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Sound On Sound誌(UK)による Focusrite Clarett+ 8Pre レビュー記事


必要は発明の母とはよく言うが、Cirrus Logicのコンバーターへ切り替えたことにより、Focusriteのオーディオインターフェース「Clarett+」は、大きく進化した (By Hugh Robjohns)

英国の有名プロオーディオメーカーFocusriteは、最高スペックの性能を求めるハイエンドの音楽を扱うスタジオオーナーに向けて、Thunderbolt接続のインターフェース「Clarett」シリーズを2015年に初めて発表。それから3年後のNAMM 2018では、より一般的なUSB接続に再構築した最新版モデルが紹介され、その結果、2Pre/4Pre/8Preは瞬く間に絶大な人気を博した。シリーズ全体の特筆すべき魅力のひとつは、最小モデルでもADAT入力を経由しClarett Octopreマイク・プリアンプ/コンバーターなどと接続すれば、アナログチャンネルを8つまで拡張できることだろう。ちなみに初代のClarett 8Pre Thunderbolt(Sound On Sound 2015年10月号)と、Clarett 8Pre USB(Sound On Sound 2018年3月号)の両モデルについては、筆者の同僚であるSam Inglisが解説している。

ところが昨年、FocusriteはClarett USBシリーズにおいて大きな問題に直面した。Sound On Sound 2021年9月号に掲載された“Chip Crisis"の記事でも説明したとおり、昨年の大火災で旭化成エレクトロニクス(AKM)の日本工場が、ほぼ消滅してしまったのだ! AKMは、プロオーディオ業界の多くに、高品質のA-D/D-Aコンバーターとデジタルインターフェースのチップを生産する主要サプライヤーの1つであった。 

言うまでもなく、FocusriteのClarettシリーズにはAKMのDACチップが多用されており、そのDACチップの安定供給がなければ、Focusriteはオーディオインターフェースを作ることができない。そのため、同社は代替ブランドのコンバーターを使用するためにClarett製品を再設計することを余儀なくされてしまった。もちろん、これは決して簡単な作業ではない。 

しかし、Focusriteはこの不運な状況を前向きに捉えようと、Clarrettシリーズのすでに確立されたパフォーマンスを進化させることにした。新しい高機能コンバーターに選ばれたのは、定評のあるCirrus Logicというメーカー。ADコンバーターには先進のマルチビット・デルタ・シグマ・アーキテクチャと24ビット出力を備えたCS-5381チップを、そしてDAコンバーターには32ビット・オーバーサンプリング・マルチビット・モジュレータを使用したCS-43198コンバーターを採用。またFocusriteのエンジニアによる緻密な設計により、コンバーターに関連する出力フィルターパラメータの最適なパフォーマンスを実現している。この大幅な設計変更による技術的改善は製品名にも反映され、「Clarett+」と名付けられた。

再設計されたClarett+の最大の特徴は、ダイナミックレンジの拡大と全体的な歪みの低減だろう。もちろん、前モデルのClarettもこの点では優れていたが、その改善は数値上で表れるだけでなく、特により難しい作業下では耳で違いがわかるほどだ。現代のデジタル機器がいかに優れているかを考えると、Focusriteのアップデートは技術的にかなり大きな前進と言えるだろう。

フラッグシップモデル「Clarett+ 8Pre」の概要

筆者は今回のレビューのためにフラッグシップモデルであるClarett+ 8Preを提供してもらった。このモデルは「強力なスタジオグレードの18入力/20出力オーディオインターフェイス」と説明されている。技術面での再設計によるパフォーマンスの向上を除けばClarett+ 8Preは前モデルとほぼ同じのため、完全なフルスペックについては上記のSam Inglisのレビューを参照してほしい。しかしながら、使用時の重要ポイントとして、本機の主電源は内蔵のスイッチモードPSU(IEC規格インレットでAC100〜240Vに対応)を通じて供給され、ホストコンピュータへの接続はリアパネルのUSB-Cコネクタを使うという点が挙げられる(USB-C to USB-CケーブルとUSB-C to USB-Aのケーブルが同梱されている)。

