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NOT TOO LATE #6: Michael Northrup: DREAM AWAY

文:Jumpei Sakairi
MICHAEL E NORTHRUP: DREAM AWAY

Title designed by Shingo Yamada


アメリカの写真家マイケル・ノースラップ(1948年〜)が妻との出会い、結婚、出産、離婚までを記録した写真集。

元々、彼女の写真を作品にするつもりで撮影していた訳ではなかったようだが、離婚後に出版社の後押しもあってこの写真集を制作することになったという。
結婚している最中にもし制作していたら全く違うものだっただろう。彼女との別れの後だからこそ、彼のパーソナリティが色濃く反映されており、そこが写真集の一番の魅力になっていると感じる。
どういうことなのか、彼の人生にも触れながら掘り下げていきたい。

まず非常にポップで可愛らしい表紙が目を惹くこの写真集だが、全体を通して見ると少し物悲しい雰囲気がある。
タイトルが『Dream away』であることからも、過ぎ去ってしまった夢のような時間を回顧し、惜しんでいるような印象を受ける。

あえて顔が写らないように撮られた写真では、人間の記憶の曖昧さとその切なさが表現されているのではないか。
どこに行って何をしたかについては覚えていたとしても、その時どんな表情をしていたのかということは大体の人間が曖昧にしか覚えていないだろう。
また、表情がはっきり写っていたとしても、明らかな笑顔や楽しそうな写真はほぼない。幸せいっぱい!のような分かりやすさはこの写真集にはなく、そこが物悲しい印象に繋がっているといえる。

こうした印象を受ける一方で、インパクトの強いシュールな写真も何枚か紛れるようにして存在する。
例えば、陰毛を雑誌の男性の顔に乗っけて髭のように見せている写真や、瞼をひっくり返してただ立っている写真。
このユーモラスな写真を時折混ぜ込んでくることこそが彼のパーソナリティだといえる。

マイケルは本人のホームページで、自身が生まれ育った家庭について次のように言及している。

“家族全員が、悲劇の中からさえユーモアを見つけ出すことに長けていた。そしてそれが私自身の物事の見方へと繋がっている。” (1)

https://www.michaelnorthrup.com/info

まさに、妻との別れという悲劇を経験しながらも、あえてユーモアのある写真をチョイスするという皮肉っぽい手法が彼自身の特徴なのだ。
そしてこの皮肉っぽさにより、家族をテーマにした多くの写真集とは異なる魅力を持った作品になっている。

これは余談程度に読んでほしいが、マイケルと彼女は、1976年に出会い、77年に結婚、88年に離婚している。そして、この写真集は66枚の写真から成り立っている。
出会いや別れの年代は偶然だろうが、66という数字にはなんらかの思い入れがあるのではないかと思い調べてみた。
すると、エンジェルナンバーの66はパートナーとの関係における問題があるかもしれないので、改めて関係を見つめ直そうといった意味を持つようだ。
実際のところはどうなのか分からないが、どんなことにもユーモアや意味を入れてくるマイケルなら意図的だったとしても不思議ではない。

ちなみに、彼のインスタグラム(@michaelenorthrup)のユーザーネームはI love ironyだ。
本当にいつも皮肉で人生を乗り越えてきたのだろう。
面白い写真が沢山載っているのでそちらも是非チェックしてみてはどうだろうか。

引用(1)

https://www.michaelnorthrup.com/info

エンジェルナンバーとは

https://www.timeless-edition.com/archives/12341

執筆者
Jumpei Sakairi
早稲田大学法学部卒
フリーライター
写真、ファッションについて。
編集の仕事がしたいです。
Contact: nomosjp@gmail.com


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