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Techno/House/TeknoとJungle

一昨年、Murder ChannelからリリースしたサイケアウツGのミックステープ『Move Your Bodhi』のコメントにて、ハウスとジャングルの関係について書いていた。その半年後にサイケアツGがリリースした『Babylon Bass / Murderous Bass』では、ベース・ハウスにジャングルのエッセンスが絶妙に振りかけられた最高なシングルも作ってくれた。その頃は現在のようなジャングルとハウス/テクノの混合化がずっと続くとは、まだ正直思えていなかった。

Hooversound Recordings、 Sneaker Social Club、Western Loreといったレーベルはテクノ~ハウスとジャングル/ブレイクビーツ・ハードコアの混合を現代的な感覚をフルに活かして取り組んでいる。規則的に鳴らされる四つ打ちにジャングルのグルービーなビートとパワフルなベースが重なるハイブリッドなトラックは至高のものばかりで、作品が世に出る度に性能を上げている。
この流れはジャングルが生まれた場所へと戻るようにも見え、ジャングルが原始回帰して新たな形に生まれようとしている最中にも感じられる。トランスとジャングルのハイクオリティな融合も実現しており、凄まじいスピードで進化し続けている。


こういったスタイルが浸透し始めたのには、ハウスをルーツとする二つのジャンルの合体であったフットワーク・ジャングルの登場や、アンビエント・ジャングルというカテゴライズがあったお陰で、現代のハイブリット・トラックが生まれやすくなる土台があるのかもしれない。
他にも、FFFはアシッド・ハウスやデトロイト・テクノ、バブリンをジャングルとミックスしたハイブリッド・トラックを2000年代後半から展開しており、彼が現在モダン・ジャングルのシーンで高い評価を受けるのはそういった下地があったからだろう。Mike ParadinasはPlanet-Muの活動を通して、シーンとリスナーの感性を広げ、µ-Ziqとしてもブリープ・テクノとハードコアを繋ぎあわせた『Ease Up』というタイムレスなジャングル・トラックを披露した。
DJではLoefah、Alex Eveson(Dead Man's Chest)、Sherelle、Yazzus、国内ではmu~heさん、FELINEさん、Ka4u君、Rave Racersなどが、DJの視点からジャングルに新たな側面とグルーブを付け足している。


ジャングルとテクノ~ハウスが距離を縮めるよりも少し前に、ドラムンベースとテクノの融合があった。遡れば、2007年にリリースされたCommixのアルバム『Call To Mind』でドラムンベースとテクノの融合に衝撃を受け、ASCやFelix K、Pessimistの作り出す実験的な作品には大きな意味があったと思える。Source DirectがNonplus Recordsからリリースしたシングルも重要度が高いはずだ。

2010年代に起きたドラムンベースとテクノの融合作品は、エクスペリメンタルな要素も強かったが、ドラムンベースのメンタリティがハッキリと出たフロアライクなものが多い印象。JK Fleshは10数年振りにドラムンベース・プロジェクトのTech Level 2を再開させ、LimewaxはEvar RecordsからのLPやClimaxim名義でもテクノにフォーカス。The PanaceaはNew Framesとしてテクノの活動に完全に切り替え、RaidenもKamikaze Space Programmeとしての活動が本格的になっていたのも忘れられず、2010年代にはドラムンベースとテクノの関係性がより具体的に繋がった転換期だったと思う。この流れもテクノ/ハウスとジャングルの距離を縮めた一つのキッカケだったのかもしれない。

Special Requestのようにテクノとハウスのバックグラウンドを持ったアーティストの活躍によってジャングルのハイブリッド化が進んだ側面は大きい。Special Requestの登場は想像しているよりも、様々なジャンルに影響を与えているのではないだろうか。Luke Vibertも『Amen Andrews』と『Modern Rave』という二枚のアルバムでジャングルを多角的に表現し、新旧の世代からリスペクトされている。

ハウスやディスコをクリエイトしながらレイビーなハイブリッド・トラックも手掛けるChrissyは、2000年代にMurderbot名義で自称ギャングスタ・ジャングルを展開。Chrissy Murderbot名義になってからはフットワークに大きく貢献し、レベルの高いフットワーク・ジャングルも残している。Murder Channelからも『Greatest Hits ☆ ☆ ☆ ☆ ☆』という素晴らしい作品をリリースしてくれた。最近、Chrissyとしてリリースした『Physical Release』と『New Atlantis EP』は彼の活動歴が凝縮されたような集大成的な作品であり、現行のハイブリッド思考への一つの回答にも思える。
イギリスのレーベルTop Drawer Digitalの『Abstractions : Jungle Techno Breaks』シリーズなども90年代的なテクノのサウンドをジャングルと組み合わせたスタイルをプッシュしている。


