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asano66

ほとんどの記憶は風化していくもので、良いことも悪いことも、だいたいのことを忘れてしまうけれど、いくつかの強烈な記憶やセンセーショナルな出来事は忘れられないもので、時折思い出してみては物思いに耽って過去を懐かしんでいます。

2019年2月3日(日) 21:09
題名: 履歴書/職務経歴書/ポートフォリオの提出方法について

メッセージ本文:
FLAT STUDIO様
教えてください。
「各種資料を各ストレージサービスを利用のうえコンタクトフォームより送付」するとの事ですが、今メールを送信しているこの場所に各種資料を保存したストレージサービスのリンクを貼り付ければ良いのでしょうか。 

当時のメール(原文)

2019年2月4日(月) 12:17
asano66様(実際は本名)
お世話になっております。
私、FLAT STUDIOの石井と申します。

>「各種資料を各ストレージサービスを利用のうえコンタクトフォームより送付」するとの事ですが、
>今メールを送信しているこの場所に各種資料を保存したストレージサービスのリンクを貼り付ければ良いのでしょうか。 

はい、こちらのメールフォームにストレージのURLを貼り、
ご送付くださいませ。
どうぞ宜しくお願い致します。
石井

当時のメール(原文)

2019年2月5日(日) 10:33
石井様 
ご丁寧な返信ありがとうございます。
分からない事が多いので、また相談させて頂くことがあるかもしれません。
お手数をおかけして申し訳ありませんが、宜しくお願い致します。
asano66

当時のメール(原文)

FLAT STUDIOの設立発表をした当時、asano66との最初のやりとり。
ありがたいことに沢山の方からメンバー加入に関する問い合せや応募を頂いており、このようなやり取りのあとに音信不通になるケースも多く、その後暫くasano66からポートフォリオが送られて来なかったことも相まって、彼も例に漏れず流れたのかなと思っていました。

彼から再びメールが入ったのはその1ヶ月後。

当時のasano66は芸術大学への進学を目指して美術予備校に通うも成就せず、美術予備校を卒業してからふらふら過ごすいわゆる"ニート"で、当然ながら履歴書には職務経験・職歴「なし」の2文字。
そのような状況で知ったのが<FLAT STUDIO>だったようです。

デッサン 木炭氏倍版(asano66応募資料より)

後日。
都内某所で待ち合わせ、面接スタート。
面接は最後まで至って常識的な道筋を辿りました。

どうしてFLAT STUDIOに入ることを志望したのか、好きなアニメーション作品はなにか、など。
しかし、ある種の面接定型文でもある「何か質問はありますか?」という問いに対してasano66がしたのは「住み込みは可ですか?」という質問。
もちろん彼は無意識ですから、我々の奇をてらうつもりもなく就職した後の環境という意味で純粋に気になった質問とのことでしたが、我々にとっては予想もしない問いかけを純粋な眼差しで投げかけて来たのです。

「普段は何をしてますか?」
「絵を描きます」
「休みの日は何して過ごすの?」
「絵を描きます」
「趣味とかは?」
「絵を描きます」

ああそうだ。
さっきから"絵を描きます"の禅問答が繰り返されていたんだった。

風景デッサン(asano66応募資料より)
アニメ作画2(asano66応募資料より)

彼のなかでは出勤時の移動時間が億劫なのでいっそのこと住み込みをしたほうが楽ということからの質問だったようですが、その瞬間、僕らの間ではasano66をメンバーに迎え入れることが決まりました。
2019年3月19日の出来事です。

後日聞いた話しによると、もともと油画を描いていたこともあり背景美術を志望していたが、ポートフォリオ制作に取り掛かる少し前にふと「作画のほうが得意かも」と思うに至り、FLAT STUDIOの応募時には美術と作画の両方に志望届けを出したようでした。
そして、我々が惹かれたのは彼の「作画」の感性でした。

FLAT STUDIOに加入してからのasano66はloundrawの右腕として「サマーゴースト」を始め、多くのloundraw作品に携わりました。
FLAT STUDIOのなかでもloundrawの薫陶を最も色濃く受けたクリエーターのひとりであり、作家としてのloundrawの凄みを最もよく理解する人間のひとりであることに違いありません。
そんなasano66が初めてコンテから手掛け、監督を務めた作品がこの<雀魂5周年記念ムービー「かわらないもの」>です。

