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はじまりの物語 ⑱ 神鹿の杖



龍 りゅう

それがこの姿絵の中の我の名前か

近頃、水辺に訪れた者たちが不思議に
気分が軽くなるという噂が聞こえてきてね

魑魅魍魎の類なら直ちに成敗との沙汰をきいて
あの父から伝えきいた人の『重い』を汲み取る
ヘビに違いない、
そういって同行させてもらったんだ
こうみえて道風はいまや朝廷の神護院のホープだからね

あの夜の君
その身をよじりながらも
隆々と月に向かって立ち昇る姿


これ以上ない書きコトバだと思わないかい

絵もそうだが、コトバもそうだ
映し取る技を編み出すのが人間というのは上手だ

しかし、この絵の方は

蛇はもう一度目を凝らして絵を見つめた

うーむ、我には手はない
それにこの角はなんだ

2人は目線を上の方に向けて蛇から目をそむけた

まぁそれはね、
人間は自分より優れたものでないと認めないから
見てごらん、強そうな手だろう
クスクスッ と一葉が笑い
蛇の声なぞ聞こえませんというふりをした道風が
肩を震わせ笑いをこらえている

手はまあいい
なんだこの角は

コホン と白々しく咳をして
あ、そうそう一葉(かずはー )と
ごそごそと袋から長いものを取り出した

先の方に向かってすこしずつ細くなり
途中からは小さく三又に伸びて分かれている
まるで木の枝のようであるが
木よりは軽く丈夫そうにみえた

道風がいう

これは神護院の3代目神鹿(しんろく)の雄角だ
鹿は役目を終えた角を自身で生え変わらせる
それゆえ聖なる生きものとして
特別に守護の対象となっている

実際に上帝からの信任が厚く聖獣に違いなかった

その雄角の中をくり抜いてきた
立てれば一葉の胸のあたりまである立派な角だ
生え際の太い方がパカッと蓋になっていた

蛇が入れるぐらいの立派な角であろう

また道風はこちらをみて口の端を持ち上げる

うん、いいかもしれない
一葉がいった

京で少し用事を済ませたら
東国の方へ旅に出たいのだ

君に同行してもらいたいが日照りには弱いだろう
これなら杖にもなるし
巡行装束にぴったりだ

それに神鹿の杖だぞ、
旅の安全を守ってくれるさ
そう道風が付け加えた


⑱で15000字まできました
一葉と達吉(もうお忘れですか)以外は実在の人物の
名前をそのまま使っています

一葉もモデルがいますが考察の余地を残しておきます
なんのはなしですか、と
このままお付き合いくださる方
モデル探しをしてみる方
せっかくなのでもう少しお付き合いいただけますと幸いです

読んでいただきありがとうございます



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