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『物語を君へ。』と『彷徨い』 - 不可解弐Q1 "side FLAT STUDIO" -

「技術」と「感性」

"良いクリエーターとは?"なんて問いがあれば、このふたつを高いレベルで両立している人と答えると思います。事実、これまでいろいろな場面でそう答えてきました。

2020年10月10日に行われた『花譜 2nd ONE-MAN LIVE「不可解弐Q1」』。
FLAT STUDIOはライブ本編後に流れたコンセプトムービー「物語を君へ。」の制作をしたわけですが、メンバーごとにいくつか協力をさせていただきました。僕の場合は《依》とともに『彷徨い』のアニメーション映像の制作を。
物語はどこから眺めるかによって、また違った見え方をします。

少しばかり、彼女について話します。
ほとんど自分のためのような文章ですが読んでいただけると嬉しいです。

彼女は東京ではない街で暮らす現在中学3年生の女の子。
出会いは2019年12月16日(月) 20時18分に届いた1通メールです。


「スタジオメンバーに応募します。依と申します。よろしくお願いします。」


この1文とともに添付されたポートフォリオ。
綺麗なイラストが収められ、彼女自身のことも知りました。
FLAT STUDIOがどうとかは置いておいて、あなたのことが知りたいので、一度親御さん含めて話しましょうと伝え、後日電話でミーティングをすることに。


「精神的に不安定なところがある子ですが、絵を描くのは好きなようで、もし、学校に行けなくても技術として身につくものが何かあれば良いと思っています。」


お母さんからはそう説明を受けました。

社会と繋がり誰かと何かを生み出すには「技術」が必要だと思います。
それは、絵を描くとか、髪の毛を切るとか、運転をするみたいなことは勿論、ある意味ではコミュニケーションでさえ「技術」と言えるのではないでしょうか。

技術については語ることが容易く、さまざまな角度から解説することはできますが、「感性」については難しい。正解がないうえに受け取り方は千差万別で、改めて考えても、感性の実態は掴みづらいんです。
ですが、彼女の作品を初めて見たときにふと思い浮かんだ言葉は「感性」でした。

小さなことで怒ったり
なんでもない日常で涙してしまったり
その人がどうやって世界をみてきたか
その断片が現れるのが「感性」であり
それを通して生み出された作品たち

自分のなかで言葉にならない「感性」について
言葉ではありませんが、答えを見つけられそうな気がしました。


「まずは何か一緒に作ってみようか!」


と言うのは簡単ですが意外と着地点を見つけるのは難しいんですよ(苦笑)
彼女は花譜ちゃんをはじめKAMITSUBAKI STUDIO所属のアーティストが好きだということだったので、KAMITSUBAKI STUDIOのみなさんに相談をしたところ、PIEDPIPERさんから「やりましょう」の一声。
この時から僕らは「不可解弐Q1」に向けて動き出しました。

一般的に音楽媒体でアニメーション映像を作る場合は下記のような段取りになります。

①企画書制作(字コンテの制作)
②絵コンテ制作(場合によっては簡単なVコン)
③確認ができ次第ラフ映像制作着手
④途中経過確認だし〜チェックバック
⑤最終調整〜仕上げ

ですが、今回は規定のワークフローに乗せること(=発注サイドが確認をしやすくすること)は、彼女の才能を殺すことにもなりかねない。「依さんがベストを尽くせるやり方で大丈夫ですよ」と、神椿チームは彼女がやりやすい環境で制作することを了承してくれました。

後日届いた楽曲が『彷徨い』。
気がつけば6月になっていました。

今回『彷徨い』のアニメーション映像をつくるえでの段取りはこちらです。

①依がイメージを伝える1枚絵をまず描く
②問題がなければ楽曲の頭から少しづつ作る(コンテは作らない)
③完成までとにかく頑張る

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(最初に上がったイメージイラスト)

ひとりで作る作品なので分担することは出来ない。基本的にループ表現などは使わない。
アニメーション映像を作ったことがある人はわかるかもしれませんが、分担作業をしない動画制作作業は相当な粘り強さと根気が必要です。

2週間もすると30秒ほどが完成。
予想以上のスピードに驚きました。

映像に音が入ってないのが気になりましたが、あのイラストが動いている。繊細な世界観が描かれていましたし、花譜の儚い表情を含め才能が迸っています。


「音は入れないの?」

「音の入れ方がわからなくて」

「……どうやって口パクとか合わせてるの?」

「iPhoneで再生して、それを聞きながら描いてます!」

「(再生して止めてを繰り返すの)大変じゃないですか?笑」

「いろいろ試してみます!」


一番衝撃だったかもしれません。
すごすぎて少し笑えてきますよね。


7月
《依》の手が完全に止まりました。


「すいません本当に終わらないんですけどどうすれば良いですか? 良いか悪いか分からなくなってきた。失敗したらどうしようと思ってしまいます。そもそも完成しないしほとんど修正したくなってしまって、何が言いたいかもあまり分からないですし自分でどうにかしろって感じなんですけど、他の人はこういう気持ちの時はどうしますか?」


