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東京大空襲の話 その2

祖父、祖母、叔母の三人は何とか墨田川東岸の両国橋東詰めにたどり着いた。避難している人は家財道具やら荷物をしょって押すなへすなの大混乱になっている処へ焼夷弾は落ちてくる、火災の火の粉は降ってくるでとうとう三人は橋のたもとまで押し出されてしまった。しかし両国橋の上を渡るものはいない。なぜなら折からの強い北西風、火災による火災旋風で橋の上に出た者の多くは煽られて前に進めない。そこに火の粉が来るから荷物に燃え移り火だるまになりながら橋から隅田川に飛び込んでしまうのだ。

その時、一陣の火災旋風で当時9歳だった叔母が飛ばされてしまった。あれよあれよという間に両国橋の上を飛ばされて両国橋西詰まで転がっていった。橋の西詰では消防団の人が出て、通行規制をしていたらしく、その方が持っていた鳶口で叔母をひっかけて引き寄せて踏んづけて止めてくれたそうである。叔母が飛んでいくのを見て祖父も祖母も抱えていた荷物を放り出して全力で両国橋を駆け出して行ったという。荷物もなく、火災旋風が収まっていたのだろう、祖父も祖母も両国橋を辛くも渡り切って叔母を渡してもらえたそうである。しかし、生活の場であった墨田川東岸は風下となるため橋は渡れず、そのまま夜が明けて火災が鎮火するまで過ごしたそうである。

しかし無理にでも風上に逃げ切り、しかも隅田川という防火帯のおかげで三人は命を長らえることができたのであった。

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