四つ打ちの楽曲制作を行いながら変名でジャングルをリリースするプロデューサーのトラックには、既存のジャングルにはない魅力がある。代表的なのは、Todd OsbornとTadd MullinixによるSoundmurderer & SK-1だろう。彼等がリリースしていたジャングル・トラックは豊富な音楽知識とずば抜けたサンプリングのセンス、そして圧倒的なプロダクションで永遠に色あせない数多くのクラシックを世に残している。

アシッド・テクノやエレクトロ、ブレインダンス・ファンから支持されるJodey KendrickはLord Of The D名義で2015年に『Dunstable Trax EP』というアグレッシブなジャングルをリリースし、つい先日アルバムを発表した。Jodey Kendricktとしてもジャングルの要素が活かされたアシッド・トラックを展開している。UKハードコア界のトップ・アーティストであるHellfishはSecret Squirrel名義でブレイクビーツ・ハードコアをメインにジャングルもクリエイトし、ダークコアのカリスマ・アーティストCelsiusは過去に製作していたジャングル・トラックを纏めた『Fire On Wax』という12"レコードをリリースした。

更に遡るとテクノ・シーンで人気のMiro Pajicは、90年代にハードコア・テクノ、スピードコア、ドゥームコアをクリエイトしており、Steve Shit名義でブレイクビーツ・ハードコアとジャングルのレコードをリリース。The Speed FreakもBiochip C名義とPsychic Parasiteというユニットでブレイクビーツ・ハードコアとジャングルをクリエイトしていた。彼等のトラックは、ハードコア・テクノに通じるアグレッシブな要素が強く出ており、ブレイクコアの原型の一つともいえる。
他にも、Cheeba City(Pluto)、Space Cube(Ian Pooley & DJ Tonka)、DJ Freshtraxといったプロデューサー達はテクノ、トランス、ハードコア・テクノのレコードを作りながらブレイクビーツ・ハードコアやジャングルのレコードもリリースしていた。

テクノやハウスの要素が強いジャングルは90年代からあったが、DJ/リスナーの混ざり具合は今よりもっと分かれていたはずだ。テクノやハウスを聴きながらジャングルも聴いていたリスナーやそれらのレコードをミックスしていたDJも勿論居ただろうが、現代のような規模ではなさそうである。
貪欲に好きな音楽を探求するリスナーとDJが増え、ジャンルやシーンに保険をかけないで挑戦するプロデューサーとレーベルによって、このムーブメントは支えられている。

テクノ、ハウスとジャングルのハイブリッド・トラックはヨーロッパや日本でトレンドになっているが、2000年代に勢いのあったTekno/Tribeとジャングルのハイブリッド化は以前よりは少し落ち着いている印象を受ける。
Tekno/Tribeとジャングルの混合スタイルであるJungle Teknoは、2000年代後半にDubwise(ラガ・ドラムンベース)寄りのラガテックが勢いを増し、ジプシーコアなども表れ、幾つかのサブジャンルに枝分かれしていったように見える。

2000年代はイギリスのFreddy Frogs率いるFrogsがマッシュアップ要素のあるジプシーコアの原型的な作品をリリースし、フランスのBreakteamとFixのJungletek MovementはラガジャングルとTeknoを見事にミックスしていた。
最近でも、昔ながらのJungle Teknoを追求しているレーベルもあり、SweetBoxからリリースされたMani Festoのシングルは懐かしくもあり新しさもある良作であった。


これらのレーベルとスタイルに影響を与えたと思われるのが、Teknoでは避けて通れないSpiral Tribeだ。フリーパーティーというタフな環境で実力を発揮するトラックには多くの音楽の要素が取り込まれ、そこにはジャングルもあった。フリーパーティーで望まれるものは全て取り入れるといったような姿勢を感じさせる四つ打ちを主体とした究極のハイブリッド・トラックを展開していたSpiral TribeとそのレーベルNetwork23、ジャングル/ドラムンベースに特化したサブレーベルSinister Soundsがリリースしていた作品には、Jungle Teknoの起源があるのではないだろうか。Spiral Tribeのメンバーであり、R-Zacとして現在も精力的に活動している69dbとCrystal Distortionの作品にもブレイクビーツを巧みに使った曲がある。

冒頭で触れたHooversound RecordingsやWestern Loreなどが押し進めているモダンなテクノ~ハウス~ジャングルのスタイルの発展に期待しつつ、それらと共鳴するようなJungle Teknoが増えてくるのも楽しみにしたい。

                                                                                                                                                                                                                                                                                         




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