毎月勤労統計の問題について
厚生労働省が『毎月勤労統計』の調査を正しく行っていなかったことが大きな問題になっている。その不正のために賃金が過小に推計されて、政府からの給付金に影響を与えている。問題は3つに分けられる。第1に、2004年から東京都で500人以上の事業所に対し全数調査ではなくサンプル調査に変更したことを、公表していなかったことである。第2に、サンプル調査に変更したにも関わらず、集計ウェイトを変更しなかったため、賃金水準の高い事業所が実際よりも少なく集計されることになったことである。第3に、2018年から集計ウェイトを本来あるべきものに変更したにも関わらず、それを公表しなかったことである。
一般には、全数調査をしなかったことが問題視されているが、サンプル調査に変更したこと自体はそれほど大きな問題ではない。適切な集計ウェイトを使えば、統計的には信頼がおける数字が得られる。問題は、集計ウェイトを間違えるというミスであり、サンプリング調査に変更したことを公表しなかったことである。また、集計ウェイトを正しいものに変更した際に、それを公表しなかったことも問題である。
では、どうしてこのようなことが起こったのだろうか。第1に、初歩的なミスに担当者たちが気づかなかったという意味で、初歩的統計学の知識が担当者レベルで共有されていなかったことである。第2に、役所の無謬性という問題がある。人間のすることだからミスは避けられないにも関わらず、公表してしまった統計を修正することがあってはならないと厚生労働省で考えられていたのではないか。研究者への統計データの利用がなかなか進まない理由の一つに、統計データのミスの発覚を恐れるという可能性もある。過去に、この統計の問題点に気づいた担当者がいた可能性は高いが、それを明らかにした場合の責任問題を考えると、その担当者はミスを公表できなかったのではないだろうか。
どうすれば、いいだろうか。第1に、統計担当者だけではなく、厚生労働省の幹部も統計についての知識をしっかりもって、このような初歩的なミスが発生しないようにすることである。
第2に、このようなミスが生じた背景には、統計に関する予算不足、人員不足が考えられる。担当者が多忙なために、単純ミスが発生した可能性が高い。また、人員に余裕があれば、統計実務に関する知識を組織として十分に蓄積することができただろう。統計予算が十分にあれば、そもそも全数調査をサンプル調査に変更する必要もなかった。
第3に、ミスが分かった段階での対処の方法である。統計データを第3者がチェックできるよな体制になっていたならば、統計のミスの発覚がもっと早かったはずだ。また、前任者のミスを発見した場合に、それを発見した人が損失を被らないように公表できる仕組み作りが必要である。責任問題だけを追求すると、ミスをしたことの証拠が残らないような方向に役所が努力をすることになる。それは、統計の質を低下させるだけである。
今回の事件は、日本の統計の信頼度を大きく低下させたが、これをきっかけに日本の統計をよりよいものにすることが重要である。また、何よりも正しいデータを遡及して迅速に公表することが望まれる。
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