上京

離陸する飛行機の窓際の席に座って、空に近づきながら、緑の生い茂る山々が目に入った時、祖母を思って寂しいとはっきりと感じた。
今朝まで自分がいた家で、今も祖父母が暮らしている情景が浮かんだ。
厳しい現実の中でも祖父母のままで慎ましく、真っ当に生きている暮らしの風景が、葉擦れに満ちた風の音と揺らぐ眩しい木漏れ日と共に鮮やかに浮かんできて、今から自分が向かう先は、こんな豊かさではないのに、どうしてと言った。

祖母が自分を犠牲にしてでも一緒にやり直してもらいたいと、私のために全てが準備されていた。
私が中心になって家族から愛され、生まれ変われるような暮らしを立てることで、自立した存在だと認めてもらおうとしてくれていたのかもしれない。

緑の生い茂る山々を見た時、祖母が寂しいと私の心にはっきりと伝えた。

まだ柔らかな私を太陽のもとに引き戻そうと家族は必死だった。

本来の私に合った環境で、家族を大事にして、その中で自立してほしいという父の心からの望みと、祖母の望みが重なっていた。
この先の長い人生を、家族からの愛に囲まれて生きていける自信と経験を積める選択を与えられていた。

日曜日は、祖母を車椅子に乗せて母が押して歩く散歩に付いていった。
爽やかな太陽の光を浴びて、緑を見て歩く気持ち良さがささやかな楽しみだった。
お昼ご飯を近所で食べて、コ—ヒ—を飲むのも、楽しかった。
豊かで、十分贅沢だった。

迎える時はいつもご馳走を準備して待っていてくれた祖母の愛情を受けて育った私は、あまりにもごく自然に、自分のことを想っていない相手にも、祖母から受け継いだ命を注いでしまっていた。

人の目を気にする人生を送り続けていた。
母からかかってきていた電話を折り返した。
平静を装って少し話した。
母は、祖母に代わると言って、受話器を持っていった。
押し黙る私を全て分かっているように、私がいなくて寂しいと祖母は繰り返し言った。
私は電話を耳に当てたまま立ちすくんでいた。

祖母だけが全部を分かっていて、それでも私を慰めてくれていた。