高品質な8基のプリアンプはすべてマイク/ライン入力用のコンボジャックで接続でき、6基がリアパネルに、さらに2基がフロントパネルに搭載されている(ハイインピーダンスで楽器入力できるJFETモードも搭載)。またアナログライン出力はリアパネルにTRSジャックで10基、うち2基はモニター出力専用でフロントパネルには独立したステレオヘッドホン出力が1組用意されている。デジタル接続は、S/PDIF(RCAフォノまたはオプティカル)およびADAT(S/PDIFを使用しない場合)により、10チャンネルの入出力に対応している。ADATを使ったインターフェースは、デフォルトのサンプルレートでは8チャンネルまで可能だが、S/MUXプロトコルを使用した高いサンプルレートでは、比例して少なくなる。 昔ながらのMIDI入出力に対応したDINソケットが1組あり、またワードクロック出力できるBNCコネクタは、接続された他のデジタル機器(入力拡張のためのClarett OctoPreなど)との同期を可能にしている。

トランスレス設計ながらISA110の伝統を受け継ぐプリアンプは、ゲインステージングはISA110と同様にNE5532オペアンプをベースとする一方で、ISA110で使われたLundahlの入力トランスは、トランジスタを使用した電子バランス型ディスクリート回路の入力段に置き換えられている。それでもこの設計は驚くほど低いノイズ値(EIN:-129dBu A-weighted)を達成しているので、十分なヘッドルームの広さを確保できる。マイク入力レベルの最大値は非常に余裕のある+18dBu、ライン入力は文句なしの+26dBで、楽器入力も+15dBuにまで対応可能だ。最大チャンネルゲインが57dBのため、本当に小音であれば直接扱うのは難しいだろうが、基本的には音源のレベルが高くても低くても問題ないだろう。

またFocusriteは、プリアンプの各チャンネルに適用可能なオールアナログ方式の「Air機能」を継承させている。この機能を有効にすると、高域が2段階で+4dBブーストされ、トランジェントを鮮明にしたり、プレゼンスの明瞭度を上げたり、そして、録音に“Air(空気感)”を与えたりすることができる。特にボーカルやアコースティックギターには魅力的なエフェクトだが、筆者としては慎重に使用するべきだと考える。というのも、利点が多すぎるのだ! 面白いことに、Air機能を有効にすると、マイクプリアンプの入力インピーダンスが6.2kΩから2.2kΩに下がる。これによりダイナミックマイクの音色が若干変化するかもしれないが、Airの効果に完全に打ち消されてしまうのでまったく問題はない。

フロントパネルには、ファンタム電源(チャンネル1〜4と5〜8の2グループに切り替え可能)をはじめ、プリアンプチャンネルのゲイン、ヘッドフォンボリューム、モニター専用(独立したボリュームコントロールとDIM/ミュートボタン)のコントロールボタンがある。さらにエレガントなFocusrite Controlのアプリ(PC/Mac/iOS用)を使えば、リレースイッチ式のプリアンプ設定(チャンネル1-2のLINE/INSTモード、全チャンネルのAirモード)やモニターミックスを作成するためのUSBチャンネルと入出力間の内部信号のルーティング設定や内部サンプルレートの選択などのリモート操作も可能だ。


ベンチテスト

A-Dコンバーター面では、新型Clarett+のダイナミックレンジの数値は前モデルとほぼ同じである。今回、筆者自身がAudio Precision社のシステムを用いてベンチテストを行った結果、AES17ダイナミックレンジは117.7dB(A-wtd)となり、公表仕様の118dBと適合している。Clarett+ 2Preでは119dB(A-wtd)、と従来品より若干良い結果が得られると述べられているが、その理由は不明である。

