【文語④】迷い子は酔いしれてこそ集はれめおなじき夢をやみむとせにけむ

 先日はたいへんな飲み会に足を踏み入れてしまい、しばらく心がしんどい状態だったのですが、だいぶ元気になってきたので、最後に洗いながす意味もこめて歌にしました。

 歌にしました、という書くとなにか思いを詠み込んだように聞こえてしまうかもしれませんが、特別に心がこもっているわけではありません。今野さんの古語文法本で、過去の推量の助動詞「けむ」のあたりを読んで例を考えていたところ、彼らも彼らなりの大変さが「あったのかもしないな」という用例を見つけたので、文語短歌にしました。考えているうちに、もう一つの推量の助動詞「む」と、ふたつの係り結びも入れることにして、もりもりの習作になってしまいました。正直、あまり思い入れのない景なので(むしろ忘れたい)、ゴテゴテになっていてもいっこうに構わない、という気持ちです。むしろ少し醜いくらいがちょうどよい。

迷い子は酔いしれてこそ集はれめおなじき夢をやみむとせにけむ

品詞分解

酔い:酔ふ [動詞、ハ行四段、連用形]
しる:痴る [動詞、ラ行下二段、連用形]
て:て [接続助詞] 
こそ:こそ [係助詞] ※已然形で結ぶ
集は:集(つど)う [動詞、ハ行四段、未然形]
れ:る [助動詞、未然形、未然形接続] 可能
め:む [助動詞、已然形、未然形接続] 推量(不確かな推量)
おなじき:おなじ [形容詞、シク活用、連体形]
をば:をば [係助詞] ※連体形で結ぶ
や:や [係助詞] ※連体形で結ぶ
み:みゆ [動詞、マ行上一段、未然形]
む:む [助動詞、終止形、未然形接続 ] 推量(不確かな推量)
と:格助詞
せ:す [動詞、サ行変格、連用形]
に:ぬ [助動詞、連用形、連用形接続] 完了
けむ:けむ [助動詞、連体形、連用形接続] 推量(過去の推量)

 けっこう盛りだくさんですね。全部正しいか自信がちょっとないかもしれないです。

「みむとせにけむ」の「む」と「けむ」

 推量の助動詞はどうもたくさんあるようなのですが、「む」がついているのはみっつ、「む」「らむ」「けむ」です。意味の違いは以下:

む:不確かな推量(~だろう) 
    ※「む」には意思の意味もある(~しよう)
らむ:離れたところの現在の推量(いまごろは~だろう)
けむ:過去の推量(~だったであろう)

 このうち「む」を二回、「けむ」を一回使ってみました。まず結句の「みとせにけむ」ですが、「み」を意思の意味で(見よう)、「せにけむ」を過去の推量(しようとしたのだろう)で入れました。

 なお、「せけむ」の「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形です。「す」が自動詞的なので完了の助動詞は「つ」であるべきではないか、とは今回はあまり思いませんでした。その場合は「せけむ」になるのですが、見た記憶がない、というのと、この場面はそこまで強烈な意思を持った完了にする場面でもないかな、という気持ちです。用法としては「せてけむ」もあっておかしくないはずなので、もしどなたか用例を教えていただけたら嬉しいです。

「集はれめ」のなかの「む」

 推量としての「む」は、三句の「集はれ」に入っています。ここは、「む」が手前の「こそ」との係り結びのために已然形の「め」になっている上に、手前に可能の助動詞「る」の未然形「れ」が来ているので、全体として「れめ」というあまり見慣れない形になっていて、正直ちょっと自信がないです。意味としては「(酔っ払ってはじめて)集まれるのだろう」という可能+推量の意味のつもりです。

ふたつの係助詞「こそ」と「や」

 もうすでに上で説明しましたが、「酔っ払ってこそ集まれるのだろう」の強調の意味で「酔いしれてこそ集はれ」の已然形結びの係り結びを入れています。ちなににしれては平仮名にしておきましたが、「痴」です。ここらへんちょっと私の恨みがこもっています。

 もうひとつの係助詞は「や」ですが、これは下の句の「おなじき夢みむとせにけむ」に入れてあります。係助詞「や」の結びは連体形ということなので、末尾の「けむ」は連体形と言うことになります。終止形も「けむ」なので区別つかないですが。「や」は疑問・反語の係り結びなので、意味は「おなじ夢をみようとしていたのだろう」になっているつもりです。

 ※一回「をば」で上げたのですが、「や」の方が面白いと思ったので買えました。普段なら歌に対してこういうことはしないのですが…。もうひとつの係助詞は「をば」ですが、これは下の句の「おなじき夢をばみむとせにけむ」に入れてあります。係助詞「をば」の結びは連体形ということなので、末尾の「けむ」は連体形と言うことになります。終止形も「けむ」なので区別つかないですが。

おわりに

 以上のように、いろいろ考えていたら文法もりもりの歌になってしまったので、普段ならやりすぎかなと思うところですが、先にも書いたように今回は文法練習として割り切っています。むしろこのゴテゴテとした不自然な感じがあの雰囲気に合ってたかもしれないとも思います。

 本日の内容はこまごましているので、もしかしたらどなたか間違いを見つけていただいた場合はひとこと教えていただければとても嬉しいです。

 それでは今日はここまで。


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