。
チラッと蘇枋を見ると、桜も蘇枋に視線を向けた。
蘇枋はゆっくりと口を開いた。
「たまたまそこで会ったんだよ。梅宮さんはお散歩してたんでしょ?」
蘇枋と目が合い、俺も話を合わせる。
「そうなんだよ。今日は天気がいいからな」
胡散臭さが丸出しで桜は不満な顔をしていたが、それ以上聞いてこなかった。
3人は前を向いて歩き出したので、俺も後ろからついていく。
やっぱり桜たちには話してないのか‥‥‥
まあ、何でもかんでも話す必要はねえからな
前を歩く3人は楽しげに話している。
「蘇枋さん私服おしゃれですね」
「ありがとう。にれ君もその柄可愛いね」
「犬か?」
「クマです。桜さんはシンプルですね」
「オレは黒と白しか持ってねえ」
「黒のジーンズだとさらに脚が長く見えるね」
「お前もじゃん」
蘇枋が微笑んでいるのが見えて、ふと思った。
蘇枋は同級生の間では頼られるタイプだろう。
だから自分の奥底にあるものを自ら他人に話すことはたぶんないと思う。
だとしたら蘇枋は誰に、何に頼っているんだろう。
穏やかに笑う蘇枋を見ていると、やっぱりお墓のことが気にかかる。
「おい」
いつの間にか桜が隣に立っていた。
「ん、なんだ?」
「あいつ何かあったのか?」
桜の視線は、楡井と話している蘇枋に向いている。
バカだなオレ…
蘇枋を見つめる桜の真っ直ぐな眼差しを見て、俺はそう悟った。
「何笑ってんだよ」
オレは笑みを浮かべていたらしい。
「桜、蘇枋のこと頼むな」
「は?なんでだよ」
桜が眉をひそめて俺を見上げる。
「桜みたいに気にかけてくれる奴がいればそれでいいんだ」
俺は自分に言い聞かせるようにそう言った。
さっき考えていたことは杞憂に過ぎない。
俺が心配しなくても、蘇枋には桜や楡井のように自分のことを思ってくれる仲間がすでにいるんだな
「俺の話ですか〜?」
桜と話していたことが聞こえたのか、蘇枋が振り返って俺を見る。
「蘇枋、お兄ちゃんにもなんでも言ってくれていいからな」
蘇枋の頭をわしゃわしゃ撫でながらそう言った。
本音を言えば、俺にも頼ってほしい
普段から大人っぽい蘇枋を自分の手で甘やかしてやりたかった
「お前そんな顔すんだな」
桜が目を丸くして蘇枋を見ている。
「ん?」
俺も腕にすっぽりおさまる蘇枋の顔を覗き込んだ。
「あわゎぁ。蘇枋さんが照れてる」
楡井が口元に手をやり、目をキラキラさせて蘇枋を見ている。
「にれ君、ちょっと黙ろうか」
「え、わぁー」
俺の腕をすり抜けた蘇枋が、楡井の手を引っ張ってスタスタ前を歩き出す。
そんな二人の後を追いながら、俺と桜は顔を合わせて笑った。
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