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これを読んでも、別に株の取引で利益は出せるようにはならないけれど、意味不明で無駄な株の取引は削減することが出来るようになるnote 第十夜【営業のおすすめ商品について】※現代語訳版

ある夜、某所にて・・・

A:
「厳選AI関連銘柄ファンド」は買いだと思う。

B:
なぜ?

A:
今後AI関連銘柄は伸びてくるハズだからだよ。

B:
なるほど。けどそういった「AI関連銘柄に投資するファンド」はたくさんあるハズだけど、そのたくさんある中から一体なぜそのファンドを選んだんだい?

A:
証券会社の担当営業が薦めてくれたからだよ。
なんでも、このファンドのファンドマネージャーは外資系運用会社の優秀な人物らしい。

B:
なるほど。ちなみにこのファンドは過去の運用実績はあるのかい?

A:
いや、ないよ。これから新しく運用を始めるファンドらしい。

B:
ふーん。じゃあこのファンドマネージャーが過去に運用していたファンドの収益実績や運用成績、つまりトラックレコードは見たのかい?

A:
いや、見てないよ。そもそも調べようがないじゃない。

B:
頑張れば調べようはなくはないとは思うけど、面倒なことは確かだね。
けど、「ファンド自体の過去の運用実績がない」「ファンドマネージャーの過去のトラックレコードを知らない」といった状況下において、なぜそのファンドに投資しようと思ったんだい?

A:
その答えは簡単で、担当営業が信頼出来る人物だからだよ。

B:
なるほど。じゃあ彼のどういうところが信頼出来ると思ってるんだい?

A:
彼はいつもハツラツとしていて見ているこちらが元気が出るほどで、そして清潔感があり、更には事あるごとにこまめに情報提供をしてくれる上に、アポイントメントの時間に遅れたことも一度もないからだよ。
そういう人が仕事が出来ないワケがないと思う。

B:
確かにそれは仕事が出来そうだね。

A:
でしょ?そういう人だからこそ、彼がおすすめした商品は良いモノだろうと思ってる。だからこのファンドに投資しようと思ってるんだ。

B:
なるほど。じゃあ君はそのファンドに投資すべきじゃないね。

A:
何だって?「彼が仕事が出来る人物であること」は同意してたじゃない?

B:
そうね。けど僕が考える「彼は仕事が出来る」と、君が考える「彼は仕事が出来る」とは、どうやら意味合いが違ってるようだね。

A:
どういうこと?ちょっと説明してもらえるかい?

B:
OK。まず、君が考える「彼は仕事が出来る」は「彼は『金融商品の目利き』として優れている」ということだと思うんだけど、どうだい?

A:
そうだね。証券会社の営業は「投資のプロ」だからね。

B:
なるほど。じゃあ次に僕が考える「彼は仕事が出来る」だけど、それは「彼は営業という『お客さんにモノを買わせるプロ』として優れている」という意味合いなんだよね。
つまり、君と僕とでは「彼を評価する点」が全くと言っていいほど異なっているということになるね。

A:
ちょっと待って。さっきも言ったけど、証券会社の営業は「投資のプロ」だよね?彼らはマーケットの中枢にいる存在だから、持っている情報の量と質は一般人よりもはるかに多くて、だからこそお客さんに有益な情報を提供することによって今日まで生き残り続けているんじゃないのかい?

B:
じゃあ聞くけど、そういった人たちはなぜ自分たちで売買せずに、わざわざ手間をかけてお客さんを作り、そのお客さんに売買させるんだい?

A:
いやいや、何を今更。証券会社の営業の仕事はそういう仕事だからでしょ?

B:
そうだね。そういう仕事、つまりは「金融商品の売買を仲介することにより手数料を稼ぐこと」が証券会社の営業の仕事の本質であって、極端なことを言えば手数料さえもらえれば、お客さんが儲かろうが損をしようがそんなことは彼らにとっては関係がないんだよ。

A:
仮にそうだとしても、納得出来ないね。だってお客さんに損をさせたら、その担当営業に対する心証は悪くなってそれ以上の手数料を払ってもらえなくなるし、逆にお客さんを儲けさせることが出来たら、信頼を獲得することが出来るからそれ以上の手数料を払ってもらえることが期待出来るじゃない?
つまり、証券会社の担当営業とそのお客さんとの関係性は「Win-Win」と言えるし、それに少なくとも敢えてお客さんに損をさせる理由はないんじゃないのかい?

