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モストラブ

夜の最寄駅
たまたま寄った逆側ホーム
傘を持たない彼女

若葉のような鮮やか緑
俺は釘付け
かしずいて
見つめて

お一人ですか
可愛いですね
雨止みそうにないですよ
とりあえず、違うとこ行きません

差し出した提案に
するする乗ってくれて有頂天
小躍りこらえ
紳士エスコート

周囲は見て見ぬふりの無関心
この美しさを知らずに哀れ
どうもありがとう

近くで見る彼女は優雅
名も知らない方だけど
その曲線は素晴らしい
ああ、どの角度も綺麗だね

ホームのべンチ
寄り添って話そ
ふるふる震えて彼女の繊細

一緒に帰りませんか
え、と首かしげ
またふるふる
でも離れない
共にそっと改札を抜けて

人気のない夜道
相合傘の帰路
重なる手と手

何も言わず
横顔の美に酔おう

街灯になびくは
彼女の産毛
撫でてみたい
右手の迷い

家の扉が
開けにくい
彼女も怖がってる
大丈夫だよ
よく見つめたいだけ

おいで

蛍光灯の元
俺らは見つめ合う
体の隅々
なだらかカーブお腹
細くてやわっこい脚

黒目の大きい瞳
その全部に俺が映っている
頬ずりしたいけれど
がまんがまん

ブルブルブルブル
出たいともがく
君に仕立てたヴェール
音を濁して

いまだ雨降る十一時
ごめんね
外に行こうか

ああ日は越せないな
でも君をよく知れた
この夜乾杯

一度玄関に出たけれど
姿残したくてカメラ
取りに戻るね

どう光をあてるかで
魅力はうつりかわる
光と陰と君の実像

光源に顔を向ける彼女
とことこ歩いて
カメラに飛びついたら
また震えるのかい

愛おしさに
ぎゅっとしたら
壊れそうで

優しい指遣いに
俺の手は麻痺
お別れだってのに
あまりに酷だ

軒先の俺ら
ないしょ話しよ
口説き文句響かなくとも
言いたいだけなのさ

つつじの花を背景に
輝きの中
雨粒のついた花びらと
微笑む彼女

どうか濡れないで

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