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3.1/fゆらぎは何故発生するか(1)

前回までは1/fゆらぎとは一体どの様なものなのかと言うことを述べてきましたが、今回はいよいよ1/fゆらぎがどの様なメカニズムで発生するのかという問題に対する私の考えを述べる事とします。

以前に書きましたように、1/fゆらぎと言う現象は凡そ100年も前に発見されたにもかかわらず、その発生メカニズムは未だによく分かっていないのです。勿論様々な研究者によってそのモデルが提唱されてきました。その数例を下の参考資料の(1)-(3)に挙げてあります。しかしこれらの理論は前回例示した現象とどの様にして結び付くのか、私にはよく理解できません。数式の上ではスペクトルが1/fの振る舞いをしますが、その数式が現実の現象とどの様に結びつくのかが分からないのです。

そこで私なりのモデルを考えてみました。
そのためにまず図1を使って粒子数の変化を考えます。

図1  □は外部からの粒子移入、○は粒子の吸収、ーは粒子の時間経過

この図に示されているように多数の粒子群が分裂したり吸収されたりしながら変化する様子を考えます。横軸は時間の経過を表します。単純化して空間的広がりを考えないとすると、縦軸に意味はありません。図では実線’ー’が粒子の時間経過を表し、実線が分かれている時刻に丁度二つに分裂(枝分れ)するとします。また’○’はその時点で何かに吸収されて粒子が無くなるとします。すると外部から移入された粒子‘□’から始まった粒子が分裂したり吸収されたりしながら粒子の連鎖を生み、そして全体の粒子数は個々の時刻で増減します。図1では、例えば時刻t₁では線‘―’の数を数えると粒子数は7であり、t₂では10となっています。

今考えている様に粒子は丁度二つに分裂すると仮定して、一秒当たりに粒子が分裂する割合や吸収される割合を決めると、粒子数の時間変動の確率P(k,n,⊿t)は厳密に計算できます(下の参考資料(4)と(5)を参照)。ここでP(k,n,⊿t)は初めに全体でk個の粒子があった場合、ごく微小な時間⊿t後に粒子数がn個となる確率です。この確率を使ってのコンピューターシミュレーションによって粒子数の変化を計算した例の一つが図2(a)で、そのスペクトルが図3に示されています。図3は粒子数のゆらぎが1/f ²ゆらぎをすることを示しています。

図2 (a)は粒子数のゆらぎ、(b)は検出間隔のゆらぎ(後出)
図3 粒子数ゆらぎのスペクトル

ある時刻の粒子の数はその直前の数をもとに、それより幾分多くなるか少なくなるという変化を繰り返していますから、これは前回述べたマルコフ過程そのものです。従って粒子数ゆらぎのスペクトルが1/f ²の様相を示すことは理解できます。

次にこのように多数の粒子の中の一部だけを観測(検出)する場合を考えます。その様子を図4に模式的に表しました。

図4 Branching Process Model

粒子が分裂したり吸収される連鎖の様子は図1と同じですが、それらの粒子の一部のみが図の赤丸(a〜d)の様に観測されるとします。これらの観測は任意に行ったものであっても、それらの間には多くの場合何らかの関係があります。例えば図4のa, b, cは外部から移入された'A'と言う粒子から始まった同じ連鎖上にある粒子の観測なので、それらの間には何らかの関連性があるはずです。ここでa-b間の時間間隔(横軸の長さ)はb-c間のそれとほぼ同じです。しかしb-c間の時間経過(’ー’の長さ)やその間の連鎖の過程は、a-b間のそれらと比べて長くまた複雑ので、b-c間の関連性はa-b間の関連性より弱いと考えられます。一方観測dは別の'B'と言う粒子から始まった連鎖上にあるので、a, b, cとの関連性はありません。

上記に述べました様に、粒子数の変化はマルコフ過程に従いその変化のスペクトルは1/f ²ゆらぎとなりましたが、粒子観測に関連した量はまた別の統計的変動を示すと期待されます。それでこの粒子観測に関連した量を取り扱うことによって1/fゆらぎの現象を説明できないかと言うのが私の考え方で、このモデルを「枝分かれモデル(Branching Process Model)」と名付けました。

次回はいよいよこの枝分かれモデルを使って1/fゆらぎの現象に迫りたいと思います。

参考資料

  1.   B. Kaulakys and T. Meskauskas, Phys. Rev. E, vol. 6, pp.7023-29, (1998).

  2. L. M. Ward, Dynamic Cognitive Science. Cambridge, MA: MIT Press, (2002).

  3. B. Lowen and M. C. Teich, Fractal-based Point Processes. Hoboken, NJ: Wiley, (2005). 

  4. T. Kobayashi, ‘1/f Fluctuations on a Chain of Causal Relationships (Ⅰ); Formalization’, https://doi.org/10.31219/osf.io/2f6r4

  5. T. Kobayashi, ‘1/f Fluctuations on a Chain of Causal Relationships (Ⅱ); Computer Simulations’, https://doi.org/10.31219/osf.io/3b6qy


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