本と人生

今では呑気にのらりくらりと人生を過ごしているが、小さな頃はそうではなかった。

家庭内の不和、それによってコミュニケーションに自信が無く虐められた事、延々と続く不安に精神的にかなり追い詰められ、実際本気で死のうとした(幸か不幸か失敗した)

気分転換にも金が無ければ娯楽も楽しめない、友人もいなかったので、行先はもっぱら図書館だった。
元々好奇心が強かったのもあり、見たことも無い本に目が踊った。
片っ端から読んでみたが、特に心を惹かれたのは、植物図鑑と純文学小説だった。
動物や魚図鑑は、中々本物を見る機会が無かったが、図鑑に乗っていた植物は意外と身近にある、小さな芝桜、冬のナナカマド、ころころ転がって背比べをするどんぐり。発見の楽しみを見つけ、小さかった私は直ぐに植物探しに熱中した。

中学生にもなると流石に大っぴらに植物探しも恥ずかしく(今でもしょっちゅうやってしまうが…)また1人でつまらない、苦しい時間を過ごしていた。
そんな時に、唯一仲の良かった図書係の先生がオススメしてくれた本の中の「春は馬車に乗って」が何故だか脳に深く住み着いた。

この時は、正直この小説がほとんど作者の自伝であったこと、妻が治る見込みのない病気にかかっていたことなんて深く考えず、なんとなく大変そうだなぁと考えて読んでいたが、病に苦しむ妻に悩んで、それでも最期まで傍に居ようとする途方もない愛の深さ、やせ細り、命が薄らいでいる中に、生命のさかりの春の花束を受け取り愛おしむ姿が、当時の私にはまっすぐ心に刺さる尊いものに思えた。この時からスイートピーは私の中でいっとう素敵な花になった。

読んできたものには難しい文字もある、長すぎて読めない本もあったけれど、それでも気になるものは片っ端から読んだ。たった一人きりの時間だったけれど、ページの中から夫婦の硬い絆、自由奔放な生活、時にはおぞましい話…。今まで見ることの出来なかった、本当も嘘も書かれた人たちの世界を見て、なんだか自分も勝手に、生きることが許された気分になった。人生が少しだけ明るくなった。

高校生、大人になってからは幸い優しい友人、知り合いにも恵まれて、昔ほど本の世界に入り浸ることは無くなったけれど、今でもたまに読み返すと、知らなかった世界に触れた時のどきどきした気持ちが思い浮かんで、懐かしい気持ちになる。
苦しいことばっかりでも、すっかりひっくり返って何年後かには呑気に生きられるかもしれない、そんな不確定な希望を宿してくれたことにずっと感謝している。

https://books.apple.com/jp/book/%E6%98%A5%E3%81%AF%E9%A6%AC%E8%BB%8A%E3%81%AB%E4%B9%97%E3%81%A3%E3%81%A6/id566886744

春は馬車に乗って
実はアップルブックで読めます、是非。


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