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breathe and breeze #3

文:ハセベチカ/Chika Hasebe
PROOF OF LIVING by Fujimura Family
Title designed by Shingo Yamada

「Fujimura Familyの写真集で書いてみなよ」と言われて、頭の中に浮かんだはてなマーク。小宮ファミリーでも松崎ファミリーでも思わないだろうに、"Fujimura Family"という名を聞いた途端、なぜかお笑い芸人を想像してしまっていた自分がいた。ただ今思うとそんな第一印象はそこまで的外れではなかったのかもしれない。決して彼らはコメディアンではないけれど、彼らの日常は天然のユーモアで溢れている。

さらに、表紙を見たときにパッと浮かんだのは映画『エターナル・サンシャイン』(2004)のフライヤー。赤毛がなびく様子が一瞬映画を想起させただけで、写真集の内容自体は全く誰かのオマージュでもなんでもない。100%オリジナル、FULL OF FUJIMURAなのだ。

Fujimura Familyの写真集『PROOF OF LIVING』(2021)の各々の写真からは、日常の中の自由を思う存分感じ取ることができる。思う存分どころか、正直クラクラするほど自由がはち切れている。その自由は決して特別なものではなくて、わたしたちの中にもあるようなもの。抑圧から解放されたフリーダムというより、プレイフルな自由を纏っている。買ってきたばかりのシャンプーとリンスを混ぜて、自前リンスインシャンプーを2本分作るとかそういう類のことだ。できないこともないけれど、やろうとは思わないことをやる自由。

そんな自由さ満点の写真が集まった本書は、家族アルバムの域をとっくに超えているものの、ある意味ではそれを超えていないような内に向けられた雰囲気もある。アルバムを名乗るには、広告写真のようなビビッドさが強すぎるのと客観的でニュートラルな写真が多い。熱量高めの味果丹のポージング写真があったかと思えば、すぐ次には自然の風景の写真を差し込みスンとクールダウン。家族内の記録写真集とは明らかに違う、第三者から見られることを意識した作品集なのだ。

ただ、レンズを向けられた味果丹と娘のはいちゃんからは(時に猫さえも)、明らかに家族に対して向けられるパーソナルで委ねているような表情が読み取れる。それが見ていてホッとする理由だろう。自分の家族にはないものの、近所にいてもおかしくないような家族の模様が記録されているようなのだ。

正直、本書を最初に手に取ったとき、ギュンギュンに高められた彩度と極限までデフォルメされたシズル感は、「写真を見せられている」という受動感が強くて少し苦手だった。空白恐怖症だというDaiさんによる余白を作り出さず写真でパンパンに詰めた感じは、最初は見る者の緊張を高めるかもしれない。


ところが、320Pにも及ぶページをめくればめくるほど、熱量MAXの世界観にどんどん自分が浸かっていく。植物、味果丹、スイカ、歯、はいちゃん、滝、覗き見。写真のシークエンスに振り回されながらも、何周もおかわりしたりページを戻ったりしてしまえば、藤村一家への勝手な愛おしさを感じ始めるのもそう遠くはない。

写真集は手のひらのサイズ感でとっつきやすいが、持った瞬間は重量感を確かに感じる。それがFujimura Familyそのものでは?彼らは彼らのスタイルを貫き誰に寄り添うわけでもないが、来るもの拒まず、みんなに自由を分け与えてくれる存在。FULL OF FUJIMURAな本書は、彼らの全部を全力でぶつけてきたものだからこそ、きっと本書を見る全ての人にその全部が伝わる、全力投球写真集なのだ。


執筆者
ハセベチカ
'98年生まれ 早稲田大学法学部卒
日英で文章を書きます
コラムの連載を持ちたいです
街中の人の装いが気になります
website: https://sites.google.com/view/chikahasebe
contact: hasebee.c@gmail.com
IG: @chika__chika__

サポートされたい。本当に。切実に。世の中には二種類の人間しかいません。サポートする人間とサポートされる人間とサポートしない人間とサポートされない人間。