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1月読んだもの観たもの

『須賀敦子全集』第二巻
エッセイ。やっぱりすごくいい。果てしなさと、悲しさがずっとある。
簡潔でさっぱりした文なのだけれど、どこか核心を避けて迂遠に書かれているような不思議さと、そのエピソードの順番と、記憶の面白さのような構成。

アーシュラ・K・ル・グィン『闇の左手』
小説。分厚い。というのは本が物理的に分厚いのではなくて、物語そのものが、分厚くて骨太。世界が根っこから作られている。ハイファンタジーとかってやっぱり面白いので、ぐぅ〜!おもしろい、となる。
解説のル・グィンがいかにSF界の女王であるかというのを読みつつ、そういやティプトリーJrはSFでは女性の名前が不利になるからという理由でペンネームを男性名にしてなかったかしら、時代的な順番はどっちかな、と気になってティプトリーJrのwikiを読むと、経歴がめちゃくちゃ盛りだくさんだったことを思い出し、暗くて鋭いのでちょっと元気はなくなるんだけど面白いから読みたいな……という気持ちになる。
話はル・グィンにもどり、ル・グィンは『闇の左手』意外にそれらを包括した宇宙の作品を書いているということを知り(解説に書いてあった)、え〜それは読みたい!とおもっているところ。オメラスについて書いたのもル・グィンらしいのを最近知った。
あと、ゲド戦記よむのもいいな〜どうしよかな〜と思っている。

アトランタ シーズン1
ドラマ。いくらなんでも銃すぎ!!と思いながら作業がてら観た。面白いけど拾えてないことたくさんあるので、なんか色々解説してるやつとかネットで漁って読むのも楽しそうだな〜と思う。

『QO』
ライブ映像。KID FRESINOとAマッソのライブ&コントコラボ。ツアー当時になんとなく上演されてたのは認識していたのだけれど、アマプラに上がっているやつを今更観た。ちょっとやっぱりお笑いみる気分と、音楽のライブの気分というのは違うので、難しいな〜と思いつつ、楽しげ〜〜という感じがしてよかった。

『バナナの木殺し』台湾文学ブックカフェ〈2〉中篇小説集
小説。鼓直と寺尾隆吉の対談動画を観ながら風呂に入っていたら、ラテンアメリカ文学が読みたくなってきて、話に出てきた『夜のみだらな鳥』が一番読みたい気分だったが、家にないので、積んでいたこの本を思い出し、手に取った。
「バナナの木殺し」 邱常婷
読み心地が不思議。変な文章なのだけれど、翻訳によるものなのか原文なのかが分からず、というか原文の変な具合に由来していそうな気はするのだけれど、果たして原文のニュアンスがどんなもんなのか、というのが分からない。文体がきちんと立っていればこの不思議さや唐突さも容認できる気がするが、あまりにシンプルな日本語に綺麗に置き換えられてておかしくなっているのか……?とかむずがりながら読むが、ひとまずは『サバハ』みたいな脳裏によぎらせ読む(この中篇集は三人の作家の作品が一人の訳者によって訳されているので、全体をぱらっと観た感じ、訳者の癖という感じがする)。読む前はハン・ガンの『菜食主義者』みたいな感じの想像していたが、ちょっと違った。ただちゅるちゅると話だけがから騒ぎに進んで行って、温度や感情がついてこない感じがする。もっとたっぷりとした文体が良かったんじゃないかな。ちょっとイマイチ。

古井由吉『野川』
小説。先月に引き続いて読んでいる。なんかこれは、古井由吉の作品の中でも特に好きかもな、という確信を深めている。昨年から古井由吉を読み始めたタイミングで、かなり初期に読んだ方の作品なのだけれど、初読からの約一年間で、エッセイズムの概念の理解とかがとても馴染んでよくわかるようになったのもあるし、単純にかなり好きだと思う。それにしてもこれが成り立つのはこの文体があってこそという感じがして、感じ入る。

マリー・ルイーゼ・カシュニッツ『その昔、N市では』
短篇集。めっちゃくちゃいい。
どんよりとして陰気で鋭くて歯切れのいい面白い短編ばかり。酒寄進一さん訳なのだけれど、この短篇集を編んで、訳そうとした人とは?!?!と思って興奮して調べてしまった。そのおかげで、ラフィク・シャミという作家も見つけることができて大喜びである。
カシュニッツの短編全部全部読みたいので、第二弾、第三弾と訳されればいいな……と思っている。

川上弘美『このあたりの人たち』
短篇集。校長先生のあたりから、げらげらくすくすしながら読んだ。バイブスの定まり。
なんというか、なんなんだよこれはとゲラついてしまう。途中から一気にヘラヘラと読んだ。

