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Luke Vibertのジャングル/ブレイクビーツ・ハードコア・サイド(~2000-2020)

Wagon Christ、Plug、Kerrier District、The Ace Of Clubなどの名義を使い分けてブレイクビーツ、アシッド・ハウス/テクノ、ディスコ、エレクトロ、ディープ・ハウス、ダブなど、様々なジャンルを独自解釈した傑作をMo'Wax、Ninja Tune、Rephlex、Warp、Planet-Muといった名門レーベルから発表しているLuke Vibert。

Luke Vibertといえば、アシッドを自由自在に使ったハウス/テクノやダウンテンポ、ブレイクビーツの曲が人気であるが、PlugやAmen Andrews名義で発表したジャングル/ブレイクビーツ・ハードコアの作品も非常に人気がある。

今回は、2000年代から2020年までにLuke Vibertが残したジャングル/ブレイクビーツ・ハードコア・サイドの作品を纏めてみる。

ちなみに、自分が始めて買ったLuke Vibertの作品は、1999年に発表されたスティール・ギター奏者BJ Coleとの合作『Stop The Panic』であった。心地よいブレイクビーツとスティール・ギターの音色がゆったりと流れる名盤。Tom Jenkinson(Squarepusher)がベースで参加しており、生楽器とブレイクビーツが非常に良いバランスで重なり合っている。今作には、スロウ・ジャングル的な曲も収録されていたりと現代的な耳で聴いても十分に楽しめる。
発売時、ラウンジ・ミュージックが流行していたのもあって、『Stop The Panic』は国内でかなり売れたらしい。

90年代はPlug名義でリリースした名盤アルバム『Drum'N'Bass For Papa』やRising High RecordsのサブレーベルBlue Angel Recordsからのシングルで、豊富な音楽知識を元に、フリージャズのカオスとドラムンベースの反復性を掛け合わせたような前衛的なジャングル/ドラムンベースを発表していたが、1997年以降Plug名義での活動はストップし、ジャングルやドラムンベースなどの高速ブレイクビーツ・スタイルは表立って披露されなくなる。

ジャングル・リバイバル真っ只中の2003年、RephlexからAmen Andrews名義のデビュー12"レコード『Vol 01』が発表。以降、定期的にAmen Andrewsの12"レコードがリリースされ、国内のレコードショップでもプッシュされていた。王道的な90'sジャングルのフレイヴァにLuke Vibertらしいネタ使いが組み込まれたジャングル・トラックを披露。「Amen Renegade」「Amental」という曲名が付けられている通り、アーメン・ブレイクへの拘りが随所で感じられる。

2006年にLuke VibertはAmen AndrewsとSpac Hand Luke名義のスプリット『Amen Andrews Vs. Spac Hand Luke』をRephlexから発表。Spac Hand Lukeはグライム/ダブステップをメインにした作りとなっており、Amen Andrewsは「1 Shot Killer Pussy」「Amen Andrews」「Murder」という名曲が収録されている。

同年、Soundmurderer & SK-1のレーベルRewind RecordsからPlug名義の12"レコード『Here It Comes EP』を発表。今作はPlugが初期の頃に製作していた未発表曲を収録しているとのこと。2011年にはNinja Tuneから1995-1998年までに製作されたPlugの未発表曲を纏めたアルバム『Back On Time』もリリースしている。

Plugについては、こちらこちらのインタビュー記事で本人がその歴史を語っている。

Amen Andrews ‎– Vol 01
Amen Andrews Vs. Spac Hand Luke
Plug ‎– Back On Time

Luke Vibertがレイヴ・ミュージックを本格的に作品に落とし込み始めたのは、BANGFACEへの出演とRagga Twinsのセッションも一つのキッカケになっていたと見える。
2005年12月9日に行われたBANGFACEのクリスマス・パーティーにてLuke VibertとRagga Twinsはセッション・ライブを行い、その後も不定期にBANGFACEで彼等はライブをしている。

