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強く抱き締めろ!自分で自分の価値を下げるべからず。

アートの真価を見極める

芸術家としての道を歩む中で、何度も自分の作品を誰に売るべきか悩む瞬間があった。アートは単なる商品ではなく、自身の思いと時間の結晶である。そんな中、ある出来事が心に深く刻まれ、作品を売る相手を選ぶことの重要性を教えてくれた。

十数年前、初めての個展を開いた。小さなギャラリーではあったが、心を込めて創り上げた作品が並び、期待と不安で胸がいっぱいだった。作品が世に出る瞬間は、まさに命を吹き込むような感覚だった。初めての顧客と出会うことへの緊張感に包まれていた。

展示初日、会場には多くの人々が集まった。様々な人が作品を見て回り、感想を口にしていた。そんな中、一人の裕福そうな男性が近づいてきた。彼は高級ブランドの服を身にまとい、自信に満ちた笑顔で話しかけてきた。「この作品、どれくらいで売ってくれるんですか?」

彼の言葉には、即金で買うという意図が見え隠れしていた。しかし、どうも彼の目にはアートに対する真剣さが感じられなかった。彼はただの投資家のように見え、作品の背後にあるストーリーや感情に興味を示さなかった。アートはただの金銭的価値ではない。作品には作者の思いが込められている。

次に訪れたのは、若いカップルだった。彼らは作品を前に立ち止まり、じっくりと見つめ、語り合っていた。その姿に、アートを愛する気持ちが感じられた。彼らは作品に込められたメッセージや感情を理解しているようだった。

カップルは作品について熱心に話し、興味を持って質問をしてきた。「この作品には、どんな思いが込められているのですか?」その瞬間、心の中に温かい感情が広がった。自分の作品を理解してくれる人と出会えたことに、感謝の気持ちでいっぱいになった。彼らに作品を売ることは、ただの取引ではなく、互いの理解と共感を深める素晴らしい体験となった。

その後も、ギャラリーには様々な人が訪れた。お金があるかどうか、地位や名声があるかどうかは関係ない。自分のアートを真剣に受け止めてくれる人との出会いが、一番の喜びだと気づいた。

何年か経った今でも、あの個展のことを思い出す。自分の作品をどのような人に売るかを選ぶことは、アートを生み出す者の責任だ。アートには、その人の人生や経験が色濃く反映されている。描けて後数十年、後何枚残す事ができるか。

だからこそ、自分の作品を売る相手を慎重に選ぶことが必要だと思う。

ある日、友人が「アートは投資だ」と言ったことがある。確かに、アート市場は金銭的価値を生むことがある。しかし、アートは心の豊かさをもたらすものでもある。如何に高額で売れたかを競い合っている風潮があるが、それよりも、共鳴し合える人に手渡すことで、作品は本当の意味で生き続けるのではないかと感じる。

アートの真価は、理解し合える人とのつながりの中にある。自分の作品を愛してくれる人々との関係が、アートをより価値あるものにしてくれる。未来に何億の価値があるかもしれない作品を、今、心から理解してくれる人に手渡すことが、芸術家としての真の喜びだと確信している。

そのためには、自分自身も高い意識を持ち、より良い作品を創り続ける責任がある。アートを通じて、人々に感動や喜びを届けることができるよう、日々努力しなければならない。ただし、そうした姿勢を持ちながらも、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉を忘れずに、謙虚さを持ち続けることも大切だ。

価値観の合う人々との出会いを大切にし、年齢や性別、国籍や人種を問わず、誰とでもそのつながりを築くことができる。アートは、安売りする必要はない。

自分の作品を強く抱きしめ、自己の価値を下げることなく、未来に向かってさらなる成長を目指す。アートの世界は広く、深い。その中で、真の理解者と出会うことが、何よりも価値のある体験なのだ。

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