B:
もちろん、お客さんを儲けさせることが出来たらお互いに「Win-Win」であることは間違いないし、「そのお客さんに特別な恨みを持っている」ということでもない限り、「敢えてお客さんに損をさせる理由」は一切ないね。
ただ問題は「その担当営業は期待値がプラスになりそうな金融商品の提案を出来ているのか?」ってことなんだよ。

A:
どういうことだい?

B:
つまり、君がその担当営業から薦められた金融商品を買って一時的に利益が出たとしても、その後売買を繰り返していった結果、中長期的には利益が出るのかということだよ。

A:
そこは問題ないよ。今までも彼から薦められた金融商品を買ってきたけど、損をしたことは一度もないからね。

B:
なるほど。ちなみに今までの彼との総取引回数は何回なんだい?

A:
4回だよ。

B:
ふーん。ところで君は「コイン投げをして、4回連続で表が出る確率」を知ってるかい?

A:
いきなり何なんだ?まあ答えるけど、「コインが歪んでいない」と仮定すれば簡単な計算だね。「表が出る確率=50%」なので、「4回連続で表が出る確率=50%の4乗=約6%」だよ。

B:
その通り。そして君はそれに該当している可能性が高いんだ。

A:
どういうこと?

B:
つまり、仮にその彼が担当しているお客さんが100人いたとして、その100人のうち「4回連続で利益が出るお客さん」は全体の6%にあたる「6人」はいるということになるね。そして君は幸運にもその内の一人に入っているということなんだ。

A:
つまり、僕が彼からのおすすめ商品を買って利益が出ていたのは、「たまたま」だと。

B:
その通り。ましてや彼の営業としての立ち振る舞いを考えると、彼が担当しているお客さんは100人どころではなくもっと多いと思うから、確率的に考えれば君と同じような人は6人以上はいるだろうね。

A:
なるほど、その点については理解したよ。
けど、「たまたま」ではなくて、彼に「金融商品の目利きとしての能力」が備わっているからこそ4回連続で利益が出来たという可能性も否定出来ないんじゃない?

B:
もちろん、その可能性も否定出来なくはないんだけどね。
それじゃあ聞くけど、彼の今までのトラックレコードは見たことがあるかい?

A:
いや、ないよ。けどもしかしたら「良いトラックレコード」を持っているかもしれないじゃないか。

B:
そうだね。けど逆に「良くないトラックレコード」を持っていたらどうするんだい?

A:
そうだったらイヤだけど、それはあくまで可能性の一つでしょ?

B:
もちろんその通りだよ。まあいずれにせよ、今度彼に会う時には今までのトラックレコードを見せてもらった方が良いと思うよ。そうすれば「良いか、良くないか」はハッキリするからね。

A:
まあ確かにそれもアリかもね。けど、もしトラックレコードが残っていなかった場合はどう判断すればいいんだい?

B:
もしトラックレコードが残っていなかった場合、その「トラックレコードが残っていない理由」については主に2つの可能性が考えられるよ。
1つ目は「会社や彼自身に、売買のトラックレコードを残すという発想がなかった」という可能性で、もしトラックレコードが良かった場合にはそれが「金融商品の目利きとしての実績」になるので、なぜそういった明快な宣伝物を残していないのかは疑問が残るね。
そして2つ目は「『トラックレコードが良くない』などの何がしかネガティブな理由により、敢えてトラックレコードを残していない」という可能性だね。この場合は確信犯的にトラックレコードを残していないのだから、おそらく彼は「金融商品の目利きではない」という可能性が高く、それだから彼に薦められるがままに金融商品を購入し続けると「中長期的には損をする」ということになると思う。

A:
なるほど。つまり「トラックレコードが残っていない理由」について君が言いたいのは、彼は何がしかのネガティブな理由により、敢えてトラックレコードを残していないということかい?

