見出し画像

《PSYCHO-PASS》 二次創作小説『DARK RIVER』第一章(その1)


記憶Ⅰ


  ぼくのお父さんはいつも仕事がいそがしく、あまり家へ帰ってきません。
 
 たまに帰って来るときも、たいていぼくが眠っている真夜中で、ぼくが起きるころには出かけてしまっています。

 でも、そんなお父さんが仕事を休んで、ぼくがずっと行きたいと思っていたアトラクションパークへ連れて行ってくれたことがありました。

 お父さんと一緒のアトラクションパークはすごく楽しかったです。でも、ぼくの心に一番のこったのは、パークからの帰り道でおきたことでした。

 ぼくたちがパーク近くの駅に行くと、入口のそばに座りこんだ男の人を、別の男の人が殴っていました。

 殴られている人は頭をかかえて泣きながらあやまっているのに、殴っている人は怒鳴りながら殴るのを止めようとしません。

 駅にはたくさん人がいましたが、誰もその人たちを見ないようにして通りすぎて行きます。

 ぼくは「ひどい」と思いました。でも殴っている人は身体も大きく、顔もすごく怖かったので、思わずぼくも皆のように目をそらして通りすぎようとしました。

 ぼくは胸が痛くなりました。だってぼくが憧れているアニメのヒーローなら、きっと殴るのを止めるだろうと思ったからです。

「ヒーローはアニメの中にしかいないから……」ぼくは心の中で、そんなふうに言いわけをしました。

 その時でした。お父さんは殴っている男の人へ近づくと「お兄さん、もうやめておきなよ」と言ったのです。

 男の人は驚いたようにお父さんの方を見ましたが、すぐに「なんだてめぇ!?」と怒って、お父さんに殴りかかりました。

 でもお父さんは、すごいスピードで男の人のパンチをよけると、その腕をつかんで背中へ回し、そのまま床へ押さえつけてしまいました。 

 男の人は逃げようとして暴れたけれど、お父さんにガッチリ押さえつけられて動くことさえ出来ません。

 少しすると警備の人たちがやって来てお父さんから話を聞き、男の人たちを連れて行きました。

 警備の人たちが行ってしまうと、お父さんはぼくに「ごめんな、怖かったろう」と言ってニッコリと笑いかけました。

 お父さんの笑顔は、ぼくがこれまで見たどんなヒーローよりもカッコ良くて、見ていたらなぜか目から涙がこぼれてきて……

 そんなぼくにお父さんは勘違いして「ごめん、ごめんな」と何度もあやまってくれましたが、そのたびにぼくは涙があふれてしまって止めることができませんでした。
 
 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?