それから僕らは制作以外の話しをすることが増えました。
ネガティブとの向き合い方が分からない、と聞かれたこともありました。
多かれ少なかれクリエーターは誰しもが自分のなかの闇と向き合っている。
神椿チームのみなさんは、ただただ僕らを信頼して待ってくれました。

とはいえ、そろそろ完成させないとマズイという時期に入り、初めてスケジュールから逆算して現実的な落とし所を探したいと打診を。
僕からの提案はこのふたつ。

A:自分が妥協できるまで頑張る
B:苦手なカットを無しにして得意なカットを増やす

現実的なことを考えると"A"で、自分なりの落とし所をつけること。
〆切がある商業制作をすると、この壁にぶつかることが多いです。

彼女からの提案は"A+B"
クリエーターに年齢は関係ないと思っていましたが、改めてその思いが強くなりました。
自分と向き合いながら少しづつ完成に向けて、再び歩みはじめましたのがこの頃。


9月
制作は大詰め。
完成前に一度直接会って話しましょう、と。
初めて対面でお話しすることになりました。
東京からは少し離れた街へ。

どんな暮らしをしているか
最近考えていること
進路のこと
将来のこと

ざっくばらんに色んな話しを。
僕からは彼女がイラストレーターとしてキャリアを築くならばの"僕なりの予想"を伝えました。

僕は市内に宿泊することになっていたのですが、そこまで送ってくださることに。お言葉に甘えて、依さん一家の車に乗り込みました。
きっと彼女が話しきれてないと感じたお母さんの気遣いもあったと思います。


「FLAT STUDIOのメンバーの作品は好きですか?」

「みなさん好きです! いつも勉強になってます!」

「学校でも流行っていたりするんですか?」

「みんな佐野徹夜の本を読んでますよ!」


メンバーみんなのことは"さん"をつけているのに、なぜ佐野さんは"佐野徹夜"
めちゃくちゃ笑いました。
(佐野さん最高!)

市内が近づいてきました。
「もう聞きたいこと聞けたの?」とお母さん。


「何か聞き逃したことないですか?」

「石井さんは何歳のころが一番楽しかったですか?」

「(今だよと言えたらカッコいいが)うーーーん。難しいけど、今楽しいなって初めて思ったのは20代後半になってからかなあ」

「なるほど! そうしたら、私もまだまだ楽しいことありそうですね!」


そうだね、としか返せなかったのですが、なぜか、本当になぜか分からないのですが、心にくるものがあって感動したことが忘れられません。


後日
映像は無事完成しました。


「技術」と「感性」
もしかすると全く説明になっていないのかもしれませんが、僕自身がこの『彷徨い』を通してかんじた「感性」の一端です。

彼女は今進学を考えているようです。
"社会人の1ヶ月と同じくらい思春期の1日にはたくさんの刺激がある。"
どこかでそんなことを聞いたようで、だったら、刺激を受けに行こうと思ったようです。


「学校に行くのが難しくても作品づくりとか学校以外の場所でちゃんと頑張ればそこで道は開けるよ」


これは彼女が僕に言った言葉です。
『彷徨い』の制作を通してそう思うに至ったのかは分かりませんが、僕は(感動しすぎてフィルターかかってると思いますが)ひとりのクリエーターが創作を通じて、自分の人生を前進させた、そのことが嬉しかったです。
もしかすると次の作品を作るまで時間がかかるかもしれませんが、イチファンとして待っていたいと思います。

画像2

『彷徨い』にはこの映像がピッタリだと心から思います。


「物語を君へ。」


視点をFLAT STUDIOに戻します。

これまでFLAT STUDIOとして制作してきた映像は、基本的にloundrawがほぼ大半のパートを担うある種彼の才能とリソースを中心とする作り方。
加えて、自分たちでキャラクターデザインを行えるという長所があるゆえに既存IPのアニメーション化は受けてきませんでした。

今回の挑戦はloundrawが描いたコンテをもとにloundraw以外が映像化したらどうなるか。asano66と涌元トモタカが映像制作におけるディレクターとして、全体的な管理を担い進めました。


スタジオとしての実力が問われている。
それは参加した全員が感じていたことだと思います。
なので、公開直後のコメントやSNSの反響を受けて安心感もありました。
作成途中のVコンテなどloundrawのTwitterでも紹介しているので、よければ見てみてください。

そして、やはり僕らは余裕でまだまだやれるとも思いました。
短編映画。来年の夏をめがけて走り始めています。
CMやコンセプトムービーもどんどん作りたいです。

もしFLAT STUDIOの活動に共感したり応援してみようと思ってくださる方がいましたら是非ご連絡をしてほしいです。

一緒にものづくりをしようとするクリエーターも、お仕事を依頼してくださるみなさんも僕らには必要です。新しい出会いを楽しみにしています。


CONTACT
https://flatstudio.jp/#contact


それでは、よろしくお願い致します!



FLAT STUDIO
石井 龍(https://twitter.com/ishii_ryu)

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