心輝

手紙や日記を書くことが好きです。

心輝

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最近の記事

真夏

今思うと、つらかったけれど、あの初々しい真夏の瞬間が、あまりにも輝いて今の私の目に映っている。 誰もが善悪を判断しないあの環境下で、誰もが自由に自分を演じきれていた。 果てしなく豊かで、誰もがただただ優しかった。 あの優しさが、もう目の前に、肌に感じれないと思うとさみしいけれど、いつでも目に蘇ってくる。 本当の優しさは、時を越え、環境を越えてでも、いつまでも肌に優しいぬくもりが生き続いていることを、この胸に届けている。

    • 誠実

      ないと生きていけないという強すぎる恐怖は、愛を押さえつけて、健康を害してきた。 「こんなに捧げているのに無理なんて」と、涙を流し、また懸命に身体を動かした。 本当は何もないことの方が、真実で正しかった。 本当は生きる力を信じれる気持ち以外、何にもないことが一番正しかった。 自分が世界のどこにいても、どんな場所にいようとも、必死で咲かせようとしなくても咲く花があった。

      • 日々

        私がしてあげられることは、食事を作ることと、大丈夫か様子を伺うことくらいしかできないけれど、日中、声が聞けるだけで、晩、寝息の優しいぬくもりがあるだけで、心が満たされて、日々が整っていく。 それだけでもう充分落ち着いた生活だ。 周囲の人間は、今日も誰も私のことなど考えてもいない。 それぞれの一日と共に、それぞれの営みや挑戦で、体も心も一杯なはずだ。 周囲の有り様をようやく感じ取ることが出来て、今までにないくらい身軽な心地がする。 この境地に、心から天に感謝している。

        • 召還

          観音様に、千羽鶴を祀るお地蔵様に、水の中に立つお地蔵様、それから山の下の洞窟に祀られたたくさんのお地蔵様に御見守り頂きながら、敬意を込めて、歩道を歩く。 手を合わせて、祈る。 今まで、大変ご迷惑をおかけ致しました。 これからも、気を改めて精進して参ります。 これからも家族をお見守りください。 よろしくお願いします。 たくさんのお地蔵さんに手を合わせて、一つだけの想いを重ね重ね繋いでいく。 洞窟を出て、山の湧水を、とても美味しく頂き、それから、また祈りを通す。 何度も何度も家

          充分

          私は、この地で、子どもを守るために必要な分だけの技能を身につけたい。 私は、ここから、家族が健康でいれるためだけに必要な知恵がほしい。 私は、今から、子どもが健やかに成長できるための環境を整えたい。 私が、母親であるのに必要な愛を捧ぐ。 私が、子どもの父親を支えられるだけの器を持つ。 この先、二度と道から外れてしまうことがないように、いつまでも、いつまでも、愛と繋がっている。

          逆転

          心から大好きな家族に、私だけがずっと見つめられて、じっと見守られて、これからもずっと私のためだけにいてくれるものだと強く願いながらも、いつかそうじゃなくなったらどうしようと、いつも不安だった。 大好きな家族が、他の子にも目を向けていたと分かかると、 動揺して、落ち着かなくて、不安な気持ちになった。 家族には、あらゆる種類の大好きの気持ちだけが集まっている。 家族なしには生きていけない。 彼らから見られていないと生きていけない。 いつも不機嫌な顔を見せて、相手の顔をまともに

          自信

          母がいつもいてくれたから、気持ちが大きくなって、何だって出来ると根拠のない自信を持っていた。 大きなことにも挑戦することが出来た。 母が、私を支えてくれなくなったら、今までが勘違いだったと思うほど、積み上げてきたはずの人生が、吸い取られてしまうように、心に空いた穴から、空気があちこちに抜けていって、薄くなって、弱々しく思った。 それでも、今よりもずっと心細くて弱々しい自分でも、生き抜いて来たことだけは、絶対に見失ってはいけない本物の力だった。

          負け

          従姉妹に嫉妬していた。 私みたいに我慢をしないで、どうして楽しくて幸せでいるのか分からなかった。 悔しかった。 厳しいことに耐えている自分の方が報われると思わないと、やっていられなかった。 従姉妹にはずっと負い目があった。 時間が経って仕舞えば、忘れ去られるだろうと、勝手に任せていた。 ちゃんと忘れてはいなかった。 従姉妹が突然家に遊びにきた。 上品な雰囲気になって、落ち着いて見えた。 自分が、出来なかったことを、従姉妹は静かにやり遂げていた。 本当の意味で、負けたと

