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三重県安濃川 アマゴ発眼卵放流ボックス回収

 発眼卵放流ボックスの回収のため、安濃川へ行ってきました。ボックスの回収は、解禁前に行う必要がありますが、中に残っている仔魚を解き放つ目的もあります。
 今回使用したボックスの構造は、放流時の記事を参照してください。

 

暖冬の影響

 この日(2/4)は、先週の寒波の影響で降った雪が、まだ少し残っていました。

 雪が降る前は、暖冬で暖かい日が続いたため、  仔魚が成長しすぎている可能性があったため、回収の日を早めました。
 以前は3月になっても雪が残っている事も多く、2月下旬のボックス回収で問題ありませんでしたが(水温が低く、仔魚が動かない)、今年は12~1月に温かい日が続いたため、3週間前倒ししました。

藻と砂とシルトに埋もれるボックス

ぱっと見、ゴミに埋もれるようにしか見えないボックス

 泥とシルトの堆積がひどいです。川底には大量の藻も発生しています。魚たちは大丈夫でしょうか。

あと2cm砂が積もったら、全部生き埋めになっていた(汗)

 こちらは従来型ボックスです。砂利が大量に入り込みましたが、魚は元気そうです。実績と安定感があります。
 左手で持っている、卵を乗せる部分に施す細工(孵化した稚魚が下段に落ちるよう、カッターでマス目を広げる作業)が面倒なことと、死卵が発生した際、死卵から発生したカビが、正常な発眼卵に伝染することがあるのがネックです。

新型の放流ボックスの効果

 このボックス(FlyHighFisher2型)自体は、2006年にほぼ原形が完成していますが、死卵発生時のカビの伝染を防止すべく、今も改造を続けています。

FlyHighFisher第5世代型ボックス。あと5年位したら、ステルス機能とか獲得しそう。

 カビの伝染予防に注力した、次世代主力機として期待される、FlyHighFisher5型ボックスです。死卵は見られません。
 死卵からカビが発生しても、卵同士がほぼ接触していないため、伝染を防止することが期待できます。
 海外のサーモンエッグ用インキュベーターある、Jordan / Scotty Fish Egg Incubator から着想を得ています。
 大型化が容易で、作成も簡単。次回は、これを半数以上に採用予定です。

ほっそい

 仔魚を解き放ちます。予想通り成長が早く、卵嚢の栄養分を全て使い果たしたようで、爪楊枝みたいな体型になっています。
 もう少し回収が遅かったら、餓死していたかもしれません。

さっそく何かを捕食していました。
群れて泳ぎます。
仔魚がほとんど残っていない

 場所によって、ボックス内に残っている魚の数が全然違います。
 流速などの影響で、仔魚が脱出用の穴から外へ出た可能性がありますが、ボックスによって脱出用穴の大きさ・数を変えているため、その差と思われます。
 脱出用の穴は、少なく・小さくすればボックス内に留まる魚が増える一方で、一番最初のボックスのように全滅のリスクが高まります。
 一方で、多く・大きくすれば、魚がどんどん脱出するので全滅のリスクは下がりますが、暖冬などで仔魚が活発に泳ぐと、1月とかに外へ出てしまうリスクが高まります。いまだに正解が分からない部分です。

適当に試したボックスも凄かった

 現地で欠陥が発覚して、使用を断念したFlyHighFisher4型(まともに卵が入れられない)を破棄し、現場で思いついたのが、単に小石を詰めるタイプ。

適当に作ったのが凄かった。

 水産庁だったかのパンフレットにも書かれている方法だが、これも素晴らしい結果でした。
 卵が立体的に分布するので、死卵の発生やカビの伝染が少なく、かなり期待できそう。今後、少数を継続して試行予定です。

FlyHighFisher2型・改(2階建て構造)

 主力機(FlyHighFisher2型)の網の上に発眼卵を乗せ、四隅に小石を配置。その上にさらに網を乗せ、2階建てにして卵を入れる方法。
 これが凄かったです。仔魚が大量に残っているのが、一概に成功ではないのですが、死卵もほぼなく、ウヨウヨ魚が残っていました。
 1ボックスで1000粒とかの放流も容易と思われ、省力かつ低コスト化が期待できます。

やっぱりほっそい

 今回検証した、卵を立体的に散らし、卵同士をなるべく接触させない方法は、いずれのパターンも成功と言ってよいと思います。次回以降、この構造を発展させていこうと思います。

放流しても魚は増えない?

 なお、2023年になって、北海道大学の助教によって発表された論文「放流しても魚は増えない」が、釣り人や漁協関係者を騒がせました。
 しかし、プレスリリースのタイトルと概要のみが大きく報道され、「放流しても魚は増えない、むしろ減る」と情報が独り歩きしたため、関係者も後日、補足の説明を行っています。
 専門的な計算部分は、一般人には難しいと思いますが、それ程長い論文ではないので目を通してみてください。
 調査河川が、サクラマスが天然遡上する複数の川において、全面禁漁・保護水面とされ人の立ち入りを禁止した川と、20万匹以上の稚魚放流を行っている川での比較です。海外の事例も多数引用されています。
 「天然(野生)のサケ・マスが遡上し、産卵する川」が日本にどれだけあるか分かりませんが、そんな川に、何万尾も稚魚を放流したら、そりゃ変な事になるはずです。少なくとも、安濃川のような土砂と流木に埋もれ、渓魚が産卵できる場所が殆どない川に、そのまま適用するのは難しい内容と思われます。
 今後、漁業協同組合の増殖義務(漁業法168条)について、成魚放流というのは、解禁日の一部区間でのお祭り用、子供専用釣り場など、釣り堀的な運用に限られるでしょう。
 主体として、禁漁区域の設置と産卵場の造成、渓畔林の整備(放置針葉樹の伐採と広葉樹の植樹)、魚道の設置や埋もれて機能していない魚道の整備などにシフトすると思います。
 漁協組合員の高齢化もあり、放流は、発眼卵放流(卵や精子を野生魚から採取できればなおよい)がメインとなっていくのではないでしょうか。

★放流資金カンパのお願い★

 安濃川での発眼卵放流にご賛同、ご支援いただける方は、こちらのページからお買い物をお願いします。¥200円のお買い物が、1粒の発眼卵に変身します!(笑)


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