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やはりディープインパクトは最強馬!? 東スポ調教評価9点の謎を追え!

東京スポーツ紙を、買っているだろうか?
私は毎週金土曜日には欠かさず買っている。それはもちろん競馬欄のためだ。
夕刊紙の中では情報量が抜きん出ていて、しかも競馬専門紙と比べて格段に安価である。前日夜から時間をかけてゆっくり予想をしようという競馬愛好家にとっては、東スポはこの上ない情報紙だと思う。


東スポの調教評価


東スポの競馬欄の馬柱には、一番下段の方に調教欄があり、調教メニューとタイム、そして調教評価の点数が記載されている。
この採点は大変分かりやすくかつ有効なもので、予想には絶対に欠かせない。前走成績などはすぐにネットで見ることのできる現在の世の中だが、馬の状態に関しては、やはりトラックマンたちを要する競馬紙が頼りになる。

この東スポの調教採点について、実際にひとレースひとレース、調教評価のデータをとり、その蓄積から評価と競争成績の相関性を分析しているサイトもある。このサイトの分析は相当に緻密なものである。

この分析にもあるように、東スポの調教評価は10点満点の体裁だが、実質的に振り分けられるのは4点から8点までであり、4,5,6,7,8,の五段階評価なのだとされている。
点数の振れ幅は意外に狭く、点数が6点であることが全体数の62.54%という統計が出ている。つまり6点がふつう、ということだ。
この評価には調子だけではなく、馬の実力も加味されているので、レースのレベルが高く、重賞レースになるほど、点数は上がる傾向があり、7点の馬も複数記載されるようになる。

7点は好調、さらに8点となると絶好調だと判断していい。
しかもこのサイトによれば、8点が付されるのは全体の0.38%しかない。先日(2022年)の安田記念では、G1であるにもかかわらず、8点が付された馬は一頭もいなかった。
それだけ貴重なのだが、8点が付された馬の三着内率は50%を上回っているということだから、競馬を予想するにあたって、東スポの調教評価8点、というのはかなり見逃せない指標となる。

さて、このサイトで用いられているのは、2017年10月から2019年5月末日までのデータということである。この期間では、どんなに絶好調の馬も、最高で8点の評価までにとどまっている。確かに、私の記憶でもそうだった。

ただ、実は私は以前調教評価9点という採点を見たことがある。
確かに、その馬を除いて9点という点数がつけられているのを見たことがない。少なくともここ10年ほどは出ていないのではないか。

9点がつけられていた馬とは、ディープインパクトである。

ほんとうに、ディープインパクトには9点の評価がされていたのか。
この疑問の答えはネットには転がっていなかったので、国立国会図書館へ行って調べてみることにした。

ディープインパクトの調教評価


国会図書館4F、新聞資料室で請求しておいた2004年12月の東京スポーツのマイクロフィルムを受け取る。国会図書館では東京スポーツ紙も他の一般紙と同じように、年月を経たものはマイクロフィルム化されて保存されており、それを専用のスキャナーを使って読み込んでいく。
ディープインパクトのデビューは2004年12月19日、阪神競馬場での新馬戦である。一面のプロレス記事や男セン面のヌード写真が画面に表示されるなか、競馬欄の馬柱を探して、モノクロのフィルムを読み込んでいく。

私事だが、この12月19日の当日、私は阪神競馬場で現地観戦しており、ディープインパクトが厩務員に牽かれてパドックに現われるのを見ている。その感想は、「ブラックタイドの下か、小さい馬だな…」というものだった。私の目にはそう特別な馬には映らなかったのだが、ディープインパクトはこの新馬戦で後の重賞4勝馬コンゴウリキシオー以下を完封し、デビュー戦を勝利で飾る。

果たして、調教評価はどうだったのか。
マイクロフィルムをカタカタ回しながら、しまった、と思った。
当時、東スポは関東開催以外の競馬場のレースは、特別レースを除いて調教評価を省略していた。ディープインパクトの新馬戦にも、調教欄は省略されていた。地元の大阪スポーツの紙面であれば、記載があるはずなのだが…

2005年1月 若駒ステークス


気を取り直して、翌年1月、ディープインパクトの二戦目、若駒ステークスの馬柱を探す。特別レースだから、よもや省略していることはないだろう…
すると、あったあった!やっぱり、ディープインパクトには9点の評価が与えられていた。

東京スポーツ2005年1月22日付紙面より

ちなみに、この時ディープインパクトは道中最後方から、4コーナーで先頭まで10馬身ほどの差があったにも関わらず、上がり33.6の末脚を繰り出し、2着ケイアイヘネシーに5馬身差、タイムにしてコンマ9秒の差をつけてゴールしている。

やはり、9点はあった。自分の記憶が正しかったことに安心し、半ば興奮しながら、さらにディープインパクトの足跡を辿っていく。
以降のディープインパクトの調教評価を調べていくと、ここから日本ダービーまでは9点が続く。夏場の休養を挟んで、神戸新聞杯と菊花賞は8点。暮れの有馬記念では初めて7点という評価になった


東京スポーツ2005年5月29日付紙面より

以下にその推移を示す。着順はご存知の通りである。

3歳時(2005年) ディープインパクトの調教採点
1月 若駒ステークス 9
3月 弥生賞     9
4月 皐月賞     9
5月 日本ダービー  9
9月 神戸新聞杯   8
10月 菊花賞    8
12月 有馬記念   7

ということだった。

東京スポーツ2005年12月25日付紙面より


7点と評価を落とした有馬記念で、単勝1.3倍の圧倒的人気を裏切ってハーツクライに敗れたことを考えると、東スポの調教評価はやはり無視できない(ちなみに当時の本紙予想、渡辺薫の本命はハーツクライだった)。

そして4歳になってからは9点評価がついたことはない。もちろんそれは、馬が成熟して調整が容易になり、調教で強い負荷をかけることもなく、全力で走るということもなくなったということもあるだろう。どんな名馬も、競馬を覚えていくうちに、調教ではさほど動かなくなっていく。

特筆すべきことは、ディープインパクトの評価が定まるはるか以前、もちろん無敗の三冠馬となり歴史的名馬となる以前の段階で、東スポが破格の調教評価9を与えていたことである。

これは、東スポの慧眼と言わなければならない。

最後に おねがい


以上のように、ここ少なくとも5年ほどは出ていない調教評価9点という破格の評価が、あの最強馬ディープインパクトには与えられていたことが分かった。
しかし、申し訳ないことに、この記事では二つの謎が残った。

ひとつは、2004年12月のデビュー、新馬戦でディープインパクトの調教評価は何点だったのか、という謎(私の記憶によれば9点だったはずなのだが…)。デビュー以前の段階で、東スポが破格の調教評価9を与えていたとすれば、それだけ東スポの価値は高まる。
国立国会図書館では、大阪スポーツのマイクロフィルムを2007年4月以降の分しか所蔵していないため、ディープインパクトのデビューの新馬戦の調教採点を確認することは出来なかった。

もうひとつは、ディープインパクト以外に調教評価9点を記録した馬がいるのか、という謎。ここにも調査で踏み込むことが出来なかった。私が大阪スポーツ、東京スポーツを買い始めたのは2000年代のはじめの頃からなので、それ以前の名馬たちについては、紙面・馬柱では見ていない。ディープインパクトだけが特別だったのか、それとも他にも9点を与えられた馬がいるのか、それがどの馬だったのか、という疑問は、興味をそそる。


もし記事を読んでいただいた中で、このふたつの疑問に答えてくれる方がいれば、ぜひご教示していただきたい。
おねがいします (´;ω;`)

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