高校生の授業料について

元・学校事務職員が考えるお金のこと。

高校生の授業料については『授業料無償化』という言葉が有名になり、『就学支援制度』に変わってからもしばらくは「授業料って"無償化"じゃないんですか?」と聞かれることもしばしばあった。

民主党政権下では、高校生の授業料は親の所得に関係なく無償だったが、自民党政権となってからは就学支援金制度となり、保護者の収入によって無償になる高校生と、ならない高校生に別れることとなった。

高校生…と書いたのは、この制度の受給者は生徒本人であり、保護者ではないからである。
申請書にも「保護者が代筆しても良い」という但し書きがあったはずだ。

つまり、この制度の主体は高校生であるにもかかわらず、親の所得によって差が生まれているのである。
国の想定では、世帯年収910万円がおおよその境目だ。この想定は所得ではなく年収。そして世帯年収なので、共働きであれば両親分を合わせての収入となる。

さて、保護者の所得が低ければ、高校生は全員就学支援金を受けられる…と思うかもしれないが、その制度からはみだしてしまう子がいることを書きたいと思う。

保護者の所得の証明

5年前、授業料の担当をしていた私は保護者の皆さんからの問い合わせを受けていた。

その中に、印象に残ったAさんとBくんのことを書きたい。個人を特定できないように多少脚色はしたいと思うが、本筋からは逸れないようにしたい。

まず、Aさんは真面目に通う女子高生。その保護者はお父さんが自営業、お母さんがパート勤務だった。
自営業の内容から、就学支援金は十分に受けられるものと思われた。しかし、待てど暮らせど所得の証明書が出てこない。お母さんは、家のことは主人に任せていますの一点張り。お父さんは、しまいには怒り出して、
「就学支援金なんかいらない!授業料を払えば良いんだろ?」
と言う。
保護者がそのように言うのであれば、こちらからは申請を無理強いできないので、申請しないこととなった。

しかし、卒業の間際まで授業料を滞納し続けた。
後で聞いた話だが、お父さんは税務署に確定申告に行っていなかったために、証明書を出さなかったようだ。

続いてBくんの話。
Bくんも真面目に通う男子高校生。
彼のところも所得の証明が出てこなかった。

お母さんが精神的な病気を患っているらしく、電話で話していてもこちらを仮想敵だと思う時があり、急に怒り出したり、弁護士に聞いてください!などと言ったりする。
ちなみに、この弁護士というのは現実には存在しない。

しかし、ある日突然、彼の家の申請は解決する。
母方のおばあさんが学校に電話をくださって、何か事務手続き的なことで滞っていることはないでしょうか?と聞いてくださった。

就学支援金の制度を説明し、所得の証明が必要なことを話したところ、同居の家族でないと証明は取れないと区役所に言われたらしく、Bくん本人を連れて区役所に証明を取りに行ってくださったのだ。

とりあえず申請の事務手続きについては解決を見たが、その証明書を提出してくれたときのBくんの言葉が忘れられない。

「すいません、ウチのお母さん、頭がおかしいんで。」

涙が出そうになったのをグッと堪えた。
返事ができなかった。
なんて可哀想なことをしているんだろうと思った。

そして現在

今は授業料の担当を外れたが、現在の申請ではマイナンバーを提出させているようだ。
でも、超個人情報のマイナンバーを学校に提出させるってどういうこと?と思っている。

就学支援金のアナ

国会議員の皆さんは、所得が少ない人はみんな支援金によって助けてきたと思っているかもしれない。しかし、家庭の状況によっては、救われない生徒もいたことをちゃんと知ってもらいたい。

それから、世帯年収が高いとされる家も、子どもが複数いることは考慮されていない。
税金は夫婦でそれぞれ納めているのに、その家庭の子どもは国から差別を受けている。

先に書いたとおり、就学支援金の申請者は生徒本人だ。親の所得や、家庭の状況に関係なく、彼ら彼女らには国から平等に支援を受ける権利がある。

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