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遺伝子組み換えの輪郭01

●遺伝子組み換え作物に関する抵抗感 
 遺伝子組み換え作物に対する抵抗感はいつ頃から私たちの中に生まれて来たのだろうか。私たちの嗜好性や嫌悪感といった感情的な部分は、生理的なものだけではなく心理的な要素から来ていることが多分にある。遺伝子組み換えという概念がなかったころは、嫌悪感など生まれなかっただろう。社会的表象が生まれたときに、それに対する是非の概念も誕生する。それが引き金となり我々の感情的な部分を支配するようになることもまた避けられないことではある。
 こと遺伝子組み換え技術に関しては、身体に入る食品に対して用いられることが多いため、嫌悪感を左右する。そういう概念を持たない子供にとっては関係のない感情かもしれない。私自身は遺伝子組み換え作物に対して違和感を抱いている側に今は立っている。しかしそれとて科学的な議論が熟してくれば立場や感覚が変わると思っている。それぐらい我々の感覚はあてにならない。しかしそれも含めて冷静に見つめるために、現段階でもわかっていることを少し振り返ってみることには何らかの意味があるにちがいない。
  
●種のデザイン
 そもそも人類は農業を始めた時点から、植物対して何らかの人為的な遺伝子の操作を行なっている。作物は基本的には人の手によってデザインされることで生まれる。人類がこれまでにデザインしてきた植物は無数にある。特に代表的な主食に関してはかなり初期の頃より種が人為的に選択され、誘導されている。
 文明の発祥の地の一つである中近東では13000年前からライ麦が育てられている。小麦は10500年前、オオムギは10000年前から育てられていることがわかっているようだ。
 南米ではカボチャが10000年前から育てられ、トウモロコシは9000年前から、ジャガイモは7000年前から育てられている、アジアでもコメやキビが8000年前から栽培されており、アフリカでもヤムイモやタロイモなどは7000年前から育てられている。
 こうした栽培は自然の中にある特定の植物の種を集めてきて育成する中で、収穫の実りの多いものや病虫害に強いものが選択され、その特徴を強化したり弱点を補完するような掛け合わせが行われる。そうやって人間により多くの実りをもたらすように誘導される操作が施される。
 こうしたものは、広義の意味での遺伝子操作にはあたるのかもしれない。しかし一般的には「品種改良」と呼ぶ方が適切だ。品種改良は作物の形質に着目している。それに対して遺伝子組み換えでは、その形質を生み出す原因となる遺伝子を識別して選択的に組み替えるような行為を指す。そういう操作を総称してGM(genetic modification)という。ここで問題になっているのは従来の品種改良ではなく、遺伝子という単位にまで細かく入りデザインするような行為である。それは現代になってからでないと起こりえないことだからである。

●種を超えた交配
 品種改良に抵抗感が薄いのは、農業の始まりとともにずっと行われて来たという信頼感から来ている。遺伝子などという概念がなかったころから取られてきたのは、優れた品種を生み出すために同種(稲と稲など)や近隣種(ウマとロバなど)を交配させるという方法だった。
 大きく実をつけるタネばかり集めて育成すれば、その翌年に取れるタネも大きく実をつけるものになる可能性が高い。そうやって選択的にタネを育てていけば自ずとそればかりが生き残ることになる。これは経験的に培われたものであり、心理的な抵抗感は少ないかもしれない。
 しかし遺伝子組み換えで行われるのは必ずしも同種同士の交配ではない。遺伝子はどのような種にでも存在し、遺伝子というスケールまで入って行くと種の違いは問題ではなくなるからだ。だから遺伝子組み換えでは植物の遺伝子を豚に組み込んだりすることも可能だ。これが心理的な抵抗感を生んでいる要因の一つではなかろうか。自然とは何かを定義するのは難しいが、明らかに”不自然”に見えるからだ。

●遺伝子組み換えの歴史
 そもそも遺伝学は1865年にメンデルが発見した「遺伝の法則」以降に大きく進展していった。20世紀に入ってからもド・フリースらがメンデルの法則を再発見し、それに基づいて人工交配を科学的に行うようになった。遺伝子という名称自体も1909年にヨハンセンによって名付けられた。つまり遺伝子などという概念は19世紀まではなかったものである。
 しかしより違和感を増すエピソードが加わったのは、1927年にマラーがX線によって突然変異を人為的に誘発したことなのではないかと私は思っている。自然の中では起こる確率の低そうな不自然な出来事だからである。
 その後、1944 年にはアベリーとグリフィスが、肺炎双球菌を使って形質転換遺伝子が DNA であることを発見し、1953 年にはワトソンとクリックがそのDNA の構造が二重らせんであることを解明した。
 ちなみに”遺伝子”と”DNA”というのは異なるものである。DNAというのはデオキシリボ核酸という「物質」である。それに対して遺伝子とはそのDNAの中の一部に刻まれている「情報」のことである。DNAには遺伝情報をもっている部分ともっていない部分がある。だから全てのデオキシリボ核酸が遺伝情報を持っているわけではない。
 そのDNAが二重螺旋の構造を取ることが解明し、その後1965 年にはニーレンバーグ、オチョアらが、DNA配列とタンパク質とが関連していることを解明した。そうやって遺伝子の正体が次々と明らかになっていくことで、よりそれを操作しようということになっていく。
 その大きな転換点の一つに、1973年にボイヤーとコーエンらによって組換え DNA 実験法が確立されたことがある。それを機に、食品と薬品の業界でその遺伝子組み換え技術が応用され始めるのだ。1977年に米国で遺伝子組換え微生物を使った薬品会社ジェネンティック社が創設され、その5年後の1982年にはアグロバクテリウムを使って初めての遺伝子組換え植物作成が行われる。そこから植物で遺伝子組換えによる品種改良が可能になる
 薬品の方でも、ヒトの遺伝子が大腸菌バクテリアに導入されることで、インスリンが安価に量産できるようになった。今では製薬で遺伝子組み換えするのは常識であり、新薬の約1/4が遺伝子組み換え技術を用いているとも言われている。

●食品における遺伝子組み換え

 
 

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