Luke VibertはBANGFACEに度々出演しており、2013年にリリースされたコンピレーション『BANGFACE - Neo​-​Rave Armageddon』にも参加。現在、BANGFACEのSoundCloudで公開されている「BANGFACE mix」は、ブレイクビーツ・ハードコアとジャングルのクラシックを矢継ぎ早に繋ぎあわせた素晴らしい内容で、自分はこのミックスがオンラインに上がってから今日まで何百回と再生している。

BANGFACE WEEKENDER 2017

2014年にFaltyDLのレーベルBlueberry Recordsから8年振りとなるAmen Andrews名義の作品『News Of The World EP』を発表。その後、Amen Andrews名義でのDJセットも披露し、2016年にAmen AndrewsとしてTap Throwのリミックス・シングルを手掛け、Salyangoz PotkestのポッドキャストにジャングルのDJミックス「SP.01 - Amen Madness by Luke Vibert」を提供。

このDJミックスは、Luke Vibertが好んでいるジャングルとアーメン・ブレイクのタイプが解りやすく表れている。くぐもった音色と落ち着くような低いビットレート、スネアよりも印象に残るハットとシンバルの処理、BPMよりも速く感じさせるビートの進行、タフでラウドなベースとアーメン・ブレイクなどなど。Amen Andrews名義でクリエイトするジャングルの模範となったと思われるジャングル・トラックが沢山収録されており、トラックリストもMP3に表示されるので、ジャングル好きは必聴である。

2010年代に突入してから、Luke Vibert名義の作品にもジャングルやブレイクビーツ・ハードコアの要素が強く反映されてくる。

2012年にBalkan Vinylによる『Star Wars』ネタ専門のサブレーベルRave Warsから90'sフレイヴァ全開の「Nerf Herder」をKilla Productionsとのスプリット7"レコードでリリース。2015年にPlanet-Muからリリースしたアルバム『Bizarster』は随所でジャングル/ブレイクビーツ・ハードコアのフィーリングが細切れになって溶け込んでいたが、ラストの「Don't Fuck Around」でハードコアなジャングルを遠慮なく叩き込んでいた。

その後も、Deftに提供したリミックスやAstrophonicaとBalkan VinylのコンピレーションにLuke Vibertとしてジャングル・トラックを提供する。

2017年に発表されたLuke Vibertのアルバム『UK Garave Vol. 1』はオールドスクールなハウス~アシッド~エレクトロに90年代のブレイクビーツ・ハードコア~ジャングルの要素を絶妙に織り交ぜ、Amen Andrewsとも違う側面を提示。2000年代以降のテイストも交えたレイヴ・ミュージックの解釈は、『Modern Rave』へと繋がる伏線でもあった。

オープニングを飾る「The Future」はヒプノティックな電子音と軽やかなハウス・ビートに、Current Valueのスカルステップ・クラシック「The Indivisible Force」のベースをサンプリングしたぶっ飛んだ1曲。Amen Andrewsの「Amotherfucker」でも「The Indivisible Force」と思しきベースラインを使っていたが、あの狂暴なベース・サウンドを違和感なくハウス調にしてしまうのには本当に驚いた。Current Vlaueはこの曲(「The Future」)で自身の曲がサンプリングされたことについて、Facebookの投稿で否定的な発言をされていたが、個人的には原曲を汚さずに上手く使っていて非常に素晴らしい曲であると思う。

『UK Garave Vol. 1』はとてもバランスが良いアルバムで、1曲1曲が違ったアプローチでそれぞれのジャンルを消化しており、全曲を通して聴きたくなる名盤アルバムだ。

2020年にはAmen Andrewsとして、デトロイトのMarble Wax2Maxのコンピレーションに参加。そして、Hypercolourからアルバム『Luke Vibert Presents Amen Andrews』を発表。同年に開催されたBANGFACE Weekenderではジャングルをメインとしたプレイを披露している。

最近はWe're Going Deepからのアシッド・ハウスのシングルが素晴らしかったが、再びアーメン・ブレイクを刻みまくったジャングルやブレイクビーツ・ハードコアが聴けるのも楽しみである。


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