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脳の構造

●脳と記憶

記憶とは脳の海馬領域で保持されている。
だとすればそれはどういう物質として保持されているのか。
それを求めて30年ほど前は様々な研究者が「記憶物質」を求めて研究していた時代があった。
ベイラー大学のアンガー博士はネズミを使った実験によって、「スコトフォビン」というペプチドからなる物質があるという仮説を立てた。
しかし結局1977年にアンガー博士が亡くなるまでスコトフォビンの存在は証明できず、彼の死とともに記憶物質への探求は途絶えた。

人間の体は常に代謝し続けている。食べたものはすぐに体の構成物質となり、また身体から抜け出していく。だから常に生命は生々流転している。(もちろん生命だけではなくあらゆる物質がそうであるが。)
この生命観は釈迦は2500年前から唱えていたが、ルドルフ・シェーンハイマーによって生命現象とは「動的な分子の平衡状態」であるということが明らかにされたときに決定的になった。

物質が常に代謝し続ける生命体の中で、記憶が保持されるというのは、物質に記憶が宿っているわけではないことは明らかだ。
では改めて記憶とは一体何か。
その新しい説明というのが記憶は神経回路に宿っているという考え方だ。
神経の細胞であるニューロンはシナプスによって互いに結合し神経回路を形成している、
経験や学習、その他のあらゆる刺激が回路のどこかに入ってくると、その回路に電気的・化学的な信号が伝わる。その信号が繰り返して、回路を流れると、その系統の回路が強化されていく。
この神経回路の情報のやりとりのペプチドが働いていることは確かだが、タンパク質や物質自体は入れ替わっても、細胞と細胞とが形作る回路の形は保持されるので記憶が保持されるのだ。

(以上、「動的平衡」より)

つまり脳とは回路であり、系であって物質ではない。その回路は脳内だけではなく、身体にも拡張され、さらに環境にまで拡張されているので、身体や環境にも記憶のトリガーが埋め込まれていると考えられる。

