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クールでホットな奴らがハマに帰ってきた―「帰ってきた あぶない刑事」―

 映画館に行くのは何年ぶりだろうか。窓口で穴の空いたプラスチック板越しに、あーだこーだ言いながらチケットを買う時代は終わっていたのだな…… 。粛々と券売機をポチポチ押して発券。タッチパネルがなかなか反応せず、お札の投入口がわからず、アタフタするも無事にチケットを入手。

 朝イチから通勤ラッシュに揉まれて映画館に「あぶ刑事」を観にくる人なんているんだろか?と思っていたら、これがけっこう、いるわいるわ。客の年齢差は高め。まあ、そりゃそうだ。あれから38年だもの。客席にはサングラスをキメたお兄さん(おじさん)。タカ&ユージというよりも、どちらかと言うと井上陽水のような……。でも陽水さん好きだから、問題ないね。

 銀星会会長・前尾源次郎という名前が出てきたり、TVシリーズのころのBGMが流れたり、近藤課長の「大馬鹿者!」が聞けたり、ゴールドツートンのレパードが登場したりで、懐かしさと嬉しさがどんちゃん騒ぎ。現在の港署の若手刑事たちが前面に出すぎないのもよかった。永峰彩夏という名前を聞いて、もしや映画「またまたあぶない刑事」に登場したあのナガミネか?と思ったが、どうやら無関係。同じことを思った人、きっといるだろうなぁ。

 もはやベテラン俳優のはずなのに、タカとユージに挟まれると、すっかりあの頃のトロい動物に戻ってしまう仲村トオル。ぶっ飛んだ真山薫も、扇子のナカさんもあの頃もまま。全編通してTVシリーズに対するリスペクトを感じた。

 菅田俊とか室田日出男とか中西良太とか内藤剛志とか、見るからに血の気が多くて、拳銃ぶっ放して咆哮して殴りかかってきそうなギラついた役者とは対照的に、スマートな現代的悪役を演じた早乙女太一。柄本明が演じた前尾源次郎の何を考えているんだかわからない蛇のような目つきと、早乙女太一の眼差しが似ている。ぴったりなキャスティングだ。タカとユージの二人からは「腐った鰯の目」と散々な言われようだったけど、物語の展開とともに、静かにだんだんと狂気を増す冷徹な瞳は早乙女太一の大きな武器だ。奴は果たして退治されたのだろうか……なんだか生きてそうだな……

 タカの冴えわたる拳銃捌きはクール。バイクアクションも健在。やっぱりタカはノーヘルでバイクでなくっちゃ。女性の扱いもスマートでダンディー。これぞザ・オトナの男。渋い。渋すぎる。コートをバサッと放り捨てて、後ろから女性を抱きしめるシーンが様になる男なんてなかなかいない。私も抱きしめられたい。なんなら羽交い絞めにされて息の根を止められてもいい。

 一方、柴田恭兵の身体能力も相変わらずキレがある。まぁ、脚が高く上がること! 彩夏の母の形見である指輪にチェーンを付けて「指にはめられないなら、なくさないように首から下げておけば?」と彩夏に手渡す。女の子に対するこういうところは、いかにもユージらしい。これがタカとの違い。「あぶない刑事」の第40話「温情」で、記憶喪失になったヨーコ(仮名)に記憶が戻るおまじないだと言ってネックレスを首にかけてあげるシーンがある。それを思い出した。っくぅー、惚れる。

 エンドロールでは二人がチャカチャカ走ってジャンプ! 懐かしいという思いよりも、アップデートされた二人に対して、「生きていてくれてありがとう!」「私も生きててよかったわ!」という安堵感で胸がいっぱいだった。

「あぶない刑事」は話の内容の細かいところをどうこう言うものではない。タカとユージの佇まいと圧倒的な存在感。コミカルでシリアスでスタイリッシュ。キザでお洒落なセリフにジョーク。大人が全力で真面目にふざけて面白くてかっこいいものをつくっている。その世界観を楽しむのが「あぶない刑事」だ。やるせない事件や少年犯罪、悲恋、理不尽な権力にやり場のない怒りが描かれても、けっして悲壮感はない。見終わって、「あー面白かった!」それでいい。私はそう思っている。(敬称略)

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