軽自動車正面追突事故

軽自動車の危険性と自動車の衝突試験

最終更新日:2019/2/2

日本の国産乗用車の安全性評価は、普通・軽の区分によらず、独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)の定める自動車アセスメント(JNCAP)と称される衝突試験により5段階にランク分けされています。

自動車メーカーのHPにアクセスすると、普通自動車・軽自動車によらずたいていの車種詳細ページには、安全性能の高さを謳ったページや項目があります。その車種を安全だと言える根拠として、いまや必須装備と化した衝突被害軽減ブレーキ類の性能の他、衝突試験の結果が示されていることが多いでしょう。軽自動車であっても、衝突試験の結果は最高ランク(★5)というケースも珍しくはありません。

引用元のページはこちらから (2018/6/8 参照)


だったら軽自動車も安全じゃないか、という声が聞こえてきそうですね。ところで、自動車アセスメント(JNCAP)の衝突試験結果が:
・上から2つめのランク(★4)に分類される普通自動車
・最高ランク(★5)の軽自動車
の2車種があるとしたら、どちらの車種がより安全と言えるのでしょうか。仮に前者の普通自動車が大型のSUV(トヨタランドクルーザー や マツダCX-8 など)であっても、果たして衝突試験結果の高い軽自動車の方がより安全なのでしょうか

おそらく多くの方は直観的にお分かりだと思いますが、自動車アセスメント(JNCAP)の衝突試験結果にはある前提条件が存在します。


自動車アセスメント(JNCAP)では、以下の4種類の衝突試験を行います。
1. フルラップ前面衝突試験
 [55km/hでコンクリートの壁に正面衝突させる]
2. オフセット前面衝突試験
 [64km/hで車体の右側40%のみをアルミに衝突させる]
3. 側面衝突試験
 [静止状態の被試験車両に、950kgの台車を55km/hで側面(運転席側のBピラー付近)に衝突させる]
4. 後面衝突頚部保護性能試験 (実車ではなく模擬装置で実施)
 [静止状態の被試験車両へ同重量の車両を36.4km/hで追突させ、被試験車両を17.6km/hで前方に押し出す]
このように、3. の側面衝突試験以外は衝突エネルギーの算出基準が全て自車となっていることが分かります。そのうえ、4. の後面衝突頚部保護性能試験では実車を模擬した装置を使用しているため、実際の車体の被害状況などの確認はできません。


被試験車両の車両重量を m [kg]、衝突瞬間の速度を v [m/s]、衝突の際に発生する衝突エネルギーを E [J] とすると、計算式は
 E = (1/2) × 車両重量 m [kg] × ( 衝突速度 v [m/s]^2)
のように高校物理で簡単に表すことができます(速度 v の単位が[km/h]ではなく[m/s]になることには注意してください)。従って、それぞれの場合に自動車が吸収する衝突エネルギーを計算すると、
1. フルラップ前面衝突試験
 E1=(1/2)×m×((55÷3.6)^2)=116.7×m [J]
2. オフセット前面衝突試験
 E2=(1/2)×m×((64÷3.6)^2)=158.0×m [J]
3. 側面衝突試験
 E3=(1/2)×950×((55÷3.6)^2)=110.8 [kJ]
4. 後面衝突頚部保護性能試験
 E4={(1/2)×m×((36.4÷3.6)^2}-{(1/2)×m×((17.6÷3.6)^2}=39.1×m [J]
と求まりました。
※ 4. で衝突時に生ずるエネルギーの一部は被試験車両の運動エネルギーに変換されるため、全てのエネルギーを自動車が吸収するわけではない

さて、上記1, 2, 4 で得たエネルギーEの式には車両重量 m [kg] が乗じられていますから、軽自動車と普通自動車の車両重量をそれぞれ代入してみましょう。軽自動車は 750 [kg]、普通自動車はコンパクトカー等の 1,000 [kg] と、ミニバン等の 1,500 [kg]、大型SUV等の 2,000 [kg] の3通りを用意しました。

表では直観的にイメージしにくいので、グラフにしてみました。

この車両条件下では、SUVは軽自動車と比較して、同じ状況で同じ壊れ方をする場合でも側面衝突試験以外は2.7倍も多くのエネルギーを吸収する必要があります。言い換えれば、軽自動車をSUVよりも2.7倍だけ弱く作っても、自動車アセスメント(JNCAP)の衝突試験では同等の安全性の評価を得られることと同義になります。
※ 実際には車両重量に応じて構造材の構成等も異なるため、軽自動車が普通自動車よりも重量比の分だけ弱いわけではありません(念のため)。

もしかすると、比較的軽自動車に近い車両重量のコンパクトカーも、軽自動車と同様に危険なのでは?と疑問を抱かれた方も居られるかもしれません。たしかに、今までの結果を総合すれば、「軽自動車だから危険」なのではなく、「車両重量の小さな車両ほど危険度が高い」と言えそうです。
しかし、軽自動車には構造的にもう一つ別の危険が潜んでいるのです。

こちらをご覧ください。

引用元のページはこちらから (2018/6/8 参照)

注目すべきは後席と後部荷室ドアの距離の近さです。10~15cmあれば良い方でしょう。軽自動車の車体の長さは上限が規格で定められており、広い車内を作るためには後席をギリギリまで後ろに下げるしかありません。しかし、これでは被追突時にクラッシャブルゾーン(意図的に破壊することで衝撃を吸収する空間)を確保できません。そのため、SUV等に追突されれば、小さな速度差でも後部座席に乗車している乗員が大きなダメージを負う可能性は極めて高いです。万が一トラック等に追突された場合は目も当てられません。従って、ミニバンの3列目も同様の危険性をはらんでいることになります。これがコンパクトカーであれば後席と後部荷室ドアは概ね50cmほどは離れており、後部座席の乗員がダメージを負う確率は軽自動車よりも低くなります。

もちろん事故の被害は程度問題であり、例えば高速道路の渋滞最後尾で大型トラックの後ろに停車中、100km/h超の大型トラックにノーブレーキで追突されて前の大型トラックと挟まれでもすれば、仮にSUVでもどうしようもありません。
しかし、
・SUVでも軽自動車でも助からないような重大事故
・SUVでも軽自動車でも無傷で済むような軽微な事故
の間には、SUVなら軽傷で済んでいたにもかかわらず、軽自動車なら重症か下手すれば死亡に至るような中規模の事故が必ず存在します。

この記事では、対車両との事故で自動車が吸収する衝突エネルギーの計算、および後部座席と後部荷室ドアの距離に基づき軽自動車の安全性に警鐘を鳴らしました。軽自動車の新車販売割合が40%を超えた今、そうした事故に遭遇するリスクを極力少なくするためにはどうすれば良いのか。自ずと答えは見えてくると思います。

最後までご覧いただきありがとうございます。 みなさまからのサポートは、今後のコンテンツ内容の充実に役立てさせていただきます。