●脳の構造と機能

まず大まかに脳の構造というのは、「脳幹」、「間脳」、「大脳辺縁系」、「皮質」という4つのパートに分かれる。
これらは中枢神経軸に沿って内側・下から順番に外側・上に並んでいる。
これは脳の進化の順番でもあり、脳幹→間脳→大脳辺縁系→皮質という順番に進化・発達してきたと言える。
いわゆる内側が爬虫類の脳で、その外側に旧哺乳類、そして一番外側が新哺乳類という順番をポール・マクリーンは脳の三層構造説として唱えた。
35億年前に始まった生命は菌類などであったが、6億5000年前に多細胞生物になり初期のクラゲのような形となった。その頃には感覚運動系を発達させ、互いにコミュニケーションをとるようになっていた。これが神経組織の始まりとみられる。それらの神経系は進化し、脳という中央司令塔へと集約されるようになった。
「脳幹」は爬虫類の脳として、最も原始的な欲求を持っている。「延髄」と「橋」、「中脳」と「間脳」をあわせて脳幹と呼ぶが、狭義の「脳幹」では間脳と視床および視床下部を除外して、下位脳幹と呼ばれることがある。
ノルエピネフリンやドーパミンといった神経修飾物質を脳内に送り出し、行動に備えさせ、エネルギーを与える。目標が達成されれば報酬があたえられる。
「間脳」は「視床」(脳の感覚情報の中央配電盤)と「視床下部」からなり、自律神経系を指揮し、脳下垂体を通して内分泌腺系に影響を及ぼす。視床下部は主要な衝動(渇き、食欲、性欲など)や感情(恐怖や怒り)を制御する。
「視床」は感覚情報の主要な中継局。
「視床下部」は空腹や性欲といった基本的な衝動を制御する。オキシトシンを作る。脳下垂体を活性化する。
「脳下垂体」はエンドルフィンを作る。ストレス・ホルモンを誘発する。オキシトシンを蓄え、放出する。
「大脳辺縁系」は中枢神経軸から進化したもので、「扁桃体」、「海馬」、「大脳基底核」を含んでいる。「視床下部」や「脳下垂体」を含むこともある。さらに「帯状皮質」や「島」などの皮質の一部を含むこともある。この大脳辺縁系は感情と動機をつかさどっている。大脳辺縁系の構造物は中枢神経軸の両側に位置しているが、中枢神経軸の下に位置する場合もある(たとえば扁桃体)。それらは中枢神経軸のより高度なレベルと見なされている。進化したのがより最近だからである。
「扁桃体」は感情のこもった刺激や、否定的な刺激にとりわけ反応し、身体や脳に警鐘をならす役割を持つ。
苦しみは交感神経系(SNS)や視床下部、下垂体、副腎皮質系(HPA)を通して体内を流れる。このSNS/HPA系の活性化は扁桃体を敏感にする。それによって状態不安が引き起こされ、暗黙の記憶の形成を促す(無意識への定着か?)。その結果、不安は昂じて特性不安(状況に関わらない不安)になる。
その結果、神経・ホルモン系に特別な信号を素早く送る。中継点となっている視床が脳幹に目覚まし信号を送り、脳幹が刺激性のノルエピネフリンを脳内に放出する。交感神経系(SNS)が体内の主要な器官や筋肉群に信号を送り、闘争か逃走を備える。内分泌系の主要な調整器である視床下部が脳下垂体を促して、副腎に「ストレス・ホルモン」であるエピネフリンやコルチゾールを放出するように信号を送らせる。
SNS/HPA系の活性化は新しい記憶を形成するのに欠かせない海馬を疲弊させる。コルチゾールとそれに関連する副腎皮質ホルモンは両方とも、海馬の既存のシナプス結合を弱め、新たな結合を抑制する。
「海馬」
は新しい記憶を形成する。脅威を検知する。
「大脳基底核」は報酬および刺激を求めることや運動に関わっている。「基底核」とは組織のかたまりのこと。
「皮質」は「前頭前野皮質(PFC)」、「帯状皮質」、「島」を含む。抽象的な思考や概念、勝ち、プランニング、組織の「管理機能」、自己監視、衝動の抑制などを扱う。皮質にはまた、「感覚運動野(感覚機能と運動機能を結びつける皮質野)」、「頭頂葉(知覚)」、「側頭葉(言語と記憶)」、「後頭葉(ヴィジョン)」などが含まれる。
「大脳皮質」は二つの「半球」に分かれ、「脳梁」が二つの半球間の情報を行き来しつないでいる。ほとんどの人の左半球は逐次的な言語の処理にもっぱら携わる。一方、右半球は包括的な視覚空間的処理を専門とする。
「頭頂葉」は後頭上部に位置している(「葉」は皮質の丸いふくらみを指す)。大半の人にとって、左葉は、自分の身体が世界と異なっていることを明確にする。右葉は視覚によって知覚した対象の位置を身体座標における位置に変換する。その結果、「わたしは分離独立している」という基本的仮定におのずと行き着く。
「前頭前野皮質(PFC)」は意識を支えている。目標を設定し、計画を練り、行動を指揮する。大脳辺縁系を導き、ときに抑制することによって、感情を形作る。この部位は毎秒5回から8回アップデートされる。
「後頭葉皮質」は視覚情報を処理する場所であり、物体から跳ね返った光が瞬間的に意味あるイメージを形成する。そのイメージは「海馬」と「前頭前野皮質」に送られる。海馬は記憶を司っており、そのイメージが前に見たものかどうかを判断する。前頭前野皮質はそのイメージの詳しい分析を行う。
「帯状皮質」は脳梁を取り巻く襟のような形をした領域で報酬を司っており、ドーパミンの放出を制御している。
前帯状皮質(ACC)は注意を安定化させ、計画をモニターする。思考と感情を統合するのを助ける。
「島」は直観を含め、身体の内的状態を感知する。共感するのを助ける。頭の両側の側頭葉の内部にある。

●エピネフリンは心拍数を高め、瞳孔を散大させる。ノルエピネフリンは血液をより大きな筋肉群へと向かわせる。その間、気管支が広がって呼吸を容易にし、より強く打ったり、より早く走ったりすることを可能にする。
コルチゾールは免疫系を抑制し、傷口の炎症を鎮める。またストレス反応を活発にさせる。
まず脳幹に扁桃体をさらに刺激させ活性化する。そのことでさらに多くのコルチゾールを生み出させる。次にコルチゾールは扁桃体の働きを抑える海馬の活動を抑制する。それが扁桃体のブレーキを外させ、さらに多くのコルチゾールの生産を導く。

●大脳辺縁系や内分泌系が活発になると、前頭前野皮質の制御力が衰える。

●「小脳」は動きを制御する部位で、脳幹の後ろ側にある。

●脳の制御

これらの4つのレベルは中枢神経軸の上下で統合されている。概して下位のレベルは上位のレベルを方向付け、上位のレベルの構造物にエネルギーを補填する。上位のレベルは下位のレベルを導き、抑制する。下位のレベルは体を直接制御する力を持っているが、自らの神経ネットワークを変える能力には乏しい。上位のレベルは逆に行動から切り離されているが、神経可塑性が大きい。
(神経可塑性とは、経験や心の活動によって神経が形作られる能力)
中枢神経軸の下に行けばいくほど、反応は直接的となる。
上にいけばいくほど、時間の枠組みが延びる。たとえば皮質は将来より大きな報酬を得るために、現在の報酬に手をつけない選択をする。普通、展望が長くなればなるほど、意図は賢くなる。





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