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Banjo Set-Up 後編

さて、これからは応用ですが前編では楽器のパフォーマンスを最大に、という目標で自然に響くよう(余計なチカラを掛けず)に調整しました
しかしバンジョーの音が「うるさい」のは仕方がないとして、余計なサスティーンは要らない、とか個性的なトーンを探したい、というのもアリだと言う視点も見逃せません

1: ドラムの張りを不均等にしてみる

弦と平行な向きでテンションを掛ける張り方をしてみます(いわゆる縦張り)これは某楽器店のリペアスタッフ氏から教わった方法ですが
図の8個のフックを若干強めに張ります

あまり強く締めないことです



逆に横方向の8個を少し強めに張る横張りも出来そうです

横方向は各弦の分離が良くなる・・・気がするだけかな?


それを聞いて一時期ブリッジに近いフックを強く張ってみたことがありました、効果の程は感じられなかったのですが・・笑笑
最近はギターのX型ブレーシングにヒントを得て、こんな方向にテンションを掛けてみました ↓

いずれにしてもテンションフープが偏る原因のような気がします

あまり他のフックのテンションに差をつけ過ぎるとフープが変形するし前編でも書いたようにドラムヘッドが破損し易くなりますので「極く僅か」で大丈夫です、サスティーンとか各弦の分離に違いが感じられますか?
どれが正解かは(後編は全てにおいて)其の方の好みです、こんな方法もあるという技法の紹介だけ・・

[余談 1]
曲がったテンション・フープを稀に見かけます、私が学生時代に沢山売られた楽器も既に半世紀経っているので歪なテンションで張られた個体なら(特に5-Starのヘッドは剥離し難いのでかなりのテンションが掛けれるため歪に張られたケースが多い)補正が必要ですね
定盤のような正しい平面を見つけ、木槌やプラスチックハンマーなどで叩きながら徐々に補正して行くのですがボール盤の加工物を置くテーブルの面は殆ど定盤に近い平面です
面倒なら新しいテンションフープと交換すれば良いのですが、Gibson規格で作られた個体といってもフランジとテンションフープの穴の位置に微妙な誤差がある場合があるので注意が必要

[余談 2]
ヘッドを張る前にトーンリングにワセリンなどを塗った方が良いか?
ヘッドを張る時に「ミシミシと音が聞こえる」のでワセリンを塗った方がおられますが、その音はヘッドとトーンリングの摩擦音でなくテンションフープとヘッドの接点でヘッドが変形する音だと思います、ワセリンなどの粘性がある物質はヘッドの振動を邪魔してしまうようなので塗らないのが良いと思います

2: コーディネーター・ロッドのテンション

ネック側を強く、テールピース側は固定するだけで、というのが基本ですが、トップ側のナットに少しテンションを掛けると案外良い響きになることがあります、サスティーンが長過ぎる個体などはかえって少し抑え気味にした方が良いのかもしれません

[余談 3]
ウッドリムとトーンリングの接合ですが、リムが変形している場合はさておき新品の個体なのにリングがなかなか外れないくらいの密着度の楽器と出会うことがあります
では、どのくらいの密着度が良いのでしょうか? 或る名人の談ではリムを平面に置き、其処へトーンリングを乗せるとリングの重さだけで落ちて嵌る・・というのが理想的なリムとリングの相性だそうです

[余談 4]
春日製のバンジョーでは独特のコーディネーター・ロッドを採用していました、VegaとGibsonを折衷させたようなロッドで、同社のしっかりと作られた厚めのリムと組み合わせると頑丈に固定されているのが良く分かります、他にもピアレスのロッドが不思議な仕組みで、いまだに良く分かりません・・笑笑

3: ネックの反り

ネックの素材と指板の材の組み合わせで、例えば金属ならバイメタルのように温度や湿度で膨張・収縮に差があり逆反りしてしまうことがあります、トラスロッドで補正しきれない時にはネックアイロンを使って治すのですが、その前に指板にレモンオイルとかオレンジオイルを塗ってみたら案外良い結果になる時があります(指板の乾燥を防ぐ意味でも効果があると思います)
また最近では2-Way Rodという2本の棒を組み合わせで正逆どちらにも効くトラスロッドがあり、これを埋め込んだネックもありますが欠点もあって2本が干渉しビビリ音が発生することがあります、ネック周りからの異音はコレが原因で発生している場合もあるので正逆のどちらかに少しテンションを掛けると止まります

4: テールピースについて

Gibsonなどでは一般的にPrestoを使います、オリジナルが発表されてから(たぶん1923年だと思います)100年経過しているのにも関わらず今でも伝統的な形状からか?人気が高いですね
100年の間に何種類かのバリエーションが発表され、現在でも数種類が入手可能です、後端に大きな傾き調整用のネジが付いたタイプ、小さなネジが付いたタイプなどがありますが、どれも「ヘッドに先端が付く」ほどのテンションを掛けない方が良いように感じます
もちろんどんなふうに使っても間違いではありませんが・・笑笑
ちなみに小さなネジを外してしまうのがベターという意見もあります

他のティルピースについては別の機会に説明しようと考えています

5: 指板のラディアス加工

ベラ・フレックのバンジョーに憧れて「幅広指板でラディアス加工」のネックを使われている方が増えました、私もその1人ですが・・
メリットとしてはコードが押さえ易くなりました、チョーキングやビブラートも大変具合が良いです
難点として幅広指板は掌が小さい人には不向きかもしれませんし、ブリッジが専用のものでないと効果がありませんし、カポも対応が必要ですね

6: 胴体とネックの関係

北村謙さんが「インピーダンス」という言葉で表現されていますが、胴体の持つ「或る値」と、ネックが持つ「或る値」の整合性が取れてない場合、胴体のパワーがネックに吸収されてしまい楽器のパワーが半減、逆に胴体からのパワーがネックの発するエネルギーによって倍増して響きが増す、という考え方です
私は「質量」と「固有の振動数」だと推測していますが、今のところ測定する方法がありません、勘に頼るプリミティブな方法で「なんとなくネックの方が重い?」と感じたり「ボディの方がやたらと重い」そんな個体にはバランスウエイトを取り付けてみて好結果を得た事があります
胴体を少し重くするには1/4のナットに代えて5/16のダルマナットを取り付け、ティルピースをプレスト型からカーシュナー型に交換するなどの方法があり、胴体が重いと感じたらフレットを太めのタイプに打ち替えたり重い目のカポを常備装着したり、糸巻きを4個ともキースチューナーに交換するなどが考えられます
ちなみにメイプルネックの場合、木材の目の詰まり具合でかなり質量的な差がありました

以上、リペアやセットアップの事例などからの(殆ど余談ですが)お話しをさせていただきました、いろいろトライして「訳がわからん‼️」状態になった時は前編の基本に戻って再度セットアップされることをお勧めします



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