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人馴れ (2024.05.25)

休日、昼食をどこで食べるか悩む。昼頃予定があったので、その近くのGoogleマップをズームして、「カフェ」で検索。今ひとつピンと来ない。検索から一旦離れたら、いつ立てたかもう忘れてしまった、「行ってみたい」の緑の旗が出先の近くにあったので、そこに行くことにした。
小さい商店街を抜けて、看板も出ていない店に恐る恐る入った。メニュー表がない。とりあえず今日のカレーを注文して待つ。カウンター席では、常連客と店員がずっと楽しそうに話をしている。入れ替わりでやって来る、次の常連客。来る人、話に出てくる人、みんな顔見知り。
これは、間違えた気がする。客の一人が私の方をちらりと見て、多分こいつ知らんやつだなと判断した。そうです、知らんやつです、すみません。会話を聞きながら、ただ黙々と今日のカレーを食べた。食後のコーヒーをお願いしていなくて良かった。

もっと人と話す機会を増やしたいと思っている。文フリに参加したときも思った。もっとコミュニティ的なものでの親睦を深めるべきではないか? けれど、いかんせん単独行動に慣れてしまって、職場でも人と話すのが面倒だと思ってしまう。おしゃべりは嫌いではないのだけれど、最近は自分から話をし出すことが少なくなった。

「一人の方が楽じゃない?」
これ、何となく危ないなと思っている。何が、どう、どうして危ないのか、うまく説明できないのだけれど。一人で生きられたら、自分の思い通りに物事を進められたら、楽なのかもしれないけど。それが「楽しい」と言い切れる自信が、今の私にはない。
人と話すのがあまり得意ではないのに、人と話すコミュニティに入りたがる矛盾。寂しいとか、一人だと視野が狭くなるとか、誰かと何かを共有したいとか……憧れる理由がまだよく分からない。分からないけど、話せるような場に行ったり、話せるような技術や知識をつけたいとは思う。

午後はとにかく暇だったけれど、あまり家にはいたくなくて、鴨川まで歩いて川沿いで本を読んでいた。少し強い風が吹く中、気温も明るさもちょうど良くて、おしりが少し痛い以外はとても快適な読書環境だった(そして家に帰ってきて、足に虫刺されとかゆみがあることに気がつくのだった)。
隣に座っていた海外の人が弁当を食べ始めた、その時だった。突如耳元で大きな音がした。何が起きたか私は訳も分からぬまま、隣の外国人は大騒ぎしている。半分になったとんかつが、地面に投げ出されていた。とんかつに近づく大きな鳥(サギ?)が、長いくちばしでそれを掴んで、ごくりと飲んでしまった。
揚げ物を食べる鳥。それ健康的に大丈夫なのかと私が考えている間に、その場にいた他の人はみんなはしゃぎながら鳥にスマホを向けていた。
「大丈夫ですか?」きれいな日本語で、弁当を盗られた彼が私に話しかけてきた。「怖かった、ですね」私の方がたどたどしい。
「びっくりした! はじめて〜」と話す彼に、何を続けていいかわからなくなって、「ははは〜」と曖昧な笑いを繋げた自分が少し嫌になる。雑談の返事にも迷ってしまう。会話が以前より下手になっている気がする。そのまま立ち去るのも気まずくて、再度本に目を落とした。

風が強くなってきて、そろそろ帰ろうかと思ったときに、左から鳩が歩いてきた。人がすぐそこにいるのに、怖気付くこともなく、悠々と歩いてくる。いやそのままの進路だと、私と直撃するのだが?
鳩は一向に私を避ける気配を見せない。仕方なく、私の方が先に立った。鳩はてくてくと進んで、さっき肉が持っていかれたときに飛び散った、揚げ物の衣をつまんでいた。お前は川沿いの掃除係か。
何だか鳩の方が人馴れしてるし、堂々としているし。何なんだよもうと思いながら、帰路に着いた。


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