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Banjo Set-Up 前編

5弦バンジョーのセットアップ方法などを書き留めておきます
ちなみにアール・スクラッグスの楽器を調整されていたカーティス・マクピーク翁やオールドギターショップの故大森康弘氏、などから教わった手法が基になっているので本流と思って頂いても大丈夫かと・・

まず最初は其の楽器の持っているパワーをロス無く完全に出せるようにすることから始めましょう

1: ドラムの張り具合
Gibsonなどの主要メーカーの製品は24個のフックとナットで太鼓を張るようになっていてゆっくり均等な強さで張るようにします、慌てて強いトルクをかけるとRemoのドラムなどでは其の部分から割れる(剥離する)ことがあるので慎重に作業します
具体的には1度に回すレンチの角度を1/4回転以内にしましょう、トルクレンチなどの便利な工具も販売されているので活用してください

実は此処が最初で最大の難問だと思います、ヘッドの張り具合が十分でないと鈍く文字通りハリのない音色になりますが、張り過ぎると低音が響かなくなりバランスの悪いサウンドになってしまいます、トーンリングの個性とヘッドのテンションが上手く合えば4弦の解放音から1弦22フレット最高音まで気持ちの良い響きが得られる筈
インターネットのバンジョー関連サイトなどで「ヘッドはG#に張る」という意見を見聞きします、多くの奏者の方からも伺ったことがあります、しかし実際問題として其々楽器の個体差もあるので、私見ですが特定のピッチにヘッドを張ることだけを目的にせずドラム全体が一番よく響くポイントを探すことに主眼を置く方が本筋ですし、GとかAなどの特定の周波数に共鳴させない方が良いと思っています
結果的にG#に落ち着くとすれば其れで大丈夫なんですが、G#を追うのではなく良い音のポイントを見つけて偶々G#になった、だけのことです
なおGibsonにRemoを装着する場合、フラットヘッドならHi-Crownのドラム、アーチトップはMedium-Crownが適合します
Vegaは11インチ以外のサイズが多く、国産ではピアレスやナルダンなら11-2/16くらいのサイズの場合が多いので装置前に確認する必要があります

均等にテンションを掛けてドラムを張るのですが、フックとナットがスムーズに回転するか?が重要で、錆があれば灯油に漬けてワイヤーブラシで洗ったり、装着する前にグリスアップしたり、という機械部品のメンテナンスの基本的な手法は他の部分も同様です

2: ネックと胴体の接合

StewMac社から引用


ネック側のコーディネート・ロッドは上下とも強く締めます
作業するのにトップ側は鋼鉄製六角レンチの2mm径とか使わなくなった千枚通しなどが便利で、ボトム側はロングナットになっている機種だと7/16インチのスパナを使います
テールピース側のナットは1/2インチ(7/16と1/2の組合せのスパナを是非ご用意してください)この内側の2個、外側の1個は全て「強く締めすぎない」ことです、何故かと言うと特にトップ側のナットを強く締めるとウッドリムに外側に向けた力が働いて変形させることになるのでトーンリングの振動を抑えサスティーンを損ねます

上  KTCのスパナ
下 ANEXの千枚通


ボトム側のナットを強く締めて弦高を調整している方を見かけます(そうしなさい、と推奨しているサイトもあります)が、これもリムが変形する原因になります、やめた方が無難ですね
実は元々Gibson社も「弦高がアジャスト出来るロッド」としてPRしたようですがウッドリムの変形によるサスティーンの劣化などは当時としては配慮されるところまでの認識はなかったのでしょう

3: ネックの反り
全ての弦楽器には「しゃくり」と呼ばれる、いわゆる順反りがあるように作られているのをご存知ですか?
反りのない真っ直ぐなネックにセッティングすると弦の振幅によりビビります
また反り加減は奏者のピッキングの強さで決まります
爪弾く程度の小さな音量の奏者なら殆ど反りのないネックでも問題ありませんが、ハードなピッキングをされる方ならある程度の反りが必要ですし、弦の振幅に応じた反り加減でないといけません
反り加減の判断は経験値(慣れ)が必要なので不安な場合はプロのリペア業者に相談してください
弦高を下げたい、とトラスロッドを締めすぎて逆反りさせたネックをしばしば拝見します、逆反りは百害あって一利なし、ですご注意を

4: 弦高の調整
5/8とか11/16の高さのブリッジが主に市販されているので、自分のピッキングに合った高さを選択して(次項で記述しますが)適正な位置に装置、その結果左手の操作性に問題ない弦高ならOKですが、高い場合も低い場合もコーディネート・ロッドで弦高を調整するのは正しくありません、ネックと胴体の装着角度を調整する必要があります
此の作業は出来ればプロのリペア業者に依頼された方が良いと思いますが自身で作業する場合は慎重に(削りすぎないように)して、最終的には自己責任で・・
シムと呼ばれる薄い木材を挟んで調整しているケースも多々見かけます、簡単に調整出来るメリットはありますが柔らかい木材だと其の部分で振動をスポイルしてしまうので出来れば挿げ角度の修正をお勧めします

5: ブリッジの位置
広く知られている手法で「12フレットのハーモニックス音と押さえた音が同じになるようブリッジ位置を決める」という手順です、もちろん間違いではありませんが、5弦バンジョーの場合はGチューニングが主なので全てのG音が適正に響き合うブリッジ位置を設定することを主眼にした方が実際的ではないか?という意見が昨今あちこちで聞かれ始めました
具体的には3弦の開放音と1弦の17フレット音、2弦の8フレット音、3弦の12フレット音、4弦5フレット音、5弦開放音などのG音が同じになるような位置にブリッジを立てます、何処かで合わない場合(おそらく殆どの個体がそうですが)は高音の位置を優先して妥協点を探します
ナット高さやブリッジの高さでピッチ感が変わりますし、元々が「なかなか合わない」ことが多い楽器なので何処かで妥協点を取る必要があります、バズフェイトン・ナット加工をするか?ブリッジを前後に幅を持たせたアジャスト式にするか?などフレット弦楽器特有の大変難しい問題があります、実は私自身「これが正解」というところまで至っておりません

ちなみに純正律におけるピッチと平均律に基づき切られたフレット間隔の誤差などの諸問題は「音階と音律の科学」などの書籍で紹介されていますので一読されることをお勧めします

6: 弦の溝
ブリッジとナットの弦溝は大変重要な箇所ですが、見逃されていることが多いようです

某サイトから拝借

具体的には図のような溝の切り方になるように専用の鑢を使って削りますが、ナットの高さを第1フレットの高さより極く僅かに高くしておくと開放弦の振動で音に張りが出来ます、どの位のゲインが必要か?は奏者のピッキングの強さつまり弦の振幅の大きさで決まります
但し弊害として1フレットを押さえた音がシャープするので(前項の記述の通り)注意が必要ですね

では、前編はこの辺りで・・
(後編は応用です)

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