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N-Vitralの変化

ある一定のアーティストを長い時間を掛けて追いかけていると想像もしていなかった変化を遂げて感動を与えてくれることがある。

一つのことに焦点を当てそれをずっと磨き続けるアーティストや、複数のジャンルを同時にクリエイトして様々な姿を見せてくれる器用なアーティスト、ソロからユニットやバンド形式になって表現方法を変えるアーティストなど、皆それぞれ挑戦を繰り返して自身とそのファンを飽きさせないよう刺激を与えている。

活動を続けてくれているだけでも有難いのだが、昔から聴き続けているアーティストが成功して人気者になるのは嬉しい。更に、昔からあるコアな部分を保ちながらクリエイティブであり続けてくれている場合はファンでいて良かったと本当に実感する。

Deftonesが路線変更をしてポスト・ロックの濃いファンから絶賛される過程を見れたのや、アブストラクト・ビートのスター候補生であったDiploがギークのメンタリティを持ったままセレブリティな成功を収めたこと、ブレイクコアからキャリアをスタートさせてエレクトロを通過してEDMにも参入したDrop The Limeも、そしてDef Jux期を経てRun The Jewlsで起死回生を果たしたEL-Pなど、こういった変化を見れたのは感動であった。

ハードコア・シーンでいえば、インダストリアル・ハードコアからメインストリームのトップに実力で駆け上がったN-Vitralの姿が勇ましく、スタイルが大きく変化した今でも驚くような曲を届けてくれている。

2021年にリリースされた「Hardcore Power」はオールドスクールなガバをフェイク・ドロップ的に使うトレンドと、純粋なオールドスクール回帰の流れを汲んだ正にハードコアのパワーを感じさせる曲で、2021年のベスト・ハードコアの一つであった。
N-Vitral X Never Surrenderとしてリリースした「Wij Gaan Harder」も、オランダの根深いガバの血筋を表したようなダーティーな雰囲気と、粗悪な環境で聴いても体感出来るだろう強烈なキックからは、まだまだハードコアは進化出来ることを我々に証明していた。

オランダの大手ハードコア・レーベルであるMasters Of Hardcoreからのリリースがメインとなってからは、N-Vitralはメインストリーム・ハードコアの枠組みで認識され、本人もメインストリーム・ハードコアに寄せたスタイルを展開している。
だが、上記の2曲やクロスブリード期を思い起こさせる「King Of The Underground」など、時折出てくるアグレッシブで攻めの姿勢にN-Vitralの本質が垣間見え、他のメインストリーム・ハードコアのアーティスト達とは違ったものを感じさせる。覆面メンバーを従えたN-Vitral Presents BOMBSQUADとしての作品にも共通したフィーリングがある。

N-Vitralの活動歴

DJ Promo率いるインダストリアル・ハードコアのトップレーベルThe Third Movementから2002年にN-Vitralはデビュー作となる12"レコード『XS36_』を発表してシーンに登場。

N-Vitralは自身の音楽的なルーツにAutechreとConverterを挙げていたが、IDMやリズミックノイズなどから影響を受けているのは興味深い。それ故に、当初はIDM的プログレッシブな要素とリズミックノイズに通じる独特な歪みが活かされていた。

『XS36_』はインダストリアル・ハードコアとカテゴライズすることは可能であるが、それ以上の何か新しいハードコアのスタイルを作り上げている。未だこのレベルのハードコアを生み出せているアーティストは少ないかもしれない。インダストリアル・ハードコアに必要なのはキックと同様に、サウンドデザインにどれだけ個性とプロダクションの技量を活かせるかであると思うが、『XS36_』は総合的にどの部分もずば抜けてレベルが高く、曲ごとの世界観も完成したものがある。

恐ろしいことに『XS36_』がリリースさた時、N-Vitralはまだ17歳であった。

2003年には、二作目『Smocgh』を同じくThe Third Movementから発表。
リズミックノイズにエレクトロ的なエッセンスを交えた独創性のあるインダストリアル・ハードコアを披露している。音圧を整えれば現代のフロアでも100%通用する曲ばかりであり、『XS36_』と今作は余りにも時代を先取りし過ぎた名盤だ。
以降、N-VitralはThe Third Movementからインダストリアル・ハードコアの傑作を続々とリリースしていき、同レーベルの看板アーティストとなった。

