独り旅 二日目

朝、温泉を出発して、電車の待ち時間を生かして焼津港で海を見る。

今回では初めて海をみたかな。一度見たことのある焼津の海。焼津といい熱海といい、火と水が想像できる地名って不思議だよね。

焼津や静岡を発つ。

静岡は電車に揺られているだけで山と海に挟まれるから嬉しいな。視界にいっぺんに映るのは素敵だ。意識せぬまま、そういう自然に惹かれていて、静岡に来ることを選んだのかも知れない。私、静岡好きなのかな。

熱海に着いた。

また静岡から熱海まで寝てしまった。寝不足だったのもあるけど。富士山を車窓から一度も見たことがないや。

これから静岡県の初島に行く。島に行くのは高一の親戚一同で旅行した沖縄以来かな。嬉しいなあ。最近島というもの、特に南の島にあくがれてたから行けてうれしい。

昨日は乗り逃してばっかりだったバスに乗って熱海港へ。いやあ、揺られるだけで目的地に着くなんてありがたいことだなあ。

朝、銭湯にあった無料のマッサージ機を使ってたんだけど、バスの信号待ちのぶぶぶんという振動、それに近いな、気持ちいいや。

サンビーチを通り過ぎる。ひゅう、木々が南国だ。いいじゃん、楽しいな。

切符を買う。島内の植物園の入園チケットとセットのチケットだ。

船に乗り込む!

初めて一人で船に乗る。フェリーじゃなくて船。へへへ。デッキにでたら自然と坂本真綾のプラチナが頭に流れた。「限界のない〜可能性がここにある この手に〜〜」そんな気持ち。

船の周りをカモメが餌のためにホバリングしていて、正直怖い。まるでCGみたいに律儀に同じ顔の角度でこちらを向いて、ぐるぐる集団で回りながら飛んでいる。餌あげてる人、不気味に思わないのかな。

つい、聴きたくなってプラチナをかけてみる。昨日届いたイヤホンで。いい曲だし、カモメの飛ぶ船のデッキで聴くのにぴったりだ。うっすら口パクを二回もやらかした。楽しい。

デッキは、船が波をかき分けて進んだり、島がだんだん近づいてきたりするのが見えて、新天地に行くぞ、という気分が高まってくる。たぶんプラチナは新天地に乗り込む私にふさわしいから脳内再生されてるんだろうな。

初島に着いた。

少し歩くと、食事処が並んでいた。

どこもかしこも海鮮の美味しそうな料理を掲げているけど、今二千円と緊急用のお金一万しかない私には辛い。美味しそう……伊勢海老…店の前の水槽には魚とか海老とかがぎゅうとつめこまれている。

メニューを二周くらいしてよく見る。初島名物だというところてんが目をひいた。ところてんって食べた記憶があまりない上に、海鮮よりは手が届く値段だったから。

関東は酢醤油、関西は黒蜜、初島はごま味噌だと三種類の味を掲げていた唯一のお店でところてんを頼む。

ごま味噌で。四百円。

周りの家族たちがお刺身定食を食べている中で一人ところてん単品を食べるのはなかなかに笑える。ちびまる子ちゃんの寿司屋の話を思い出す。キャビアを食べるまる子の横で、会計に怯えているおじいちゃんが延々とイカを頼んでいたみたいだ。哀れでおかしい。でも温かいお茶とコンセントを借りれていることを考えればとてもいい食事だな。

アイランドリゾート内の植物園でハンモックに乗る。ゆらゆら、体全体でぶらんこに乗っているみたい。おうちにも欲しいなあ。

波の音を遠くに聞きながら体を揺すられていると、漂流している気分になった。木片のように、ぷかぷかとただ波の上下に合わせて動いてく。体を全て任せて、ぢっと空を見る。

重たくなった足も波が運んでくれる。くたびれた肩も海が癒してくれる。心地いい。

海に漂って、流されて、でも大丈夫。波におまかせあれ、なんとかなるさ。という気分に浸かった。揺れる景色を相手に、純度の高いぼんやりをやれて嬉しい。

植物園ではあまり見たことのない植物を多く見た。

歩いて島を一周したり、灯台に登ったりした。

螺旋階段で登る白い灯台は、巻貝の中を探検してるみたいだった。

高いところに来てみて初めて、島であることを実感した。灯台から一周島を見回しても、海で必ず囲まれている。どこを見ても海!日本列島だって島だし、島が海に囲まれてるなんて当たり前なんだけどね。一望したことないから、つい忘れちゃうんだよな。

