人生で初めてのパンティー

職場にて。神妙な面持ちの同僚Tに誘われるまま、小さな会議室に足を踏み込んだ。部屋の隅に置かれた椅子に向かい合って座り、見つめ合ってしばらく。一呼吸して、同僚Tは語りだした。

「誰にも話したことがない、内緒の話なんだけど…」

先日、突然の不幸で親族を失った彼は、遺品の整理や行政手続きなどで忙殺される毎日を送っていたが、ふと学生時代の淡い青春の日々から一つのエピソードを思い出したという。

夕陽が射し込むセピア色の教室、彼は学校の教室、学習机に腰掛け、外を見ながらなんとなく時間を過ごしていたそうだ。すると、同じ学級の女子生徒が教室に入ってきて、彼の隣の席に座ったという。女子生徒は彼の眼を見つめ、いたずらっぽく笑みを浮かべながら自らの両手をスカートの中へ入れ、両腰のあたりで少し弄ったあと、一気にすーっと足下に降ろし最後は脚を抜き去った。

続けて女子生徒は、笑みを崩さぬまま両手に持った何かを彼の机にサッと置いたのち、どこかに行ってしまった。

彼は呆気にとられながら、机に置かれたものをみた。

パンティーであった。
彼にとって人生で初めてのパンティーであった。

同僚Tは、小柄で寡黙な男である。誰にでも親切で酒もタバコも博打もやらない誠実で堅実な男でもある。しかし、誰よりも下ネタが好きな下ネタ大統領であった。そんな自分がこんなエロ漫画エピソードを忘れてしまっていたなんて……と悔しがっていた。

一生誰にも話さず、自分の心に大切に忍ばせていたつもりが、いつの間にか隠れ込んでしまうことはよくある。密やかに大切にしているものほど、壊れたり無くしたりしてしまう。改めて再認識した。


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