しかし、A-Dコンバーターのダイナミックレンジの数値は基本的に変わらないものの、歪みとノイズ性能は向上しており、THD+Nの数値は従来の-107dB(0.0004%)から-110.1dB(0.0003%)に減少している。実質的にも、特にヘッドルームに余裕を持ったトラッキングを行った場合、より鮮明でクリーン、そして透明感のある録音にわずかではあるが変化する。

新しいClarett+は、測定上も音を聞いてもほぼ同じだが確かに改善されており、特に本格的なハイエンド機器に対して非常によく機能している。

特筆すべきはダイナミックレンジが6dB増えたことで、歪みも3dB低減している。8Preの新しいコンバーターは、DAWやデジタル入力からの0dBFSが、アナログ出力での+18dBuに対応するように調整されている。筆者のベンチテストでも、D-AコンバーターのAES17ダイナミックレンジは、123.9dB(A-weighted)という数値が得られた。これはFocusriteの公表値である124dBに相当し、前モデルの118dB(A-weighted)より6dB近く向上している。

D-AコンバーターのTHD+N値は-106.1dB(公表値は-106dB)で、これも前モデルの-103dBから非常に価値ある改善となった。ヘッドホン出力のダイナミックレンジも3dB向上し、THD+N値も3dB低下した。これはノイズが少なく、リバーブテールや部屋の雰囲気など、細部に至るまでよりクリアに再現できることを意味する。

ここで実際に測定した結果を説明すると、Clarett+のバランスライン出力はAES17ダイナミックレンジで124dB(A特性)となっており、筆者がこれまでに測定したインターフェースやコンバーターの中ではBenchmark DAC2 HGCのようなハイエンド製品と並んでトップ5に入るため、RMEのADI-2 Proよりも性能が高いことがわかる。またA-D変換における118/119dB(A特性)という数値は、FocusriteのRedNetやISAデジタルオプションカードをはじめとした、CrookwoodのM1マスタリングコンソール、PrismのTitan/Lyraインターフェース、CranborneのR500ラックといった一流品と肩を並べてトップ10入りするほどである。このように中価格帯のスタジオ用インターフェースとしてはもちろんのこと、誰の目から見ても優れた仕様になっている。

Clarett+の総評

予期せぬ事態により、FocusriteはClarettシリーズのアップデートを余儀なくされたが、結果的に価値のある優れたものになった。新しいClarett+は、前モデルと似ていながら、数値的にも音質的にも勝っており、ハイエンドな機器もしっかりと機能してくれる。

付属のソフトウェア

Clarett+シリーズには、ダウンロード可能なソフトウェアバンドルが付属しており、数々のレコーディングソフトウェアをはじめ、ミックスプラグイン、バーチャル・インストゥルメントが入っている。たとえば、FocusriteのRed 2(5バンドイコライザー) やRed 3(コンプレッサー)のエミュレート版のほか、Brainworx Bx_console Focusrite SCのプラグインが含まれている。このプラグインは、Focusriteの名機ISA 110モジュールのチャンネルイコライザー部分と、ISA 130モジュールのダイナミクス・プロセッサーをエミュレートした同社推奨のプラグインである。またこのバンドルには、プラグインコレクティブのメンバーシップも含まれるため、様々なプラグインを無料または割引価格で利用することができる。

長所

  • 音質と技術的パフォーマンスをさらに高次元へと引き上げた。

  • シリーズ最小モデルでもADAT経由での拡張が可能。

  • Focusrite Controlユーティリティとドライバーの性能は非常に優れたままである。

  • Air機能は便利なエフェクトである。

短所

  • コストパフォーマンスを考えるとなし。

まとめ

高い人気を誇るFocusriteのClarettシリーズの高性能なインターフェイスが、やむを得ない事情から非常に歓迎すべき予想外のアップグレードを遂げた。

Focusrite Clarett+ 8Preの製品ページ:

※本記事は英Sound On Sound誌の許諾のもと英語の記事を日本語訳した翻訳記事になります。元記事へのリンクはこちら:


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