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再生記(3.31)味比べ

夜8時の食堂。

テレビの前のテーブルでは、挨拶程度の仲の方々が隣の国の言葉で談笑している。
スマホを見つつ、テレビを気にしているようで、日本語と外国語の混じる声が聞こえる。

テレビは海野さん(仮)司会のバライティが付いていた。

今日の晩御飯は酢豚。なかなかに噛み応えのある肉と美味しい玉ねぎ。
手についたルームフレグランス原液の華やかな香りが食事にはミスマッチだった。

芸能人の格付けをメインとする番組のため、ゲストが各五感を審査される。やっていたのは味覚で、牛肉、馬肉、サメ肉の中から目をつぶって牛肉を選ぶ。
解答の札を出した芸能人が間違っっていると、海野さんは、「黙れ!」「従っとけ!」とおっしゃり、画面いっぱいにつり上がった眉の顔が映る。ただしその声は別部屋にいるゲストに届かない。

聞きなれないザラザラした声。顔いっぱいで苛立ちを表現している海野さん。CGでサメやウマのイラストをゲストと合成させ、バカ舌だとおちょくる。

食堂の閉まる時間が迫り、だんだんしんどくなってきた。箸を持つ右手人差し指からピーチ&フリージアの香りが漂う。吐きそうな感じ。気持ちわるい。テレビを変えたいけど、楽しんでいる二人がいるのでできない。
「それはサメや!」
自分の口の中の豚肉が、だんだん何肉かわからなくなる。豚肉って美味しいのか。肉が生臭い気すらしてきた。

なんとか酢豚を食べ終わり、お盆を出した。
テレビの中の海野さんはこちらに向かって吠えている。

言葉が乱暴だから具合が悪くなっているわけではない。きっと。
食事前にはオードリーのラジオを聴いていたが、若林は春日によく暴言を飛ばす。
「だせえなあ」「やめちまえ!!」「お前、帰れ!」
全然余裕で聴けるのだ。
強い言葉は仲良しの二人だから許されるんだと思っている。一種の仲良しの記しとして暴言がある気もする。じゃれあいやいじりのコミュニケーション。

だから、海野さんの強い言葉は、海野さんが受け取ってほしい相手=「ミスをした芸能人」へ届いているならまだ見れるのかもしれない。
それに対し「ひどいじゃないですかー」「そんな言わんでくださいよ」とか、リアクションがあるならいいのかもしれない。
ただ、実際は聞こえていないので、受け取り手のない言葉は視聴者に向かう。

この海野さんの司会として怒号を飛ばす役割はなんだろう。
視聴者の声として、があるのかもしれない。ただ、私の場合にはその役割を担わなかった。私は誤答をした芸能人に対してそんな激情がなかった。「ふうん、惜しかったね〜」程度。
だからトゲトゲしい言葉を自分が食らってしまった。海野さんに移入している視聴者はいるのだろうか。

しんどい言葉を身に受けた私は、部屋に帰ってすぐにオールナイトニッポンを再生する。
滅多に矢印が視聴者に向かない閉じた世界にトゲは癒されていった。

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