FLAT STUDIOの監督にはイラストレーターにルーツを持つ監督のほかに、背景美術・コンポジット・3DCGにルーツを持つ監督が多いです。アニメーション業界としては一般的なルートかもしれませんが、FLATSTUDIOにとっては作画にルーツを持つ監督はasano66が初。
画面全体におけるキャラクターの動きや演出から、彼が人間をどのように見ているかが感じられますし、近いところで彼を知る人間のひとりとして、asano66の人間性が現れているであろう表現が随所に見られます

「loundrawの2番煎じ」

きっとasano66にはそんな声や評価が集まると思います。僕らの距離では両者の違いを説明する言葉を持ちますが、彼の生み出すものの背景にはそれまでサポートしてきたloundrawの存在が透けて見えますし、表現手法をとってもloundrawが用いる技も取り入れています。これまでの歩みを隠しても仕方がないですし、事実、ひとりのアニメーション監督としてみると正真正銘の"正統後継2番煎じ"が今のasano66の現在地と言えるでしょう。

TOHO animation 10周年企画 loundraw × BUMP OF CHICKEN「天体観測」
asano66担当ラフ原画/原画カット(抜粋)

多くの悩めるクリエーター(または志望)の方と話すと彼らが見えていないのは今の業界構造や目標達成までの道筋ではなく、むしろ最も身近な存在である「自分自身」のように感じます。

他人を評価することや誰かが成し遂げたことの要因を分析することには長けていながらも、自身が本当に持つ強さや抱える弱さーーある意味では欲するものがもう手に入らないかもしれないという現実ーーを直視せずにゲームクリアの方法論に気を取られ過ぎなのかもしれない、と。

自覚的であるないに関わらず、作家はそれぞれが語るべき物語を持つ(持つようになる)気がします。
僕がプロデューサー&マネジメントとして作家(の卵)を見るとき、この本人が<語るべき物語>の有無は彼・彼女らのキャリアを考えるうえでも重要な要素。
生育環境やこれまでの経験からすでに物語を背負いそれに自覚的な者、人生を過ごす過程で物語が宿る者など関係性は様々ですが、asano66にとっては、現在彼が置かれているこの状況の先にこそ、彼自身の本当の物語が生まれる予感がしています。

迸る才能と技術でメンバーを牽引するloundraw、誰からも愛され自然と周りに人が集まる人間性を持つasano66(極端に言ってますが実際のところloundrawも人間味のある男ですし、asano66も高い技術力があります)というふたりは、僕から見るとクリエーターとしてどこか表裏一体で、自身が手にしていないものを相互に補う関係のように思えます。
たぶんasano66は無意識だと思いますが、loundrawはどこか自覚的な気がしてます。

ひとりの作家として何を語るか。

asano66が今後どんな物語を語るようになるか、正直まだわかりません。予想がつかない、という方が正しいかもしれないです。
ですが、そう遠くない未来。彼にも背負うべき物語が宿るという予感は、僕のなかでは確実なことです。

キャラクターデザイン練習(asano66)
キャラクターデザイン練習(asano66)

繰り返しになりますが本作がasano66にとって初めてコンテを手掛け、監督を務めた作品です。
雀魂チームの皆さんには貴重な機会を用意して下さり本当に感謝すると同時に、いつかasano66が大物になったときに誇っていただけるように我々も精進していきます。

最後に。
asano66が2019年に我々に提出した履歴書の志望動機を引用して、今回の結びとさせていただきます。

今の日本のアニメーションをより広い視野でとらえ、新しく提案できるスタジオになると感じます。この場所で仕事がしたいと強く思い応募しました。私はアニメーション制作に関しては素人ではありますが、毎日欠かさず時間のゆるす限り絵を描いています。

<asano66の履歴書 / 志望の動機・特技・好きな学科・アピールポイントなど>より


asano66にぜひご期待ください!

石井龍

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