再生記（2.20）　空とマスクの店　稀刹

気を失った。地下6階で。
大切な人の姿を見にやってきた地下6階は、きっと天国に近い。

夕ご飯のカレーを大急ぎで食べてから服を選ぶ。服に迷って電車を数本見送り、駅まで走る。
走った挙句乗り逃し、私鉄とJRを間違え、反対側の電車に乗る！ミスのフルコンボだドン！片道1時間が1時間半だ。
予定より30分も遅れるやん。閉店じゃん終わりじゃん。

まあそれでもなんとかたどり着いた。地下にあるため空気が薄すぎて気を失うお店に。
働いてる人たちはみなそれぞれ飾りつけした酸素マスクをしていてステキ。
大切な人もはにかみながらマスクをつけてら。似合うなあ。

このお店にいる人たちはみんな面白そー話したいなーって感じだけど、なんにせよ30分しかないし、ステキな空気濃度に慣れんとむずい。け、決して人見知りじゃ、ない、ぞ。ないんだからねっ！たぶん。

まあ入店の仕方はいつも下手っぴだけどね。扉は怖いから。少し待ってみ、恐る恐る開けてみ、やっぱ閉める、みたいな。やーい挙動不審。アハハハハー

お店はかわいいの空気でいっぱいなので、呼吸困難になった。もちろんいい意味で。
神様の声も流れてるし、どうやら天長（テンチョウ）とは信じるものが似てるらしい。今日店ついて発した二言目も「かかってる曲やくしまるえつこだ！」だもの。入店時に相対性理論の曲が流れてるなんて運命じゃんね。

そーいやどっかに「yx」って書いてたっけ、あれはわかる人にだけわかる、やくしまるえつこの暗号。昔は8940だったんだけど、最近はyx表記になってる。

あーパスピエもいいですねえ！この選曲、好みすぎて・・・！「あたりまえつこ」が流れるお店があると思いませんでしたよ。隣でお客さん歌ってるし。サイコーか。
自分の好きな場所で好きな音楽を流して人に聞いてもらえるの、心の底からいいな。お昼の放送室だね。

大切な人のオリジナルドリンク、「そららし」を頼む。
「地下のお空はミドリ色」というのをコンセプトに、ヒツジのモコモコ、羊毛が浮かんでいる、空らしい（？）飲み物。空気と馴染むように温めてあって湯気が浮かぶ。たしかに蒸気が生まれてて空っぽい。
初めて飲む羊毛は、けっこーお腹にたまる。とゆーか濃い…けほけほする。これが羊毛か……！
ごめんな、という気持ちでミルクで薄めてもらった。あったかいお酒に弱いのかも。この前大好きなお店でホットワイン飲んだ時も、けほけほしたし。気化状態のアルコール　こうかはバツグンだ！

何しろ空気が薄いので、気化したアルコールの割合が多くなる。だからみんな顔が赤いのかな。

最後は写真を撮る。初酸素マスク姿の写真。空気の薄いところで撮る写真は色が変わるし手のひらサイズになるのだ、よかろ。何もかも慣れないながら、初めてシャッターを押す。サインをもらって帰る。

きっと他の人にとってはなんでもないことなんだけどね、うれしいことがあった。
大切な人が、私のことをほかの人に「友人」って紹介してたの！
お客さんじゃなくて友人なの。うれしい。聞いてた人驚いてたわ。たしかに自分はお客さんっぽいけど友人なんですよ〜へへ

最近見た親友3人組を描いたお芝居に影響されて、「友達」がぐらついている。主人公と自分の比較なんてしょーもないのにね。あれ、私、この芝居で描かれる「友達」っていたっけ？って。

だから、大切な人が「友人」って呼んでくれたのがうれしい。ちなみに友達じゃなくて「友人」をつかう言葉のセンスがすき。

この人の言葉、すごい輸血させてもらってて、私の体を今も巡っている。ときどき、自分で書いたのに、あの人っぽい言葉選びだなーってのがあるとうれしい。すきな文体や語彙が身体に染み込んでいる……

店を出たとき、大切な人がお見送りしてくれて、エレベーターが来るまでやりとりした。こういうとき、地下だっていうのはいいよね、なかなか来ない。

何気なく、「今日初めて変装してるところ見たかもしれない」といった。
相手は少し戸惑ったみたいだったけど「そうだね」って返してた。

あー、やっちゃったかな。
（私は人に会うときはいつも変装してるよ、
　　特に知り合いと会うときなんて入念にね）
　　　　　　　　　　　　〇 o 。(６ω６）

とか思ってたらどうしよう。人の装いの変化にこまめに気づきたい人生だった。もっと装いを学ぼう。

帰り道、好きな人たちのためなら私はきっと本気になれるんだろうとふと思う。悪くいうと自分のためだけだと踏ん張れない。怠ける。

好きな人たちと接するたび、なにかあったときにサポートできる手立てを用意しておきたいし、そんな時に頼られるだけの力をもっていたい、と強く思う。

少なくとも1年後までには、はじめてのお酒を作ってくれた、とびきり好きなお店にもっと通うなり、なにかしたい。まだ甘えてばかりだからな〜〜。
なんらかで恩返しがしたい。あのお店は本当に思い出でいっぱいだから。大切な人と出会ったのも、あのお店だし。

家に着いたら、もてなしてくれた人からメールが来た。マメだなあ。
うーんマメ科なら、この人は、さやいんげん！！！
出会ってから何年か経ってるけどこの連想は初めてだな。