せんたくせむ

遮光カーテンから漏れ、すき間から現れる日光。午前11時47分のまぶたにふれて、開く。眼球に接した空気は邪魔者扱いで、体は布団の中に閉じ込められる。
再び目が開けば、少し淀んだ空気が待っていた。午後1時29分。カーテンを開ける。
ひかり。ヒカリ。光。

ひから
 ひかり
  ひかる
   ひかれ
    ひかろ
              おきよう

全開のカーテンからは、力のみなぎるポワポワのかたまりがガラスを飛び抜けて体あたりしてくる。ご無沙汰しておりましたね、おげんきなようで。

自分が3個は寝られないような狭い部屋には、自分の皮がぎっしり。妖怪とかモンスターとかそういった類のものたちに似ている。綿100とかウール60とかポリエステルって名札のついた彼ら。私は、彼らを毎日、身につける。着て脱いで着て脱いで着て捨てるを繰り返している。

討伐せにゃ、この部屋は我のものぞ。

本体の私よりも重たい彼らを一網打尽にして向かうは、白い竜巻。
竜巻はやさくて、都合よく、いつも湖の上で発生する。

飛んでゆけー飛んでゆけー
重たい皮を湖に投げ入れると、瞬く間に湖の静寂が崩れる。水面は円を描き、奥の方から、しゅんしゅるん、じゅばん、どばばん、と鳴る。
はじまるぞ。
ピンク色のシロップを慎重に垂らす。とくとく。絶対に花でも草でも樹木からでもできていないシロップなのに、濃〜いヒマワリの匂いがする。
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あぶくができては消えて、できては消え。

じきに竜巻が発生した。
私380個分くらいの水を巻き上げて、竜巻は進んでいく。轟音を町じゅうに響かせて。

空はとても青くあった。
湖の近くにあった住宅が半壊した。
森に住んでいた鳥は顔を見合わせて東へ飛んでいった。
車は渋滞した。
お年寄りが小石につまづいた。
飛行機は予定通り運行した。
サラリーマンは歩みを止めなかった。
新幹線は止まった。
風は新聞屋を廃業へ追い込んだ。
雨は桶屋を儲けさせた。
銭湯は開店を早めた。
赤ちゃんは立ち上がるようになった。
恋人は別れを告げた。
電子音がイヤホンからこぼれた。
空はとても青くあった。

竜巻は勢力が弱くなり、けたたましい悲鳴をあげて完全に消滅した。
終わりの地点には、大量の皮がびちゃびちゃになって墜落していった。
水も滴る皮たちはも一度腕の中に捕らえられて、大砲のように息を吐いている。
片腕を皮に占領されながら、私6個分の長さのはしごに足をかけた。
てっぺんまで登ってしまうと、ここから先の空には何にもないことがわかった。
少し目線を下げると黒い線が彼方まで伸びている。ずうっと遠くまで、あらゆる家にバチバチを届ける線。幾重にも重なっている。
ここがお気に入りの場所なのだ。皮がうごめいて騒いでいる。
一枚一枚、伸ばして、遠くの線まで皮を伸ばす。
少し強めの風にふかれる皮はやわらかい笑顔を浮かべた。


つくった時期:今年の1月     
だした訳:くもりだから



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