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三重県安濃川 アマゴ発眼卵放流(2022年11月~12月)

安濃川でのアマゴ発眼卵放流について

安濃川漁業協同組合

 noteでは初めての投稿となるので、私が行っているアマゴの発眼卵放流活動について、簡単に経緯をご説明します。過去の活動は、本家のこちらのページに掲載されています。
 三重県にあった、安濃川漁業協同組合は、2003(平成15)年12月31日に、組合員の減少と高齢化により解散しました。
 漁協があった当時、たしか、日券は¥300・年券¥3000と、今では考えられない低価格でした。
 当然、魚の放流数も少なかった(というか、解散前の数年は放流していなかった気がする)のですが、ダム湖から遡上する大型アマゴが自然産卵していたようで、小型ながら綺麗なアマゴがよく釣れました。

2008年10月 電気ショッカーによる尾数調査で捕獲された個体
同日観察された、野生アマゴの産卵行動

 当時、安濃川でフライフィッシングをしている人は相当珍しく、流域の組合員の爺さん達とは、顔見知りでした。組合員の帽子は、赤と白のツートンカラーでしたので、100m離れていても組合員の方だと分かり、離れた場所からの「よう!釣れたか?」「ぜんぜん!(笑)」という会話が日常でした。(今思えば、当時学生だった私は、かなりへたくそだった)
 タケノコや山菜を頂くこともありましたが、釣りの最中に問答無用で渡されるため、タケノコを抱えながら釣りをしたのは懐かしい思い出です。

荒れる川

1997年頃にあった台風により、川の周辺の山林が大きな被害を受けた

 ある日、安濃ダム湖の湖畔にある湖水荘へ游漁証を買いに行くと「必要なくなった」との説明を受けました。
 この時は、「漁協が解散した」という認識は持っておらず、何かよく分からんが、無料で釣りができるようになって嬉しいという印象だけでした。
 しかし、魚の放流がなくなり、人が川に来なくなった影響か、川が一気に荒廃し始めました。
 原因は自然災害ではなく、間伐材が川へ投げ込まれたり、粗大ごみが捨てられるなどで、大半は人間の手によるものでした。つまり、「人の目」が少なくなったことで、やりたい放題になってしまったのです。
 エロビデオなら可愛いもので(←オイ)、捨てられるのはタイヤ、バッテリー、瓦、テレビ、冷蔵庫、マットレスなど多種多様。車も数台捨てられ、極めつけは盗難にあってこじ開けられた大型金庫が、川の中に転がっていたことでした。一部林道は粗大ゴミの回廊となり、素人目にも恐ろしい光景でした。
 台風による山林の荒廃もあり、川は見る見る土砂で埋まり始め、釣れるアマゴの数は目に見えて減っていきました。

アマゴ発眼卵放流のきっかけ

 漁協が解散したことを知ったのは、その2年後。
 高校時代から通い続けた川でもあり、この状況を何とかしたい、という気持ちが強くなりました。
 個人で成魚を放流するのは、機材の準備や費用的にも困難ですので、当時から、三重県宮川でアマゴ発眼卵放流を行っていたstreamsideさんや、他県で有志放流活動をされている方々のサイトを参考にしました。
 放流するアマゴは、漁協が放流していたのと同じアマゴがいいと思い、かつて漁協の事務局があった芸濃町役場(市町村合併で今はもうありません)に確認しましたが、安濃川近隣地域の養魚場ではなく、県外の養魚場から稚魚仕入れていた事が判明しました。
 そこで、気休め程度でしかありませんが、安濃川水系に比較的近い、雲出川水系の養魚場を発眼卵の仕入れ先として選定しました。