          蜂の子が、部屋でうずくまっていた。 窓から入ってきて、出れなくなってしまったんだろう。 そっと包んで、ベランダの植木の上に置いた。 風にさらされて、寒そうに見えたので、段ボール箱の中に植木を置いた。 小さく動いてはいるものの、やはり寒そうに見えるので、葉の下に隠れるように咲いている花に蜂の子を乗せた。 さっきよりも動くようになった。 柔らかい花弁の上で、触角をたくさん動かして蜜を吸っているように見えた。 元気が出てきたように見えて、嬉しくなった。 じっと見守っていた

          恩人

          従姉妹は、幼少の頃からいつも側にいてくれた。 優し過ぎるあの子に甘えて、大いばりしていた。 心から楽しいと思えた時には、必ずあの子が側にいた。 あの子の方が、私よりもずっとずっと大らかで、強い人だった。 優しすぎるくらい優しくて、純粋すぎるくらい純粋な心を、ひたすら自分の都合の良いように扱ってきた。 従姉妹の乗った車を窓から見た。あの子に向けて手を振った。あの子は、一生懸命に手を振り返していた。 こんな私を、こんなに好きでいてくれた。

          上京

          離陸する飛行機の窓際の席に座って、空に近づきながら、緑の生い茂る山々が目に入った時、祖母を思って寂しいとはっきりと感じた。 今朝まで自分がいた家で、今も祖父母が暮らしている情景が浮かんだ。 厳しい現実の中でも祖父母のままで慎ましく、真っ当に生きている暮らしの風景が、葉擦れに満ちた風の音と揺らぐ眩しい木漏れ日と共に鮮やかに浮かんできて、今から自分が向かう先は、こんな豊かさではないのに、どうしてと言った。 祖母が自分を犠牲にしてでも一緒にやり直してもらいたいと、私のために全てが

          犠牲

          私は、バス乗り場の椅子に座っていた。 母に、思い切って声をかけた。 母は私の顔を少しの間見つめて、精一杯の笑顔と明るい声で返事をした。 母らしい精一杯の明るい応答だった。 バスが来て、乗り込むまでの間だけ、母と一緒に並んで歩いた。 乗り口より後ろの二人掛けの席に座って、母の前だけでずっと見せてきた顔で、母の方を向いて、手を振った。 母は、精一杯笑ってみせて、精一杯手を振っていた。 幼少の頃から、何もかもを振り切って、私を守ってきた母だった。 母は、精一杯笑顔を

          後悔

          当時の自分にとってはとても辛いことのように思えたけれど、自分のことを想っていない人の目を気にすることを止めれば、人生を改める選択が与えられていた。 洗いざらい母と一緒にやり直せる選択が与えられていた。 寒い冬だからこそ闇雲にできた頑張りも、いよいよ春が訪れて、明るみになる時期を前に、そこに留まる条件がなくなってしまい、母の住む家に戻った。 祖父母の座る同じテーブルに、母の存在に守られるかのように、隣に座り、窓の外が見渡せる一番いい席で食事をしていた。 鶯の鳴き声が、聴こえ

          希望

          結婚が決まるまでは、お互いのことしか見ておらず、どんな交友関係があるのかも知らなかった。 結婚が決まってから、結婚式の段取りを進めるにつれて、現実的な手続きに追われるようになり、そこで初めて、彼を実際に取り巻いている人生を目の当たりにした。 私よりも仲が良い女友達がいた。 私のことを紹介しているみたいだが、彼らの盛り上がる様子を前に、だんだんと自分は、ひとりぼっちに思えてきた。 私を仲間に入れようとしている優しい気遣いが、余計に私を哀しくさせた。 私も同じように笑っ

          出発点

          眩しかった青い空が、少しずつ翳り、徐々に浮かび上がる黄金色の夕霧と静かに入り混じっていく。 自転車を漕ぐ彼の後ろについて、私も自転車を漕いでいた。 日が暮れる前に、必ずきっちりと全ての雨戸を閉める祖父を思い出した。 レンタル自転車を返却するまでには、まだ十分に時間があるが、ゆったりと海を眺めたり、楽しむことをせずに、返却時間に遅れてはいけないと、出発点に戻るために、懸命に自転車を漕いでいる。 初めて一緒に訪れた、見知らぬ土地で、私の分まで責任を背負って、一生懸命に先導し

          出発点

          夢中

          朝が来た。 青い空に、眩しい太陽、急に上昇した気温で、外の光がとても強く感じた。 幸せを沢山積み重ねてきたこの部屋が、急に小さな箱のように思えた。 ここで、ずっと過ごせてきたことが、急に不思議に思えた。 朝の光の中で、美味しいコ—ヒ—を淹れることが楽しみなのに、急に欲しくなくなった。 組み立てかけの電車が置いてある。 沢山の小さいパ—ツを探して、組み立て始めた。 子どもの温かさを、背中に柔らかく感じながら、子どもが大好きな電車を、無我夢中で組み立てた。 恐怖を打ち負