灯台を出て歩いたら、向かいから来た方に
「見えました?」と尋ねられた。
「えっと、何がですか?」正直、富士山とかは見えないぞ、見えても島だな。
「その…海とか」
「ああ!見えましたよ!そりゃあもう!ああ島にいるんだなって実感しました!」
その方はぱあ、と顔が明るくなって、ありがとうと言って歩いて行った。
初めてこの旅で知らない人と会話した。互いに一人だった。
話しかけてくれたことが嬉しくて、「四時までみたいなんで!」と声を飛ばす。まあ、四時まであと一時間はあるけどね。ちょっと慌てさせてしまったみたい。

四時四十分の船に乗って帰る。

またデッキに居続ける。船のイルミネーションが点灯している。熱海港も旅館の灯りが海に反射して綺麗だ。

 

熱海駅で蕎麦を食べたくなった。なんたって今日は大晦日で、一年を締めくくるご飯だから。年越し蕎麦があるのだから、蕎麦がいいかな。

しかし、さすが大晦日、夕方を過ぎると熱海駅前の食事処はからっきし閉まってしまった。お土産を買おうと思ってた大型スーパーも六時で閉まった。蕎麦は今年食べれずに終わるな、夕ごはんどうしようかな、と思っていたら、熱海駅の四・五番線ホームに立ち食い蕎麦屋があるらしい!

急いで向かうとなんと閉店ぎりぎり、滑り込みセーフ……!う、うれしい〜〜

けど、私のあとに来た一人が閉店ですので、って追い返されてしまったので申し訳ない……数秒の差なんだけどね。

どうやら姉妹で蕎麦屋をやっているらしいおばあちゃんたちがお蕎麦を作ってくれた。今年最後のお客になった!

黒はんぺんを乗せたおそば。どうせなら静岡ならではのをね。

閉店時間を過ぎているから、焦っていると、店員さんが「ゆっくりでいいからね〜」とにっこり。えええええ!!ありがとうございます!こちらこそお蕎麦食べさせてもらって……!いい年越しになりそうなんですよ!それと見るからに優しい笑顔…!うわあ、この方の孫になりたい。

食べ終わると、「寒いからね、気をつけて帰ってね」ってまたにっこり。

え!ええ〜っ!いい人!!!そばのおつゆより沁み入るじゃん〜〜うはあ、あったかい……帰らないけど、登山がんばろう……!

まだ開いていた熱海駅のお土産屋さんに滑りこんでお土産を買う。 


電車に乗って、初日の出を拝むため神奈川県大山に向かう。

目の前に、二十代くらいの二人が肩を寄せ合い切った林檎を齧っている。なあんて微笑ましいのだろう。大晦日の晩に電車内で林檎!文豪の小説とかに描写されてないかしら。いいなあ、どうやって切られた林檎持ってきたのかわからんけど、風情があるよ。 

十時くらいに神奈川県大山最寄りの駅、伊勢原に到着。駅員さんに確認をとりつつ、登山用のフリーパスを購入する。

いよいよ登山がはじまるぞ。どっきどき。

あるお芝居のOP曲が頭にかかる。右手をあげてオーオッオオー、という感じ。あとで聞いたら「Lonely Boy」という曲らしい。全然歌詞と心境そぐわないわ。驚き。

そういえば、大切な年越しの瞬間の過ごし方を決めていなかった。年越しなら除夜の鐘かしら。と思ったら、近くにお寺があるらしい。行ってみると、十一時四五分から除夜の鐘をつくらしい。しかも福引や豚汁をふるまったりするらしい!ぜ、贅沢!

年越しはこの寺にきーめた。

 まだ初日の出には時間があるので、あらかじめ調べておいたジョナサンへ。お蕎麦を今年最後の食べ物とするはずが、オニオングラタンスープを頼んでしまった。寒い日のチーズってたまらないですね。

食べ終わってもまだ時間があるので紙のノートに日記を書く。日記締めだな。今年を振り返って書く。

 ツイッターを意識して使わないようにしてから一日くらい経つけど、考える時間が増えたり、違うインプットを求めたりしている。なんとなく情報デトックスな感じだな。全然ツイッターなんかなくても時間って楽しく過ぎていくや。あたりまえのことだけど、改めて感じれてよかった。

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