とある男の述懐


いや、君は心の底から平和なんてものを願っちゃいないよ。口先ではそれらしいことを言っているけどね。わからないようなら教えてあげようか。

いいかい、“平和をもたらす者”ピースメーカー“平和を維持する者”ピースキーパーはいつだって別の誰かなんだよ。この世界には万人受けする平和の形も、普遍の幸せもありはしない。ある平和はどこかの誰かの憎悪を生んで、停滞した幸せは人から気力と意志を削ぎ落としていくんだ。

だからこの世にはいつだって悪役が必要なんだよ。それも、誰にも受け入れられない、絶対的な悪が。真に平和と幸福を求めるなら、悪人の存在は許容されるべきだよ。平和や安心の実感は、うちのめされる敵役によって得られるものなんだ。

「正義の反対は」って質問をたまに見かけるけど、これに「別の正義」って答えるやつはただの馬鹿だよ。そんなわけがない。正義の反対は悪だよ。これ以外にはあり得ない。

君は確かに“正義の味方”スーパーヒーローだろうけど、足りないものがあるんだよ。わかるかな。
─敵だ。君に何度倒されて、君が何度倒しても消え切らない、醜悪で美しい敵が君には足りないんだよ。
これが全てだ。平和っていうものは、いつだって悪人が支えているものなんだよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?