キスフレンド
キスが好きな私にはセックスフレンドならぬキスフレンドがいます。一時の幸福感や満足感を味わうことが出来る関係です。そんなキスフレンドとのお話しを少しだけ綴ろうと思います。
あの日、結婚式帰りに夕立のような雨に降られてしまい雨宿りも退屈で迎えに来てもらおうとキスフレンドの彼、友人Cに連絡をしました。彼との関係は元恋人同士で別れたものの気の許す友達となっていました。
「久しぶり、今日は随分着飾っているんだね。」
扉が開いて車内に乗り込めばさっきまでふかしていたであろう煙草の香りが鼻を掠める、着慣れないドレスでの乗車は少しばかり手こずるもなんとか出発しました。
久しぶりの再開に他愛ない会話をしながらコンビニへ立ち寄りました。彼にお礼をしようと珈琲とアイスそれから愛用の煙草を購入し車内で彼に渡していた最中、更に雨脚が強くなりフロントガラスでは滝のように雨が流れ必然的に車外へ出ることは出来なくなりました。
「ちょっと、煙草吸うよ。」
私が非喫煙者のため毎回言葉をかけてくれていました。車内を少しだけ換気して煙草に火を灯しているそんな彼を横目にふとどこかで聞いた噂話を面白半分で話してみました。雨脚が落ち着くまでの話題としては楽しめるかもしれないとその時は思っていました。
「煙草の香りってマーキングになるらしいね。」
「何、マーキングされたいの?」
こちらの返答も聞かずに、突然吸った煙をフーッと顔に吐かれ軽く咳き込んでしまいました。その咳込む様子が余程面白かったのか楽しそうに笑う彼、一体誰のせいだと思っているのだろうかと妙に癪に障り「こんなんで足りると思ってるの?」と祝酒の力も借りて彼を押しのけました。すると狐に摘まれたような驚いた顔をするものだから今度は私が笑ってしまいました。「これでおあいこだね。」と続けた後に少しの沈黙が流れてから彼が雨音に消されそうな低い声で言いました。
「本当にその酔い方は良くないね。」
怒っているのかもしれないと思ったが思い当たる節がありません。何かヒントは得られないかと様子を伺っていれば、彼が煙草を深く吸い込み一瞬にして白い煙草を灰色に染めました。早々に役目を終えた吸い殻が灰皿に届く瞬間、再び距離を詰められ目を瞑る間もなく唇を塞がれドアにもたれ掛かってしまいました。体制を立て直そうと身体を押しても引いてはもらえず、煙と共に舌を捩じ込まれ逃げたくても頭を抑えられてしまい逃げることは叶いません。
「んぅ、ッ、」
煙たさに耐えられず呼吸をしようと不用意に口を開いたのがいけなかった、更に奥深く舌を捩じ込まれ貪られること数十秒、煙たい深いキスは雰囲気に酔わせるには十分でした。ゆっくり呼吸を整えても身体から熱は抜けず瞳は涙で覆われ頭がボーッとしていてとても彼と視線を合わせることが出来ませんでした。
「マーキング完了、ね。」
彼の親指が私の唇に宛てがわれ不躾にどちらの唾液か分からないものを拭われ羞恥心で顔が熱くなりました。そして同時に私の意地悪い欲も掻き立てられて彼の元へ戻ろうとする親指を捕まえて再び口元へ運びます。
「指、汚れたままじゃ嫌でしょ。」
有無を言わさずにもう一度唇をなぞらせれば、彼の指が故意をもって口内へ侵入してきました。しかしまだ目を合わせることは出来ないまま、指を優しく舌で包み込み、吸ったり舐めたりを繰り返して、挑発気味にリップ音を立てていれば痺れを切らしたのか突然、指を奥へ押し込まれ上顎を擦られました。
「このもっと奥、だよね。好きなとこ」
「だったら、もっと…」
だめだと頭で分かっていても次に訪れる快楽を身体は知っていて背筋がぞくりとして、口内は期待に満ち溢れパブロフの犬のように唾液が出始めてました。嫌でも視線がかち合い懇願するように言葉を紡ぐも「ん?」疑問符と共に首を傾げられてしまい、その先を察して身体が熱くなりました。
「…もっと、奥にください。」
「うん、いいよ。」
羞恥と期待に身を震わせながら口にした言葉は雨音に負けず無事に彼の元へ届いたようで、人差し指と中指を口内へ差し込まれました。待ち望んでいた上顎を擦られ、舌を弄ばれながら溶かされていくのは気持ちが良く自然と声も漏れてしまいます。快楽に目を細めていれば、欲情を押し殺そうとしているであろう視線と交わりました。友人の顔から男性の顔に切り替わる瞬間を目の当たりにしてお腹の中がきゅっとするのを感じました。
「…ねぇ、もう一回ちゃんとマーキングさせて。」
その言葉を皮切りにどちらともなく近付き、ゆっくりと瞼を閉じれば一度目では拾えなかった布の擦れる音、彼の体温、雨と煙草の匂いを感じながら唇を重ねて気の済むまでマーキングし合いました。
満足のいくキスを重ねるのも気持ちがいいものですね、これからもそんなキスが出来たらいいなぁと夢見ています。
みなさんの思い出のキスがあれば教えて頂けると嬉しいです。それでは、また今度。
櫻子