西谷修・鵜飼哲・宇野邦一『アメリカ・宗教・戦争』
書籍。哲学思想にて、9.11以後の世界を語る対談という感じで、久々に哲学、現代思想系のものを読む。2年前くらいに読んでいたものに近い感じがある。
コロナ直後のBLM時のTwitterの分断→中動態の世界→アレント→プリーモ・レーヴィ→アガンベン『アウシュヴィッツの残りのもの』・ジュネ『シャティーラの四時間』あたりの2年前くらいの読書の流れは、この本の話の近くにある。戦後の思想としての共通認識の中で書かれているものの枠組みをぼんやりと感じる(大学で時間を使っていて良かったと思う部分の一つではある)。
家人が、三人の対談形式で話すならアメリカの専門家一人くらい入れればいいのにね、と言っていたが、なんとなく、アメリカの専門家によって語られるアメリカと、この対談におけるアメリカには位相のずれがあるだろうな、という言語化されない実感があって、単純にそれは思想の話か現実の社会学なのか、ということとか、アメリカについて語りたいのではなく、世界について語るにはアメリカについて語らざるを得ないから語るという差異などがあるだろうと思う。
なので、こういう本を作るにあたって、アメリカについての専門家を入れないということに違和感はあまり抱いていなかったが(学生の間馴染んできたものにも近く)、しかしその指摘を退けるまでの説明ができる言葉は持ってないな、と首を捻った。多分アメリカの専門家による言説をあまり読んでないのでイメージがついてないというのもある。あと全部読むと単純にタイトルの付け方の問題もある
6〜7割くらいの理解度と思いながら、ざざっと読んだ。日本の靖国問題のくだりのところ、もう少しわからないこととか調べて読みたい。

青年団『日本文学盛衰史』
演劇。以前見た『東京ノート』があまりハマらなかったのに続き、あまり好きな感じではなく、平田オリザとの相性が良くないのかも……と思った。
特に笑いの感覚の不一致と、自分が原作を読んでいて作品に敬意があること、主たるテーマの明治期の言文一致の文体の成り立ちと日本の変化について興味があって背景を諸々知っておりそこそこの思い入れがあること、などでうまく噛み合わなかった。
小説家が、ものすごく調べ込んで、過去の小説家に色々言わせたりさせたりするのと、劇作家が過去の小説家にキャッチーなキャラクターをつけて色々言わせたりさせたりするのは(参考文献はものすごくたくさんついていたし、前書きや平田オリザの研究対象からも、そこに深い知識があるのは認識していても)やはり違うな、という感じがしていて、そもそもフォーマットとして、込められる情報量の差異もあり、んむ〜〜〜という感じがした。
葬儀4幕でやる、というのは翻案としてめちゃ良さそうだな〜と思ったけれども、けれども!と思う。
詳しい友人から色々背景を聞きつつ、その友人がおすすめしてくれた作品が再演されたら観に行ってみようかなと思った。

『ゲームオブスローンズ』
ドラマ。さいっこ〜〜〜〜!!!!!完走した!
最後の方、予算パワ!!!パワー!となりながらはしゃぎはしゃぎみた。こういうパワフルクオリティな作品がこの世で成り立つということ自体かなり奇跡!(特に人数がたくさん関わる映像作品は)なので、すごいすごいすごい、という気持ちでぱつぱつ。
足掛け2ヶ月くらいで観たの、話数で考えるとそこそこ短い期間にワーッと観た感じなのに、全然そんなにぎゅうぎゅうに観た、という感じがしなくて(本を読んだり、小説を書いたり、家事も仕事もできてた)もう終わっちゃうの!と悲しみもあった。しかし、ずっと面白いので、強い。終盤に入っても、おっとこのトーンの撮影は見たことがないぞ!こんなカメラワークも!わおー!みたいな感じで楽しめるところがたくさんあり、にっこにこだった。
あれだけ長い作品で登場人物も多いので、好きなキャラクターがたくさんおり、最終章付近ずっとめちゃラブ、という気持ちで画面に目を注いでいた。
結末について賛否両論あったのは、リアルタイム放映時から噂として知っていたんだけど、わたしはかなり満足な視聴後感だった。一緒に観ていた人が、このシーンを観て欲しくて観はじめたところはある、という風に言われたところ、すごくいいシーンだった。ぐっと身を乗り出すシーン。
面白さの角度がめちゃくちゃあり、バイオレンスががっつり、という部分は好みに近くて楽しいな、とか、伏線がめちゃくちゃ張ってあっておもしろいな、とか、各国の気候・建築・衣服・武器・性格、そしてその領主の家訓などがかなり緻密に練られててここの人はこうだよね、ああだよね、とお喋りするのが楽しすぎて最高、とか、あげればキリがないのだが、個人的にはロードムービー的な要素があちらこちらにあり、移動の最中の人間模様がすごく楽しかった。ああいう風に、長い時間が過ぎるために関係性が変わるということが、かなり好みとしてあるなというのを自覚した。
あ、あと、ものすごく、ものすごくキャスティングが最高だった(ダーリオ・ナハーリスの役者の交代だけ、雰囲気がかなり違くて残念だったけど)。
めちゃ最高の作品だった。

古井由吉『野川』
小説。ゆっくり注意深く読んだので、初読よりも構造的な面がよく見える。『聖』の三部作も面白いんだけど、老年期の感じの方が好きかもなぁという実感。
『ロベルト・ムージル』読んだおかげで、古井由吉のいうところのエッセイズムの前提が持てていて、同じ事象を何度も繰り返す書き方に納得がいく。しかも何度も繰り返すことで、井斐の父親と空襲ついてのエピソードにたどり着くというのがすごい。
ノーエ節も象徴的でおもしろかった。
私小説についての考え方については、まだ理解しきれてないところもちらほらあるので、その辺を復習しないと後期の作品読む時に勿体無いな〜と思って、『東京物語考』の再読を検討。
(後から振り返ってみたら、間違えて野川二つ書いてた!)

読み方が変質していて、前より読みかけの本とか、振り返ってちょもちょも読む本が増えた。
monkey vol.03 怖い絵本
樋口一葉『にごりえ』
堀江敏幸『雪沼とその周辺』

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