気が付けば17年続いていた

 安濃川でのアマゴ発眼卵放流は、今回(2022年)で17年目を迎えました。
 当初、漁協というのは、すぐに新しいものが設立され、また放流と遊漁料が復活するのだろうと考えていましたが、そんな甘いものではありませんでした。近年では三重県内の他の漁協でも、解散するところが出てきました。
 長年続けている発眼卵放流ですが、続けるうちに、内水面漁協のいわゆる「増殖義務」について興味が湧いてきました。我々遊漁者が、漁協に支払うお金は、1日券で概ね2000円。年券で概ね8000円程度です。
 発眼卵の価格は、養魚場にもよるでしょうが、1粒2~4円程度ですので、10人が年券を買うと、漁協は数万粒の発眼卵放流が可能な資金が確保できることになります。そこに人件費が上乗せされますが、私は一人でも放流活動ができる事を実証するため、基本的に放流は全て一人で行っています(助手という名の娘が登場することはありますが)。つまり、日当1万円としても、総額3万円あれば、5000~10000粒の発眼卵放流は可能なのです。
 現在の内水面漁協の苦労は、大変なものがあると聞きますが、多くの漁協で実施される、成魚放流主体の増殖義務履行は、特に費用対効果という点、解禁日にすぐ沢山釣りたいという遊漁者(のわがまま)との狭間で、解決すべき大きな問題を抱えていると感じます。

発眼卵からどれぐらい生き残る?

 安濃川は、川の大半が土砂・シルトに埋もれ、夏場の水温は25度を超え、川へのアクセスが良すぎるため、釣り・投網をする人も多く、川鵜もアオサギもカワガラスもカワセミも生息するという、アマゴにとっては生き地獄のような環境ですが、意外と魚は生き残る、という印象です。
 発眼卵から生まれた仔魚が、何%生き残るかという問題について、安濃川では、ALC(アリザリン・コンプレクソン)という薬品を用いた、耳石の染色標識による個体数調査が、数回行われています。

ALC染色されたアマゴの耳石

 ALCで標識された発眼卵放流由来の、アマゴ個体数の計算方法等は割愛しますが、指サイズまで生き残る率は、最大で約27%でした。
 生物として最も弱い時期を生き延び、夏になるとフライに多数反応することから、水温で死滅することもないようですが、残念ながら、夏休みを超えると、稚魚が激減することも分かってきました。
 以前「天ぷらにすると頭から食えて旨い」「無料で釣れて穴場」ということで、安濃川で釣れた多数のアマゴ稚魚を、クーラーに入れてお店に持ってこられた方がいる、という話を、釣具店の店員さんから情報提供いただいたことがあります。まぁ、そういうのは仕方ないかなという感じで、要は、10cm近くになると、釣られちゃうわけです。
 秘密の釣れる川を作りたいわけでもなく、自主放流してるから勝手に釣るなとか言うのは筋違い(時々、これを言ってしまって、放流活動をしているグループと釣り人がトラブることがある)ですが、もう少し自重してほしいなとは感じます。
 なお、三重県漁業調整規則で、12cm以下のアマゴの採捕は禁止されていますので、アマゴ稚魚を持ち帰るのは、そもそも法令違反です。
 同様に、漁協がないので、”いつでも” ”無料で” 釣りが出来ると勘違いされ、禁漁期にアマゴを釣っている方を時々見かけますが、内水面の禁漁期間は、漁協の遊漁規則ではなく、県の漁業調整規則で決まっているので、禁漁期間は存在します。
 三重県の場合、10月1日から翌年2月末日までは、県内一律で禁漁です。漁協によって異なるのは、禁漁期間の繰り上げ(9月15日禁漁など)か、解禁日の繰り下げ(3月第4週の日曜日解禁など)です。

費用対効果は

 比較的新しい情報として、渓魚の放流で最も効果が高いのは、親魚放流という研究結果やレポートが出てきています。
 具体的には、15cmの渓流魚を1匹増やすのに必要な経費について、下記のような情報があります。

