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レフトフィールド・ドラムンベース/ポスト・インダストリアルとしてのImaginary Forces

アブストラクトなジャングル/ドラムンベースを中心に実験的なダンスミュージックのリリースで大活躍中のBasic Rhythmことイギリスの実験電子音楽家Anthoney J Hartが10年以上前に発表していた隠れた名盤について。

まず、Basic Rhythmについて簡単に説明しよう。2016年にType Recordingsから発表したアルバム『Raw Trax』で注目を集めて以降、Future Retro London、Sneaker Social Club、Planet-Muといった人気レーベルからシングル/EPをリリースし、モダン・ジャングルが急成長する流れに同調しながら独自の地位を獲得。ジャングル/ドラムンベースを主体にブロークン・ビーツ~ハーフステップ~ジャンプアップ~ブレイクビーツ・ハードコア~テクノを溶かして再構築したBasic Rhythmのトラックは、イギリスのRAVEミュージックの新たなフォーマットを作り上げており、常に一歩先をいった刺激的な作品を発表し続けている。主宰レーベルであるRaw Basicsからリリースされるシングルも高い評価を受けており、日本でも彼のトラックをサポートするDJは少なくない。

グライム~ダンスホール~テクノを繋ぎ合わせたEast Man名義ではPlanet-Muから2枚のアルバムを発表しており、それらもアブストラクトでレフトフィールドなダンスミュージック愛好家達を唸らせていた。

Basic Rhythm/East Manとして活動する以前、Anthoney J HartはImaginary Forcesという名義で幾つかの作品を発表している。2010年にOhm Resistanceからリリースされた1stアルバム『Filth Columnist』は、ディストーションが全体を覆いつくすジャンクでスラッジーな異形のドラムンベースを披露。今作はChristoph Fringeliがポスト・パンク~インダストリアル・ミュージック~ノイズをドラムンベースとミックスさせた『Bodysnatcher』(w / DJ Scud)や『Anti-Christ / A.C.』(w / DJ Pure)、90年代後半にThe PanaceaがPosition Chromeで展開していたハードコア・ドラムンベースにも近く、アヴァンギャルドな視点と手法でドラムンベースをクリエイトした興味深いアルバムであった。

当時、私が運営していたWebショップ(GHz music store)で発売されたばかりの『Filth Columnist』を仕入れて販売させて貰っていたが、こちらの激プッシュもあってか結構な枚数が売れた。
ジャンク/アヴァンギャルド・ロックのフィーリングが何処となくあり、リリース元であるOhm Resistanceのレーベルカラーに非常にマッチしている。この頃から、Ohm Resistanceはドラムンベースからドゥーム、ノイズ、実験音楽に更に力をいれていったが、今作がレーベルにとっても一つのターニングポイントとなったのかもしれない。

そして、翌年に同レーベルから発表されたアルバム『Uppstigande』は凄まじく衝撃的であった。

Selfish CuntやSex Gang Childrenで活動していたMatthew James Saw、Merzbowとのコラボレーションで知られる凄腕ドラマーBalázs Pándiが参加しており、インダストリアル・テクノやリズミックノイズ的な要素を取り込み、前作よりも実験的なアプローチでダンスミュージックに挑んでいる。2010年代中頃にMumdance、Rabbit、Visionistが取り組んでいたオルタナティブなグライム・スタイルを予見していたようなトラックもあり、後に爆発するエクスペリメンタルなベースミュージックのムーブメントを先取りしていたような内容で、いつ聴いても何かしらの発見がある素晴らしいアルバムだ。

『Filth Columnist』はジャンクやスラッジなサウンドと世界観を電子音で作り上げ、『Uppstigande』ではポスト・パンクやインダストリアルの背景を飲み込んでいるが、Anthoney J Hartが元々はドラムンベースのDJからキャリアをスタートさせたというだけあってか、アブストラクトでノンビートな曲であってもグルーブ感があり、ドラムとベースへの拘りが感じられる。この独特なグルーブ感と拘りはBasic Rhythmにもあり、彼の音楽の特徴的な部分である。

J.G. Thirlwell(Foetus)が参加したDJ Food『The Search Engine』や、Blixa Bargeld(Einstürzende Neubauten)が参加したModeselektor『Mean Friend』、またはつい先日発表されたMerzbowとMeat Beat Manifestoの合作『Extinct』など、ジャンク~インダストリアルとダンスミュージックの邂逅は今も起きているが、Imaginary Forcesの作品はそれらの融合を理想的なバランスで一人で生み出していたのが凄い。
The Sprawl(Logos、Mumdance、Shapednoise)と同様、ドラムンベースやRAVEミュージックをルーツに持った者だからこそ出せるビートやベースのアプローチがある。

Basic Rhythmのファンにはその本質を辿るということでImaginary Forcesの作品もチェックして貰えたらより一層作品を楽しむことができるかもしれない。興味が湧いたら是非聴いてみて欲しい。

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