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『犬神家の一族』のなかの「東京ブギウギ」

今回はちょっとした小ネタである。

今期絶賛放送中のの朝ドラ『ブギウギ』。

ブギの女王と呼ばれた歌手笠置シヅ子がモデルとなっている。
服部良一とのコンビから、名曲「東京ブギウギ」が生まれ、歌って踊るブギの女王笠置シヅ子が誕生した。

「東京ブギウギ」はあの角川映画の超大作『犬神家の一族』のワンシーンに関わっている。

ちょうど、KADOKAWA公式YouTubeチャンネルでは『犬神家の一族』(1976)が2週間限定で無料公開されている。


おどろおどろしい犬神佐兵衛翁の臨終シーンから、大野雄二作曲による「愛のバラード」の調べに乗ってオープニングが流れたあと、金田一耕助が登場。

夜汽車に乗って那須へ到着し、依頼人から指定された宿を探そうと道を訪ねた若い女は、折よく旅館の女中・はるだった。

坂口良子:20歳 石坂浩二:35歳(公開時)


旅館へ案内されると、玄関では蓄音機から笠置シヅ子の愉快な歌声がほのかに聴こえてくる。
流れているのは「東京ブギウギ」である。

『犬神家の一族』の世界は、1976年の公開時から遡ること約三十年の昔。
世相が戦後間もない時期であることを観客に印象付けるための舞台装置として、「東京ブギウギ」が使われている。

旅館の帳場の中には蓄音機が設置されているのが確認できる

じつはここには小さなウソがある。

「東京ブギウギ」は横溝正史の原作にはない演出だが、この市川崑版『犬神家の一族』では時代設定は昭和二十二年と明記されている。

「東京ブギウギ」のレコード盤が発売されたのは翌昭和二十三年の一月。
史実に基づくならば、長野の旅館にレコードがあるはずはないのである。

さて、坂口良子演じる女中はこの後もところどころ劇中に顔を出し、一時は金田一の助手を務めたりと活躍を見せ、ラストシーンまでしっかりと出演している。

どちらかと言えば特徴のない美人である野々宮珠世役の島田陽子よりも、表情豊かで愛嬌たっぷりの坂口良子のほうを、映画を見終わった観客は印象深く覚えているに違いない。

坂口良子は石坂/市川崑版「金田一シリーズ」では5作中3作に出演し、『獄門島』では理髪店の娘を、『女王蜂』ではまたも女中役を演じている。

そして40年を経た2006年のリメイク版では、この女中役を深田恭子が演じた。

溌溂として可憐であるし、血なまぐさい惨劇の続く映画のなかでさわやかな清涼剤の役割を果たしているのだが、深田恭子はどうも田舎のボロ旅館の女中には見えない。

件のシーンで金田一を旅館に案内するところで、レコードから「東京ブギウギ」がかかっているのは旧作と同様である。

細く形の良い眉が都会性を感じさせる深田恭子

結果的に市川崑の遺作となった2006年版『犬神家の一族』だが、多くの部分が前作を忠実に再現していることもあり、リメイクの意義はあまり感じられない。
それだけに、むしろ1976年版の優秀さが強調されることになった。

というわけで、以上、『犬神家の一族』のなかの「東京ブギウギ」でした。

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