【文語①】落つる葉が恋し山さへみえぬ街花よりあかしと聞こえしものを

 最近、今野寿美さんの『短歌のための文語文法入門』という本を読んでいます。近代の方の歌集を読みたいのですが、文語への自信のなさが気になってしまい内容に入っていけないのが残念で、読みはじめました。

 内容は理屈だっていてとても面白いです。古文の先生の授業を受けているみたいです。ぜんぜん退屈しないタイプの先生。とはいえ結構複雑で、これは使わないと覚えないなと感じたため、機会を見つけて文語で詠んでみたいと思った次第です。外国語を学ぶのに近い。

 練習なので、できる限りちゃんと調べて、自分として疑問の残らないように詠みます。それで、せっかくなので品詞分解したものを記録しておくことにしました。ネットに置いておいたら、親切な人が誤りを指摘してくれるかもしないし、というのもちょっと期待しています。

 歌の中身はなるべくシンプルなものにしようと思います。前いちど文語を使ってみようと思った時に断念した理由が、表現したい言葉(とくに動詞)が古語にない、または存在するか分からない、ということでした。中途半端に現代の動詞が混じっていると活用とかよく分からなくなっちゃって。なので、今回は名詞以外は基本、古語辞典に載っている言葉だけで書こうと思います。
 
で、以下がひとつめです。

落つる葉が恋し山さえみえぬ街花よりあかしと聞こえしものを

 訳は「落ちる葉が恋しいな。山も見えない街だよ。(この国の紅葉は桃の)花よりも紅いと聞いていたのになぁ。」のつもりです。実際に今私が住んでいるまちは、だだっ広い平地の都心でして、山も見えなければ街路樹も常緑樹ばっかりなんですよ。それで、ちょうど《山行》を覚えたので。「山」「花よりあかし」のところが本歌取りです。え、おしゃれ…?(自分で言うな)

品詞分解

落ちる:落つ [動詞, タ行上二段, 連体形]
恋し:恋し [形容詞, 終止形]
さえ:[副助詞]
みえ:みゆ [動詞, ヤ行下二段, 連用形], 見える
ぬ:ず [助動詞, 連体形, 連用形接続], 打ち消し
あかし:あかし [形容詞, 終止形], あかい
聞こえ:きこゆ [動詞, ヤ行下二段, 連用形], 聞こえる、評判になる
し:き [助動詞, 連体形, 連用形接続], 過去
ものを :[終助詞], 感動

「ものを」の部分

「ものを」については、個人的な感触として、「~したのになぁ」という残念がる気持ちを表すような使い方があるような気がしたのですが、自信はなかったので調べました。
 今野本には「ものを」単体として逆接の接続助詞の項に紹介があり、文末に用いられた場合は終助詞として分類されるとあり。
 weblio古語辞典には「もの-を」の形で終助詞としても紹介がありました。 逆説の終助詞とははっきりとは書いていなかったが、引用が「雀の子を犬君がにがしつる。伏籠のうちに籠めたりつるものを(伏籠の中にとじこめていたのになあ。)」と逆説だったためオッケーとしました。
 なお、形式名詞「もの」に間投助詞「を」が付いて一語化したものという説明もあり、これは自分の中の感触と近いです。

間違っててやめたもの

 「聞こえしものを」のところは、反語の感じの格好よい表現を探していて、まずは語感だけで「聞きかりしかば」「聞きおよびしも」というふたつが浮かびました。それぞれ「ば」「しも」あたりがなんとなく反語っぽいかなと思ったのですが、結果として「ば」ちがいました。「しも」はありなのかもしれない。

 「ば」は接続助詞として、①仮定、②原因・理由、③偶然の状況、④常にそうなることを示す、などとあり、逆説・反語的なものは見つかりませんでした。なんで反語っぽいと思ったのか自分でもはっきり分かりません。ほんとうにただの勘違いかもしれないですし、またどこかでそれらしいものに出会うかもしれません。ここに書いておけば思い出すかもしれないので書いておきました。

「聞きおよぶしも」

 一方「しも」は副助詞で、weblio古語辞典の項目③に「〔逆接的な感じを添える〕…にもかかわらず。かえって。」とありました。用例も「事そぎて書き給(たま)へるしも、御手、いとよしよししくなまめきたるに」(簡略にお書きになったにもかかわらず、ご筆跡は~」とあり、逆説です。「ききおよぶ」も古語辞典に存在しました(バ行四段活用)。ただし、「しも」は連形に接続とあり、「聞きおよしも」ではなく「聞きおよしも」がただしいようです。なんか意外。意味としては、聞き及んでいたにもかかわらず、になると思います。

落つる葉が恋し山さえみえぬ街花よりあかしと聞こえしものを
落つる葉が恋し山さえ見えぬ街花よりあかしと聞きおよぶしも

 どっちがよかったでしょうか。あ、聞きおよぶしもの方がかっこいい気がしてきました。ま、もうtwitterの方にひとつめで投稿しちゃったのでよしとしましょう。なんとなく古文特有の言い回しの「聞こゆ」が使ってみたかったというのもありますし。

では本日は以上です。楽しいですね。

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