・稚魚放流・・・560円
・成魚放流・・・120円以上(※15cmの魚が120円以上はする)
・発眼卵放流・・・100円
・親魚放流・・・90円

水産庁パンフレット 渓流魚の増やし方

 効果が高くて安そうな、稚魚放流が一番効果が低いのは意外です。
 親魚放流は、卵を持ったメスを自然河川に放流し、ペアとなるオスは自然河川で成長した個体であることから、養魚場で育ったオス・メスを掛け合わせるより、生まれた仔魚の生き抜く力が強いものと推察されます。
 一方で、仮に5000粒の発眼卵相当の親魚を放流する場合、1尾の抱卵数が300粒とすると、16~17匹が必要です。
 上記経費の計算根拠となっているのは、岐阜県水産研究所(岐阜県河川環境研究所、下呂支所など含む)の各種報告がメインで、ほかには大学の研究論文のようです。
 しかし、アマゴ親魚の価格2,000円/kgをベースに、養殖池または完全禁漁にした区域で、抱卵数・発眼率・孵化数・生育数を計算している点で、若干疑問が残ります。
1 卵以外の放流コストが計算されていない
 生きた成魚を川へ運び、放流するには、酸素ボンベ、軽トラの他、少なくとも2名以上の人件費を要します。成魚放流や親魚放流の様子を見る限り、10人位の人間が動いており、これをタダ(ボランティア)で計上するのは無理があります。何をするにも、人件費が一番高いです。
2 放流された親魚が、全て産卵する前提になっている
 放流された魚が、獣や鳥による捕食されるリスクと、抱卵するまで養殖場で育った魚なので、短期間とはいえ自然河川では生き残れない可能性があります。大雨で流される可能性もあるでしょう。なにより、人による密漁が考慮されていません
 実際、私は放流された親魚が釣られてしまったという話を、組合の方から聞いたことがあります。研究所のレポートでも「親魚 1 尾の損耗 (密漁・鳥による食害など) でも、増殖効率が著しく低下する。」とあり、密漁対策は相当気をつける必要があるように思われます。
 既に提案はなされているようですが、もしかすると、親魚(メス)を河川に放流するより、親魚(オス)を自然河川から捕獲し、その精子を使って発眼卵を育成する方が、費用対効果の面では優位なのかもしれません。

自作バイバード・ボックス

 私が発眼卵放流を行う際、もっともこだわっているのが、自作のバイバードボックスです。本家のページで詳しく解説していますが、毎年のように、新型ボックスが誕生しています。(そして消えていく)

最新型5型(上)と主力の2型(下)

 市販品(購入方法が色々面倒。本家で買うには、1~300個だと$4.75/個。ついでに、政府機関の承認が必要?)は、ウィットロック・バイバートボックス(Whitlock-Vibert box)と言い、開発者の名前から名付けられています。自作ボックスは、インキュベーターボックス、フィッシュエッグインキュベーター、またはハッチェリーボックスと呼ぶのが正しいです。
 自主放流では、発眼卵の代金の次に、この放流用ボックスの費用がかさみますが、当方で制作しているボックスは、材料費だけなら1つ200円程度です。
 私は、仔魚やアマゴの生態を知るきっかけにもなったので、自作して本当によかったと思っています。

子どもたちではなく、我々がなんとかする

 このような活動においては「次の世代へ」とか「子ども、孫たちが」と、なぜか子孫にバトンタッチしたがる傾向があり、「●●川を守る会」とか「●●県渓流魚ネットワーク」など、よくわからん団体も設立されたりします。
 こんなものは、20世紀から繰り返されており、10年間継続して活動しているケースをほぼ見かけません。
 やるなら最低でも10年、無理はせず、可能な限り低コストかつ低労力で行える方法を探求すべきです。
 人を集め、それらしいホームページを立ち上げ、年数回の会合を開いて、地元の小学生や幼稚園を参加させる企画を立ち上げて・・・とかなると、それはもはや仕事の一環であり、かならず息切れするというか、メンドーになってやめます。2~3回放流して、止めてしまう原因です。中途半端が一番好ましくありません。
 某温泉宿の地下で、魔女にこき使われている妖怪ジジイの名セリフ「手ぇ出すならしまいまでやれ!」がモットーです。
 なお、私は、発眼卵放流の効果があるなら、魚が増えた時点で休止し、台風や豪雨で魚が減ったら、その年は放流するという想定で活動を始めましたが、効果が微妙過ぎて、止めるに止められない状況が続いています。(ビックリするほど魚が増える年がある)
 現在、発眼卵放流の活動を続けつつ、考えていることは、漁業調整規則の改正です。
 体長制限や禁漁期間を無視する輩がいる以上、どこまで実効性があるかわかりませんが、禁漁期の前に「9月1日から9月30日までの間、25cm以上のアマゴの採捕を禁止する」という漁業調整規則改正が出来ないかと思います。これは、お金も人手もかからず、高い効果を発揮する可能性があります。
 今後は、こういったソフト面の方策についても、取り込みたいと思います。

~放流資金カンパのお願い~
本家サイトでは毎年お願いしておりますが、発眼卵放流にご賛同いただける方は、こちらのサイトからお買い物か旅行の予約をお願いします。
お買い上げ200円毎が、発眼卵1粒に変身するという、超常現象が発生しますw


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