B:
その通り。そうでなければ残さない理由なんてないじゃない?だから君が担当営業に薦められるがままに「厳選AI関連銘柄ファンド」を買うという選択は、おそらく中長期的には期待値がマイナスになる選択になる可能性が高いと思うよ。

A:
よくわかったよ。どっちにしても、ファンドを買う前に一度彼にトラックレコードを見せてもらうよう頼んでみるよ。
それにしても、君は証券会社の営業に何か恨みでもあるのかい?

B:
いや、そんなことはないよ。僕はただ「論理的に考えた結果、蓋然性が高いであろうと考えたこと」について述べているだけだよ。
ちなみに「AI関連銘柄に投資するファンド」は君が利用している証券会社でしか取り扱いがない商品なのかい?

A:
いや、先日ネットサーフィンをしていたら別のネット証券でも「AI関連銘柄に投資するファンド」を取り扱っているのを見つけた。念のためそのファンドのポートフォリオの中身を見たら「厳選AI関連銘柄ファンド」の想定ポートフォリオとほぼ同じだった。

B:
なるほど。じゃあそれぞれのファンドの「買い付け手数料:信託報酬」はどのくらいだったんだい?

A:
「厳選AI関連銘柄ファンド」は「買い付け手数料=3%:信託報酬=2%」で、ネット証券の「AI関連銘柄に投資するファンド」は「買い付け手数料=1%:信託報酬=1%」だった。

B:
ふむふむ。じゃあもし担当営業の彼がトラックレコードを残していてそれが「良いトラックレコード」であったらば、君は彼から「厳選AI関連銘柄ファンド」を買うんじゃなくて、ネット証券に口座開設をして「AI関連銘柄に投資するファンド」を買うことが、プラスの期待値を出すにおいては合理的な判断になるね。

A:
待て。それじゃあ彼の面目が丸つぶれじゃない?何よりも道義に反するよ。

B:
君が「より多くのプラスの期待値を出すこと」よりも「彼の面目をつぶさないこと」に重きを置くんだったら、わざわざ高い買い付け手数料と信託報酬を払って彼からファンドを買うのは良いかもね。
けど、彼からファンドを買わなかったとしても、それはまず間違いなく道義には反することではないよ。

A:
なんでそう言い切れるんだい?

B:
なぜかって「君がより多くのプラスの期待値を出すこと」を彼が心の底から願っていて君に接しているのならば、「買い付け手数料と信託報酬が低い同様のファンドを、別の証券会社で買うこと」は合目的的だからだよ。少なくとも「同じものを買うのに、わざわざ高い買い付け手数料と信託報酬を払う」というのは、よほど君がマゾヒスティックでもない限りは正当化されないんじゃないかい?

A:
けどもしそんなことをしたら、彼は今後何も教えてくれなくなるんじゃないの?
仮に彼が「良いトラックレコード」を持っていたとしたら、それは合理的な選択とは言えないんじゃない?

B:
もちろん。けどもし彼が今後何も教えてくれなくなったとしたら、それは少なくとも彼は「君がより多くのプラスの期待値を出すことを願ってはいない」という証拠になるだろうし、もっと言えば「君に利用価値を見失った」という証拠にもなると思うよ。

A:
言ってることはわかるけど、改めて君の性格の悪さにはびっくりするよ。

B:
それは認めざるを得ないね。けど僕に言わせれば、君は良い人過ぎるんだよ。
そんで君の言うことにも一理あるから、さきに言ったことは撤回するよ。その代わりと言っては何だけど、担当営業の彼の機嫌を損ねない最低限度の金額分だけ彼から「厳選AI関連銘柄ファンド」を買って、それ以外のなるべく多くの金額分の「AI関連銘柄に投資するファンド」をネット証券で買うことをおすすめしよう。

A:
わかった。けどそれは、彼が「良いトラックレコード」を持っていた場合に限るってことだね。

B:
その通り。そしてもしそうでなければ、今後彼と取引する必要はないと思うね。


【まとめ】
・証券会社の営業とは「投資のプロ」ではなく、「お客さんに金融商品を買わせるプロ」である。
・証券会社の営業の仕事の本質とは「金融商品の売買を仲介することにより手数料を稼ぐこと」である。
・考えるべきは「その担当営業は収益期待値がプラスにある提案をしてきているのか?」「その担当営業から薦められた金融商品を買って一時的に利益が出たとしても、その後売買を繰り返していった結果、中長期的には利益が出るのか?」ということ。

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