転換期

2010年にリリースした1stアルバム『I Audioassault U』でN-Vitralのクリエイティビティが爆発。ハードコアという枠をまったく意識していないようにも見える挑戦的な手法と構成によって、ハードコアそのものをアップデートさせている。
『I Audioassault U』はインダストリアル・ハードコアが転換期を迎えていた時期に発表されたのもあって特に印象深い。また、ブリープやIDM的な要素を再び取り入れ、以前よりも純度の高い混合スタイルを提示。自由な発想とそれを実現可能に出来る優れた技術によって、『I Audioassault U』はハードコア史に残る名盤となっている。

2010年代に入ってから、インダストリアル・ハードコア全体に以前よりもアウトプットが増え、クロスブリードの出現とも相まってN-Vitralはよりストレートな表現に向かっていった。

初期から中期のN-Vitralの音楽に類似点を見出せるアーティストはハードコアよりも別のジャンルの方が多い。例えば、Lustmord、Somatic Responses、Hypnoskull、Orphxなどのインダストリアル~リズミックノイズ~テクノイズに共通点があり、Senical、Dep Affect、最近であれば[KRTM]やSlave To Societyといった実験的なハードコアにも繋がっている部分がある。

インダストリアルかつブリープな音色や変則的なビートの展開などからは、Clarkの作品に近い印象を受け、N-VitralはClarkのハードコア化、またはその逆とも言える曲がある。勿論、一番の共通点はどちらも唯一無二の世界観とプロダクションを持っていることで、実質はまったくの別であるのだが、バランス良く纏まっていながら、何処か一部分が歪に突出している部分などから近いものを感じさせる。

現在に繋がる伏線

Nekrolog1k一派とのシンクロによって、N-Vitralもクロスブリードを取り入れた曲を製作。特に、2012年にリリースされたAK-IndustryとIgneon Systemとのコラボチューン「Reloaded」の衝撃度は凄まじく、クロスブリードがテンプレート化する前の実験的で勢いのあったシーンの熱気を閉じ込めた名曲であった。
DeathmachineとThe Outside Agencyとの合作シングルも非常に印象深く、クロスブリードの歴史にもN-Vitralの名は強く刻まれている。

2016年には2ndアルバム『Louder Than A Bomb』を発表。今作と前年にヒットしていた「Crispy Bassdrum」によって、メインストリーム・ハードコアとの接点が深まる。
クロスブリードからの影響がロウスタイルに変わり、メインストリーム・ハードコア・シーンのアーティスト達とのコラボも増え、ハードコア・フェスティバルのアンセムを手掛けることによってN-Vitralのスタイルもメインストリーム側に寄せられていったが、PRSPCTのコンピレーションやDeformerのリミックスでは骨太で切れ味の鋭いインダストリアル・ハードコアを披露していた。

そして、Masters Of Hardcoreにリリース拠点を移してからはインダストリアル・ハードコアからは離れ、メインストリーム・ハードコアに向けた活動に切り替わっていった。

N-Vitralの活動歴を振り返り、彼の曲を年代別に順番で聴いていくと、根本的に歪みへの探求心は変っていないことが解る。最近は冒頭でピックアップした曲のように比較的キャッチーで分かりやすいサウンドになっており、当初のような複雑さや歪さは感じられないが、彼の中からそれらの要素、もしくは欲求が無くなってはいるとは思えない。本気を出したらハードコア・シーンがドン引きするようなネクストレベルのインダストリアル・ハードコアをいつでも生み出せるのではないかと思う。近年のスタイルと曲調も良いのだが、なんというか片手だけで今は戦っているような状態なのではと失礼ながら勝手な妄想を膨らましてしまう。そんな期待を常にしているので、これからもずっとN-Vitralは追いかけるだろう。












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