FaY |　ラオスの民話　モン族の稲作起源

プロジェクト紹介

2021年11月からスタートした、Wisa(日本)＆CAF(ラオス・ルアンパバーン県)の協働プロジェクト、「民話と若者」FaY(Folklore and Youth | フォークロア・アンド・ユース)。

本プロジェクト は、Wisa(Wakamono International Support Association)が2021年から開始したラオスの若者とのデジタルユースワークプロジェクトです。ラオス人の子ども・若者たちがお年寄りから聞き取った昔話を文字起こしし、その英語の翻訳をオンラインでつながった日本人の中学・高校・大学生の学生たちがお手伝いします。その後、日本語に翻訳して、イラストをつけていきます。

プロジェクトについての詳細は、こちらのActivoへ

今回はモン族で語り継がれる、稲作の起源に関する民話を紹介します。

作品紹介

昔むかしあるところに、イエ・パオという男性がいました。
彼は、大きな森のなかにある、小さな小屋に住んでいました。
そこでは、果物の木が沢山育ち、多くの動物が住んでいました。

ある日、イエパオは稲とトウモロコシを育てることを思いつきました。
彼は焼き畑をし、稲とトウモロコシを畑に植えました。

一ヶ月が経ち、稲とトウモロコシはともにすくすくと育っていきました。
そしてそのほかの植物たち、雑草や木も同じように育っていきました。
毎日、稲、トウモロコシ、そして植物たちはより大きなスペース、より多くの日光を得るために争いはじめました。

「他の場所に移ってよ！」「私の場所は狭すぎるよ！」
「こっちに入ってこないで！」とお互いに言い合っていたのです。

木々は稲とトウモロコシの葉を叩き、毎日のように嫌味を言ってきました。稲とトウモロコシが泣いても、葉を叩くのをやめてくれません。

何日か経っても、木々は稲とトウモロコシを叩くことを止めませんでした。
耐えきれなくなった稲とトウモロコシは、イエパオに報告することにしました。「イエパオ！聞いてください！私たちのことを木々が毎日叩くのです。」
「本当かい！木々に、あなたたちを叩くことをやめるように伝えなさい。
８日以内に彼らがやめなかったら、私が彼らを切り倒してあげるからね。」

イエパオと話した後、稲とトウモロコシは畑へ戻っていきました。
そして、木々に言いました。
「イエパオさんに報告したからね！」

しかし、木々たちは稲とトウモロコシを叩くことをやめませんでした。
来る日も来る日も、叩き続けます。

ある日、木々たちはこう言いました。
「あんまりおしゃべりするなよ！　お前たちが頼りにしている、イエパオなんて来ないじゃないか。そらみろ！」　
木々たちは、稲とトウモロコシを馬鹿にしながらイジメ続けたのです。
稲とトウモロコシは、何も答えませんでした。
ただ、ひたすら涙を長し、悲しみに暮れていました。
イエパオが結局は来ないのではないかと、失望していました。

そんなある日の朝、一匹の虎が歩いてきました。
木々たちは稲ととうもろこしに尋ねました。
「あれがイエパオかい？」

稲とトウモロコシは答えました。
「いいえ、イエパオは黒い服を着て、帽子を被っているはずだもの」

二日目には、豚が走って目の前を通りすぎていきました。
木々たちは「あれがイエパオかい？」と尋ねました。
すると、稲とトウモロコシは再び、
「いいえ、イエパオは黒い服を着て、帽子を被っているはずだもの」
と答えました。

彼らは同じやり取りを七日間繰り返しました。
そして八日目。
ついに、黒い服を着て帽子をかぶったイエパオ がやって来るのが見えました。彼は腰にナイフを携え、手には煙草を持っていました。

稲とトウモロコシは、急いで木々に「彼がイエパオだよ。」と伝えました。
イエパオは畑に着くと、ナイフを取り出し、木々を切り倒しました。

誰からも叩かれる心配が無くなり、
稲とトウモロコシはとても嬉しい気持ちになりました。

「イエパオ、今日は助けに来てくれてありがとうございます。
次は、私たちがあなたを助ける番です。
家に帰ったらラオカオ（米蔵）を作ってください。
私たちがたわわに実り、黄色くなったら、あなたの家へ向かいます。」

イエパオもまた、嬉しい気持ちになりました。
しかし、彼は家に着くと眠ってしまいました。
食事の時間になってから、ようやく彼は起きました。
イエパオは毎日このように過ごし、
稲やトウモロコシのためにラオカオ（米蔵）を作ろうとはしませんでした。

数か月が経ちました。
彼はまだ、ラオカオ（米蔵）を作っていませんでした。
彼は森で狩りをして家に帰ると、
うっかり稲とトウモロコシたちの言葉を忘れて眠りにつくのでした。

そうしている間に、稲とトウモロコシはたわわに実っていきました。

トウモロコシは、稲に尋ねました。
「元気かい？そろそろ私たちのイエパオの家に行く準備をしよう。
彼もそろそろラオカオ（蔵）を作り終えてるんじゃないかな。」
稲は答えました。「そうだね！みんなで一緒にイエパオのお家へ行こう。
僕たちはもう数か月も太陽にあたっているからそろそろ休憩したいよ。」　彼らは喜んでイエパオの家に行くことを決めました。

「明日行くのはどうかな？」トウモロコシは尋ねました。
「うんうん、そうしよう！」稲は答えました。

次の日の朝、トウモロコシと稲は一列になり、歌ったり踊ったりしながら
イエパオの家へ向かいました。

しかし、イエパオの家に着くと、ラオカオ（米蔵）はまだできていませんでした。彼らは 、イエパオがいびきをかきながら寝ているのを見つけました。

「イエパオ、ラオカオ（蔵）を用意してくれましたか？」
稲とトウモロコシは尋ねました。
すると、イエパオは
「ああ、すっかり忘れていたよ。
今から用意するからもう少しだけ待っていて。」と答えました。

それを聞くと、稲とトウモロコシはとても悲しい気持ちになりました。

稲とトウモロコシは、
「あんなに前からしていた約束を守ってくれなかったんですね。
私たちは畑に戻ります。ここにはもう来ません。
もし私たちが必要になったら、自分で取りに来てください。」
と言い残し、がっかりしながら畑へ戻って行きました。

この悲しみのせいで、
稲とトウモロコシは日に日に細く、小さくなってしまいました。
その後、イエパオ はラオカオ（米蔵）を作り終えましたが、
稲とトウモロコシは一向にやって来ませんでした。
そこで、彼は畑に出向いていきました。

彼は稲とトウモロコシが、しおれて小さくなっているのを見つけました。
彼らは、もう自分たちでは立てなくなるくらいに、弱っていました。
イエパオは自分が犯した失敗を、心から悔やみはじめました。

彼は、竹を取りにいってカーイエイという竹かごを作り、
稲とトウモロコシをそのかごに入れ、稲蔵にまでもっていきました。
それはとても骨が折れる仕事で、彼はヘトヘトになってしまいました。

このことをきっかけに、イエパオはすっかり気持ちを入れ替え、
毎日、仕事に励む働き者になりました。
この出来事の後、稲とトウモロコシは小さくなり、
自分たちでは稲蔵まで歩いていくことができなくなりました。

そのため、人間たちは稲とトウモロコシを畑から運びだし、
稲蔵に持っていかなくてはならなくなったのでした。

おしまい