チケット転売問題のコラムに頂いたコメントについて

山本一郎さんから「そういえばそういえばチケット転売問題」というエントリーで私のコラムにコメントを頂きました。新規ファンの開拓に安い価格での抽選制度が機能しているという論点です。これはその通りで、ファンとの長期的な関係を重視しているという議論の中に私自身はそれも含めていたつもりですが、確かに説明不足でした。

もう一点、私のコラムに対して別の方からもらったコメントグッズの購入のことが書かれていないという批判がありました。なるほど、アーティストから低い価格でチケットを提供してもらっていることへのファンの返礼という贈与交換において、ファンは熱心に応援することでお返しするだけでなく、グッズを購入することでもお返ししているのだと思います。最初から高い価格でチケットを販売するよりも、安い価格でファンに贈与を与えておいて、ファンからの返礼としてのグッズの売り上げによる利益の方が大きいのならば、興行側にとっては、利潤最大化につながると理解できます。

どちらの場合もアーティストや興行側は、ファンのためだけを思って安い価格でチケットを提供して抽選制にしているのではなくて、そうすることは利潤を最大化するための手法であって、せっかくの工夫がチケット転売業者によって乱されているということが、ポイントなのだということだと思います。

もしそうであれば、一部をオークションで売って定価との差額を寄付するという提案は、興行側にとってメリットがないということになるのかもしれません。

もう一点、アーティストを熱心に応援する程度は、「いくらまでならお金を出してチケットを買いたいと思うか」という指標は適切ではないという批判も多く頂きました。もちろん、そうですね。熱心さでは人に負けないけれどお金がない、という人も多いです。「チケットを購入するために何時間なら自分の時間を提供してもいいと思うか」という指標なら、行列に並んでもらって購入する制度が適切な熱意の測り方になります。アーティストは、そういう測り方がファンの熱意を測ることが適切で、そういう人にこそコンサートに来てもらいたいので、チケットを安く提供しているのかもしれません。この考え方ならアーティストが最大化したいのは、利潤ではなくて、何時間でもチケット入手に時間をかけてくれるファンをコンサートに集めること、になります。この場合なら、チケット転売業者が存在するとせっかく時間をかけてチケットを入手する仕組みにしたのに、それを壊されてしまう、ということになります。

いろんな要因があるのでしょうね。経済学者としては、「超過需要が明らかな場合に、どうして最初から高く売らないのか」ということを考えてみることが、問題の解決につながると思っています。将来的には、研修医のマッチング制度のようにアーティスト側が来てもらいたいと思うファンを選び出せるような仕組みができるのかもしれません。それなら経済学者も活躍できそうです。

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