自分の話しかしない男


これは昔1度だけデートをした男の話である。

年上のその男は社会的地位もそれなりに確立している一般的に勝ち組と呼ばれる男であった。

それまで自分の周りにいる男はどちらかというと金はないけど価値観が似ていて面白い奴が多かったので、真反対のその男に興味がそそられた。

デート当日、まだ知り合って日が浅かった事もありお互いを知るためにゆっくり話せそうな落ち着いたレストランで食事をした。

件の男は思いのほかよく喋るヤツだった。

というのも、とあるコミュニティで知り合ったその男はコミュニティ内ではどちらかというと自己主張をしないニコニコ愛想はいいけど寡黙な印象だったのでそれとのギャップからワイは少し面食らってしまった。

その上、そいつがする話というのが自分の生い立ちから偉業に至るまでまるで自叙伝でも読んでいるかのように詳細かつ、大胆に大層くだらない内容であったのだからワイは心底うんざりしてしまった。

そんな訳でデート前まであった男への多少の興味はファブリーズの如く霧散しぐんぐん乾いていった。

しかし、場の空気感を重んじる田舎者マインドを持ち合わせていたワイはそれらの自慢話に程よく合いの手を入れてしまい更に奴の話を加速させる手助けをしてしまったのだからほとほと自分が情けなく思う。

そんなワイのイラつきを露ほども感じない男は絶頂寸前の恍惚とした表情を浮かべ話すスピードはどんどん増し光の速さをも超すのではないかと思われた程だ。

ぴったり2時間、男は話し続けその日のデートはお開きとなった。

帰り際に

「なんか俺ばっか話しちゃってごめんね」

と言われたが

「色々男さんの事知れたし話もすごく面白くて楽しかったですよ、まだまだ話し足りないのでまたご飯行きましょうね」

と心にもない事を言った自分の社交性が憎い。


めでたしめでたし。


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