D'yer Mak'er (しゃあなぃか)

レッドツェッペリンの第五アルバムHouse Of The Holyは妙な作品で、巷間ハードロックバンドと見做されている割には、一向ハードな曲がない。冒頭からギターが腰高で、ニューウェイヴのそれである。どうも一種の倦怠期と言うか、ハードロックに飽きて、セッションであれこれ遊んでいるうち出来た曲がいくつも収められているらしい。元々ブルースやメタルのバンドのような様式一直線ではなく、何かと横道にそれるのが常だったが、ここに来て横道が本道なってしまった。印象的なジャケットが記憶に残るが、代表的なヒット曲があるわけではない。シングルが小ヒットになった曲があるのだが、これが奇天烈なことにレゲエである。なんでレゲエかと言っても、当時レゲエというものが流行り出したからという以外の理由はないだろう。このアルバムと同じ年にはボブ・マーリーのBurnin'が出ている。

D'yer Mak'erという奇妙なタイトルは、 Do you make herを発音どおりに綴ったもので、同時にJamaica(ジャメイカ)にも掛けている。無論レゲエだからだ。元は古いジョークであるらしく、詳しくはウィキペディアを見ていただきたい。この曲、歌詞が単純と言うかストレートと言うか、オールディーズポップスくらいじゃないとあり得ないよな、のレベルで、天下のハードロックバンドがこれをやるのは打ち上げの宴会芸くらいだろう。なぜかボーカルのロバート・プラントだけが気に入っていて、強引に米国でシングルカットしたところ小ヒット。ただしライブでは一度も演奏されたことがない。B面もジェイムズ・ブラウン風ファンクの丸パクリという徹底した色物路線だ。ちなみに日本盤もある。

この奇態な曲を聞いていたら、どうも関西の匂いがして仕様がなくなってきた。関東は理屈をつけて振り切るが、関西は理屈もヘッタクレもなく振り切れるのである。これは実は関西弁で歌ってるのではないか?コテコテやないのんか?アルバムの邦題は「聖なる館」だが、これはどこにあるのか?おそらく聖天下あたりに違いない。聖天下は天下茶屋駅の近くで、大変に目出度い字面の場所である。

きっとこんなことを歌っているのだ。たぶん。これは吉本新喜劇ではなく松竹新喜劇、藤山寛美の世界である。古臭いかもしれないが、50年近く昔の歌で、時代はびたっと合っている。

しゃあなぃか

なあ、なあ、なあ、なあ、なあ
行かんでええんや、お願いや
どっこも行かんでええんやで
お前に行ってほしゅうない

おい、おい、おい、おい、おい
泣きの涙にくれとるで
泣けて泣けてしゃあないで
お前に行ってほしゅうない

お前の手紙読んだらな
ドタマにカッカきよったわ
お前の話を読んだらな
悲しゅうなってしもうたわ
そいでもお前に惚れとるで
離すことなんかできへんわ
惚れとる、お前に惚れとんねん

もう、もう、もう、もう、もう
息するたびに、もうもうな
身動きするたび、もうもうな
どっこも行かんといてくれ

おい、おい、おい、おい、おい
ワシの心はズタズタや
お前のせいでズタズタや
お前に行ってほしゅうない

なあ、なあ、なあ、なあ、なあ
行かんでええんや、お願いや
どっこも行かんでええんやで
(お前に行ってほしゅうない)

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