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Vega Long Neck Banjo 第2回

Pete Seeger氏の話によると、戦前の古いVega(最初はWhyte Ladie Model)に長いネックを取り付けようとジャズギター製作家として名が知られているJohn D'Angelico氏に相談して、通常より2フレット延長したネックを作ってもらったそうなのです。これは非常に具合が良くてG keyでは高くて歌いにくかった曲がF keyで声が出し易かったので楽に歌えた、と語っていましたが、残念ながら盗難に遭い行方不明になったのだとか・・

そこで次は、3フレット延長したネックを作り、胴体は同じVegaながらTu-ba-phoneのモデルを見つけてきたので其の胴体に取り付けました。余談ながらネックの材に用いたのは、Jon Thompson氏がPete Seeger氏にインタビューした記事によれば、ネックに用いたのは「グヤカン」と呼ばれる材で「リグナムバイタ」とも呼ばれる、と書いておられますが、実は少し違いがあってグヤカンであればコロンビアかエクアドルにあるノウゼンカヅラ科の樹木で、リグナムバイタであればハマビシ科の樹木です。現在ではアクアラインの海ホタルのウッドデッキにも用いられている「イペ」はグヤカンに近い種で、リグナムバイタは古くから硬度が求められる「動力シャフト部分」などに使われていたようです。まあ、どちらにせよ硬い材であることに違いはありませんが・・

見るからに硬そうなネック材


同じ時期にエリック・ダーリンも長いネックのアイデアを考えて、ロングネック・バンジョーを弾き始めたのですが、此れも(年代は不明ながら)VegaをJohn D'Angelico氏に持ち込んで改造してもらったもの。
彼のロングネックは、数年前Gruhn Guitarで売りに出たり、何度かNet上に登場したのですが其の度に仕様が違っていて、American Banjo Museumに展示されているモデルも別物のようですが・・・何本かを持っておられたのでしようね、Netで拾った彼のLong Neckを見てみましょう。

Solo Album(標準的なVega PS-5のように見えます)
後期Weavers(同じ機種か?)
この写真の高解像度の画像が無かったのですが・・・
2014年 Gruhn Guitarに出た時の画像(これかも?)



Peteの異母妹のPeggy Seegerもロングネックの使い手です。
彼女のトレードマークとも言えるVegaですが・・・

アームレストは拾った木切れから彼女が作ったそうです

この、彼女のロングネックにも諸説あって、PeteがVega社から貰ったものを譲ったとか、特注で作って貰ったとか、あれこれ言われていますが彼女自身の談によれば「1955年春にVega社に注文した、Peteは私にバンジョーはくれなかった」
胴体には非常に美しい細工がされているそうなのですが、残念だけど写真を見つけることが出来ませんでした・・・

同じ頃にBob Gibsonも非常によく似たバンジョーを入手しています。


後に「フォークロアー・モデル」として発売される機種のペグヘッド形状が此の頃に採用されたとも考えられますが、初期のロングネックは特注品のために仕様が決まってなかった・・と考えるのが妥当ではないでしょうか?

こうやって、Peteのフォロワーなどが「長い竿のバンジョー」を求めてVega社への注文が増えたため、Vega社はPete本人に「貴方の名前のモデルで売っても良いか?」と尋ねたところ「もちろん構わないよ」と快諾を得て、晴れてピートシーガー・モデルとして発売されることになりました。
その時に「ロイヤリティは1台売れたら幾ら払いましょう?」と尋ねられてPete氏は「そんなの必要ない、むしろ関与したくない」と断ったのだとか・・でもVega社は「1台プレゼントします」と律儀に贈ってきたのをPeteが弾いている(と思われる)写真がこちら

のちにシングアウト誌の購読キャンペンの賞 品として寄贈されました


以上のような経緯を見ると1955~6年頃から生産を開始し、1958年頃には標準仕様が決まった、と考えられます。

早速キングストントリオのデイブ・ガード氏も注文し、1958~9年には手元に届いたそうです。

Bob氏が持つのはプレクトラム
Nick氏のテナーは後年8弦に改造されます


Boston Vega期のPS-5には少なくとも3つのバリエーションがありました。

1:50年代後半に作られた最初のバージョンでは、28個のブラケット、ブラケットバンド、ブラケット用の貫通ボルトなし、ドゥエル・スティックを備えたクラシックなVegaの厚いポットが使用されていました。
2:次のバージョンでは、より薄いリム、ブラケット バンド付きの 24 個のブラケット、および貫通ボルトが使用されていました。
3:このバージョンでは、これらの機能に加えて、ドゥエル・スティックの代わりに金属製コーディネーター ロッドが使用されました

フォーク・ブームでPS-5の販売は好調だったVega社でしたが「好事魔多し」の例えの通り・・・

第3回に続く


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