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はじまりの物語⑥ 蛇使い



社は 白木のいい匂いがした

まだ術から覚めずかすかに薄目をあける

すると

『やあ、お目覚めかい?』


若い男の声がする


ぼんやりとした視界には
柔らかく軽やかにはねた髪の毛が入ってくる

その声の主はこちらの状況に構いもせず
つづけざまに話かけてくる


まったく蛇使いってやつは

『コトバ』を介さなくても
伝わると知っているのに
どうしてこうもお喋りなのか


『本当にキレイな玉に浄化できるんだね』
  感心した様子で話を続けてくる

『お腹に大事に持っていた玉も預からせて
   もらったよ』

そこで蛇はカッと目を見開いた

なんだと
あの天上に登っていくかのごとく
苦労してできたあの玉をか、

『すごいよね、あの玉!びっくりしちゃったよ』

そうだろうとも
あんなことはもう二度とごめんだが
もう次はないと思うとひときわ大事に思える
蛇にとって 大切な宝物であった


『でもね、僕はこっちが好きだけどね』

そういって首から下げた皮袋から取り出したのは
翠色した小さな玉であった

またもや術でおかしくなってしまったのか


この目の前にいる青年は『かの者』なのか


かの者は我が初めて『重い』を取り出した者だ
水辺にやって来ては変な術を試していた

なんだろうとコッソリ近づいたのだが
こちらを向いて二ッと笑う

蛇を見て 二ッと笑うだと

大抵のものはヒッと驚いて気味わるがり
石を投げてくるものもいた

なのに、二ッと笑い
やあ君、
こっちに来てみないかい
このツボの中はひんやりして気持ちがいいよ
その蛇体、
くねらせて入るかどうかやってみないかい
なんていう

またあるときは
君の鱗キレイだよね、
と目をキラキラさせて語りかけてくる

水の深い場所 深い翠の中に
光が透けているかのごとき
澄んだ瞳
優しさの中に哀しみを湛えたような翠

君にはしゃべらなくても伝わるとは思うけど
僕は『コトバ』が好きなんだ

呪術だって結局は『コトバ』の力なんだよ

そんなことをよく聞かせてくれた

けれども時折しゃべらない事があった
『コトバ』の力を熟知しているがゆえに
『コトバ』にできないことに関しても敏感な
細やかな性質だったのだろう

それでも
その喉元につかえている黒いもの
そのせいで明るさが陰っているのではあるまいか
そのものを取ってみたい

かの者は
それを感じでこちらを向いた

いいよ、君になら   
でもお願いがある


こうつぶやいてみてくれないか

なんのはなしですか

これは
出せない『おもい』を出せる
おまじないだよ、と言った

蛇は『コトバ』を発してみるのは初めてだった
でもあのツボにだって上手に入れたではないか

蛇はやってみた

舌の先が2つに分かれていて
聞くようには音が出せない

それでも懸命に

ナ    ン    ノ   ハ   ナ   シ   デ   ス    カ

と『コトバ』を発することをやってみる

何度やっても上手く発声なんかできやしない
上手く『コトバ』に出来るかどうかは
関係がなかった
出したいと思ってやってみること
それが大事だった 


かの者は『ありがとう』といって
語り始めた
蛇ははじめて『おもい』を『呑んだ』
そしてかの者がひとしきり話したあと
なんの咀嚼もせずに出した  

でてきたものは翠色のきれいな玉だった

『やあ!なんて事だ』
『これはすごいね!』
『色んな蛇を見てきたけど君みたいな
    蛇ははじめてだ』

それにすっかり軽くなったよ!』と
クシャクシャの笑顔でいった
 それで蛇は出したものは『重い』なのだと思った


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これは なんのはなしです果 にまつわる
はじまりの物語 です

⑦に続く

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